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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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※騎士はユラ係に再就任した

 話し合いが終わった後、フレイは少しだけ後ろ髪引かれる思いで、第五棟を出た。

 そうして息をつく。


「ようやく一歩進んだ……か」


 とにかくユラが魔女だということを知っていると、彼女に知らせなければ話にならない。守るにも、ひっそりとということになってしまう。

 ……ずっと付きまとっているような状態になったら、さぞかしユラに不気味に思われてしまいかねない。


 今日は、朝からイドリシアの人間が動いている気配を知り、巡回を隊員達に任せてユラの動向を追うことにした。

 一応任務を逸脱するので、イーヴァルの方に許可を申請しておく。


「イーヴァル!」


 第一棟から出てきたイーヴァルを捕まえる。


「今日は休みにしたいんだ。先日取り忘れた分、回しておいてくれ」


「ちょっ、あなたはまた唐突に……。今度は何が理由なんです?」


 フレイが度々、面倒な気分になると休みをとって出かける癖があるせいか、イーヴァルがあきれ顔で言う。


「今日は、たまに休みをとってもいいかと思ってね。少し体調がおかしいから」


 そう言って笑みを浮かべると、イーヴァルは胡散臭そうなものを見る表情になる。


「……恐ろしく元気そうですがね?」


「だが、休みが余っているのも、今は緊急事態が起きていないのも事実だろう? 問題があればすぐ戻るから」


「……まぁわかりました。部隊の人間が了解しているのなら、許可しましょう」


「ありがとうイーヴァル」


 礼を言うと、イーヴァルは疲れたようにため息をついた。


「どうせユラが心配で、見に行くのでしょう?」


 ……鋭い言葉に、フレイは頬がひきつりそうになった。


「リュシアン様も表には出さなくても、時々気になっているそぶりはしますからね。万が一の保険という意味で、フレイが様子を見に行くのは悪くはないとは思いますが……」


 イーヴァルは「しかも休暇を使うというのですから、ご苦労なことです」と言い添える。


「でも一つ言っておかなければなりません、フレイ」


「なんだ?」


 聞き返したフレイに、イーヴァルは一度息を吸ってから告げた。


「ユラの件については、あなたに味方できませんので」


 何かと思えば、そんなことを律義に宣言してきた。フレイは思わず笑ってしまう。


「おかしいでしょうか?」


「いや、真面目だなと思って。普通そういうことは言わないだろう? 俺だって団長が最優先のイーヴァルが、そんなことをするわけがないってわかってた」


「そ……そうですか。一応、親しくしていた以上はこう、知らないと不公平というか、よくない気がしたので言ったのですが」


「主従そろって堅苦しいから、仕方ないんだろうな」


 こうと決めたら曲げない主従だ。

 団長が結婚をしない理由はよくわからないが……。そう、そこが問題だ。


「そもそも団長は、貴族女性でなければいいということなのか? 今までは町の女性にも興味を示したことはなかったが」


「理由はお教えしませんし、私もどうしてこうなったのかはさっぱりですが」


 イーヴァルは生真面目そうな表情で言う。


「とりあえず言うべきことは言いましたので」


 イーヴァルはフレイの前から立ち去った。


「本当に忠義者だよな……」


 イーヴァルを見ていると、自分を庇って死んでいった護衛や、使用人達のことを思い出す。

 だからなおのこと、ツンケンした態度でもフレイは気にならないんだろう。


 ふっと息を吐き、フレイは先に森へ向かったユラを追いかけた。

 ユラを見つけると、どうやら火竜に餌となる火の魔法を与えているところだった。おかげで二人ともにフレイに気づかなかったのだが。


「……あー」


 フレイでもそんな声を漏らしてしまうような惨状だった。

 まず火の魔法をポコポコと出しすぎというか。どうやったらそんなことができるんだという勢いで、次々と火球が産まれていく。

 火竜もそんな炎では死にはしないものの、小さな体になっていては、さすがに周りを囲まれて身動きがとれなくなっていた。

 ユラはそれを見て、焦って水をかけて消そうとしたのはいいが。精霊を一気に操りすぎて、自分まで水をかぶってしまっていた。


 さすがに風邪をひくだろうと、心配して出て行けば、ユラはあわてて子供みたいな言い訳を口にした。

 魔女だということを言いたくないあまりのことだろうが、もう少し何か言い訳を考えてほしいような気もする。


 けれどそんな彼女と火竜は、意思の疎通だけではなくお互いを思いやる気持ちまで発生していたようだ。

 まさか火竜が、温かい程度のブレスでユラの服を乾かしてやるとは思ってもいなかったので。

 でもフレイにとっては、それは行幸だった。


 一番水を吸っているマントを外させてみたら、ユラの服が少し透けていて……。

 火竜に早く乾かしてくれと思いながら、視線を逸らすしかなかったのだ。

 けれどそのおかげもあって、ユラは早々に衣服を乾かし、風邪も引かずにすみそうだと思った時だった。


 精霊が、近くにいると教えてくれた通り、イドリシアの人間が現れた。

 それはフレイに接触するためではなかった。

 恐れていた通り、彼らはユラの命を狙っていた。せっかくメイアを魔女にしたのに、何度となくユラの行動によって、魔力の獲得などを邪魔されてきたからだ。

 この先も行動を阻害されると思い、先に始末することにしたのだろう。


 戦うことにためらいはなかった。

 すでに故郷を同じくした人を、殺しているのだから。

 説得を聞き入れることもなく、こちらを殺そうとしてくる者を相手にためらって、ユラを殺されたくはなかった。


 だが、ユラがそのことで調子を崩すとは思わなかった。

 苦しむ彼女の姿に、罪悪感ばかりが沸き上がった。こんな風に辛い記憶を植え付けたのは、自分の故郷の人々だと思うと……。


 けれどこの一件のおかげで、ようやく彼女の秘密を知っていると告げることができた。

 おそらくは団長と二人だけの秘密だったのだろう。そこに自分も割り込むことができたこと。そして、ようやく大っぴらにユラを守れるようになることに、ほっとした。


 いつまでもイーヴァルに、うそをついて休むのも限界があるのだから。しかも目を離したすきに、ユラが怪我をするようなことがあっては困る。


 もちろん団長にもそのことを伝えた。

 おかげで、もう一度ユラ係としての立場に戻ったような状態になったわけだが。


「……もう少し、足りないかな」


 話し合いの中でも、ユラは何度となく団長に視線ですがっていた。どう答えたらいいだろうかと。

 まだフレイは、ユラの秘密を全て明かされていないのだろう。

 いくつか隠されている、と感じることはある。

 でもそれすらも、おいおい知ることができるだろう。


「まずはもう少し、ユラさんが俺に慣れてくれるようにしなくては」


 抱きしめても嫌がりはしないので、フレイのことは嫌いじゃないのだろう。でもまだよそよそしい感じはある。

 もう少し時間をかけて、近づいていけばいいとフレイは思うのだった。


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