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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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今日の喫茶店は危険な会話が聞こえるんです

 そんな風に火竜さんと和んではいたのだけど。

 喫茶店を開けるということは……遭遇戦が発生するのはわかりきったことだった。

 まず開店と同時に、扉の前でフレイさんが待っていた。


「ふ、フレイさん、おはようござ、ございます」


 驚いてちょっと噛んだ。

 私も来るだろうことを想定しておけばいいのに、頭が相当混乱したままだったのか、扉の札を開店に変える時まで忘れていたのだ。


「おはようユラさん。体調は?」


 フレイさんはそう言って、何気なく手を伸ばしてくる。けど待ってください、他にも待ってるお客様が!

 思わずのけぞって手を避けた私に、フレイさんが笑ってくれる。不愉快に思われなくてよかった……。


「元気そうだね。昨日の疲れはもうないのかい?」


「へ、平気です! あ、どうぞお入りください」


 もろもろを誤魔化すために、さっさと中へ入ってもらうことにする。


「ユラちゃん、いつものー」


「俺もいつものー」


「あ、じゃあ俺も同じそのいつもので」


 毎朝のようにやってくる二人組の騎士さんと、そのお友達らしい一人が注文してくれる。

 はい、普通の紅茶一杯ですね。

 やりたくない訓練でも、前の日に飲みすぎてだるくても、紅茶を飲むとやる気になれるということで、店が開いていれば週に四日は来てくれる。ありがたいことだ。


 でもそんなに通って懐は痛まないのかと心配になったけれど、騎士さんのお給料はそこそこいいので、お金の心配をしたこともあるけれど、問題ないらしい。

 やはり騎士さんは、田舎の小間物屋とは金銭感覚が違うようだ。

 続けてフレイさんが言う。


「今日は少し変わったものにしようかな。オレンジティーで」


 魔力の回復が必要なわけではないようだけれど、違う味のものをご所望らしい。


「ご注文ありがとうございます」


 定型通りの受け答えなら、問題なくできた。うん、変な話には絶対ならないような内容だからだろう。

 そうして紅茶の用意をしながら、考えてしまう。


 私、どうするべきなんだろう。

 フレイさんとは頬が触れたり、抱きしめられたまま離してくれないままになったり。団長様はもう、もう……。思い出すだけで顔が真っ赤になりそうだ。

 とにかく通常に戻らなければ、という焦りを感じてる。


 それに恋愛的なアプローチだと考えるのなら、私のこと……遊びだと思っている可能性だってぬぐえない。

 好きだとそう思った時に、お互いの間に未来があるの? って考えてしまうから。

 団長様は言うに及ばず。

 フレイさんは今でこそ国はないけれど、もし魔女のことを無事に解決できたとして、国を復興するとか言い出したら……。ついていけるほどの気持ちが、自分にあるのかどうか。


 どっちにしろ、田舎の小間物屋の娘では、高貴な人の身分の低い愛人がせいぜいだ。

 頭のいい人達だから、二人がそのことを考えないわけがない。

 だから魔女のことが、フレイさんのおかげでどうにかなるって聞いても……。素直に好きなのかどうかを考えていいのか、不安になる。


「かといって考えを聞かせてくださいとか、聞けないよ……」


 万が一にも恋愛的意味で私のことを好きじゃなかったら、そんなことを聞いた私ってただのおバカさんになってしまう。


 だとしたら、どちらかをはっきりと好きになる前に、断る?

 まず団長様の場合、言う前に私の気持ちを見透かして、本当に犬扱いのつもりだったんだと謝られるかもしれない。

 それならそれでいい。冗談だったんですねと笑って、まだそばに居られる。


「フレイさんは……」


 フレイさんとは団長様のような繋がりがない分、嫌だと言ってしまった後が不安になる。魔女のことに対応するのにも、ぎくしゃくしそうで……。

 なんて考えているうちに、蒸らし時間が終わる。

 お茶を注いでいたら、ものすごく気になる会話が聞こえてきた。


「フレイ隊長……なんかしたんですか?」


 あの三人はフレイさんとは別の隊だけど、わりと話しかけやすい間柄みたいだ。


「何のことだい?」


「ユラちゃんがフレイ隊長に、ちょっと挙動不審ていうか……」


「まさか、手、出しちゃったんですか?」


「!?」


 思わず紅茶のポットを落としそうになった。

 ちょっ、手を出すってどういうこと! 何もされてませんよ!

 人聞きが悪くないですかね。でもフレイさんは否定するどころか。


「まだちょっかいを出しているだけだよ」


「え、俺フレイ隊長なら、即毒牙にかけるものだとばかり、いてっ!」


 発言者は誰かに頭を叩かれたらしい。

 顔が熱くて手が震えそうになった私は、よくやったと快哉を叫びたいぐらいだった。

 どうも私に聞こえることを気にしたみたいで、それからはぼそぼそとした小声の会話になった。


 だけどフレイさんの言葉で、頭がいっぱいになる。

 それでも飲み頃を逃すなんて論外である。

 注いだばかりのうちに紅茶を運び、なんとか配り終わってほっと一息つく。


 その後は何事もなく、騎士さん達は巡回へと出ていき、私は後片付けをしようとしたのだけど。

 カップに伸ばした手を、まだ残っていたフレイさんが掴んだ。


「え」


「ごめんね。変な話が聞こえたんだろう?」


 フレイさんは気遣ってくれたらしい。でも手を掴む必要はないはずで。そもそもこのお話を口に出さないでいてくれた方がもっと良かったかもしれないなと。


「あ、あの、気にしてませんからっ、フレイさんもからかわないでくださいね」


 私はなんとかそう、冗談めかして言ってみたのだけど。


「冗談じゃないよ?」


 がっちりと手を握りこんで言う。


「ま、またまた……。あっははは」


 これ、なんて返事をしたらいいんだろう。何を言っても、なんかダメな気がする。 笑って誤魔化そうとしたけれど、フレイさんが続けた。


「昨日は君が大変な状態だったから、何も言わなかったけど……」


 フレイさんは少し考えるような顔をしてから、掴んだ手を引き寄せて、甲に口づける。


「ふ……!」


 止めるいとまもなかった。


「続きは今度また。これ以上いじめちゃかわいそうだからね。とりあえず今日は俺も仕事があるから行くよ」


 そう言って、目をまん丸にする私の頭を撫で、フレイさんも喫茶店を出て行った。

 ……再起動がかかりません。

 呆然としていた私の側に、火竜さんがやってくる。


「だから魔女よ。そろそろ求愛行動ぐらい慣れよ。そなた人の中では、別に子供というわけでもあるまい?」


「うぐ……」


 思考力が戻ってきたのはいいけど、火竜さんの言葉で落ち込む。

 もう二十歳なんですよ。田舎では行き遅れとか言われてもおかしくない年齢だけど。でも。


「私、もうちょっと地味な恋愛を想像してたから!」


 田舎に戻った後で、小間物屋にきてくれるお客さんとか。

 紅茶を作るようになってからは、お店に紅茶を置いてくれるという親切な小さなお店の商人さんとか。

 そういうつもりで……。

 と独り言をぶつぶつ言っていたら、喫茶店の扉がノックされる。


「あ、はーい開店しております!」


 応じると、扉を開けて入ってきたのはイーヴァルさんだった。

 イーヴァルさんは私の顔を見て、一つうなずいて言った。


「ああ、全快したようですね。それではこれを」


 後ろに数人の騎士さんが待機していたようで、大きなかごを三つほど運んでくれる。中は全部ヘデルの葉。新たに摘んできてくれたものだろう。


「あなたが加工時に葉だけを必要としていると聞きまして、何人かに葉をより分けさせておきましたよ」


「い、イーヴァルさんが、神様に見える!」


 葉をむしるの、けっこう大変だったんです。

 私は両手を握りしめ、イーヴァルさんに感謝した。


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


「……そんなに喜ぶことではありませんよ。これから紅茶を大量に作るのでしょう? 葉をダメにしないためにも、今日は夕食直前まで作業をすることになるのでは?」


 つい、と視線をそらしたイーヴァルさんがそんな指摘をしてくる。うん、照れ隠しだな。

 しかし恋愛事から離れた会話ができて、私はほっとした。


 その後、めちゃくちゃ大量生産した。

 お湯をわかしたり、火竜さんの温風があったりで、お店の中は熱くなったので、一度窓を開け放して、息をつく。

 するとその窓から火竜さんが出て行った。


「少々空を飛んでくる」


「いってらっしゃーい」


 私は手を振って見送る。まだ馬ほどの大きさしかない火竜さんでは、大型飛行動物というか魔物相手に負ける可能性があるから、飛ぶだけ飛んだら帰ってくるだろう。

 万が一の場合には、団長様の契約の魔法もあるのだし。

 大きく旋回しながら飛ぶ火竜さんを見ながら、ため息をつく。


「誤魔化されてくれてる間に、じっくり考えるしか……」


 そんなことをつぶやいた私だったけれど、実は悠長にしていられる時間は短いのだということを、まだ知るよしもなかった。

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