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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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ひと騒動の後に 2

「フレイさんが同郷の人だと、敵もわかっていたんです。自分達に協力しろって、説得してきて……。でもフレイさんは、きっぱりと断っていました。その後に私、フレイさんの故郷のお話を聞いたんです。戦争から逃げる時にお母さんも亡くしたと。それにフレイさん、貴族の血縁だったらしくて、領民を守りながら逃げたことも聞かせてくれたんです」


 だから、フレイさんだということにプラスして、彼の言葉を信じていいと思った。


「故郷のことを大事そうに話してるフレイさんが、生き残った同郷の人を捨てるって、すぐには割り切れなかったんじゃないかと思います。それでも実行してくれたことだけでも、私は十分だと思いました」


 今になってみればわかる。

 あの時拉致犯が「悲しむ」と言っていた「あの方」は、メイア嬢だったのかもしれない。王族同士だし、戦争を逃れてきた先のアルマディール領で、フレイさんは彼女と会っているはず。

 シグル騎士団のお城で、二人が話している気配が何もなかったのは少し気になる……。


 ん? もしかしてメイア嬢が一度、夜中に誰かと会っていたようだけど、あれはフレイさんだった?

 団長様は一度決めると徹底するタイプみたいだし、近寄らないだろうから、フレイさんだったのかも。

 だとしたら、彼女が魔女かもしれないと教えるのは、何か根拠がありそう。


 あの時にメイア嬢から、魔女のことについて協力を求められてる可能性もある。

 だからこそ、メイア嬢のことを告発するのなら、本当に故郷の人々と決別する気持ちがあるんじゃないかな。


「何よりフレイさんは、本気で拉致犯と戦っていました。私、魔女だとバレるのが怖くてあまり何もできなかったんですけど、拉致犯は一人が身動きとれないほどに追い詰められてから、たぶん味方を逃がそうと自害して……」


 まだ、思い出すと気持ちが悪くなる。

 目の前で実際に胸を一突きにする場面を見てしまうと、自分の記憶を思い出すよりも、ショックが強いみたいだ。


「わかった、ユラ。とりあえず茶を飲め」


 団長様が、カップに注いだお茶を出してくれる。


「ありがとうございます」


 気力が戻れば、恐怖も少し遠ざかるだろう。私はおとなしく紅茶に口をつけた。

 ……あったかい紅茶に、ほっとする。

 考えながら話しているうちに三分以上経ってしまったのか、少し渋かったけれど、でもそのおかげでよりしゃっきりした気がする。


「火竜がいるから、万が一の時にも餌がいなくならないよう守るだろうと思って、私は安心していたんだが……。人が襲撃した上、予想外なところでお前がダメージを受けるとは思わなかった。もっと気を遣うべきだったな」


 団長様が「すまない」と言いながら、隣に座って私の肩に触れる。

 そんな優しいことを言われると、なんだか泣いてしまいそうだ。


「しかしフレイに任せることになるとは」


 とそこで、団長様がフレイさんに助けられたことを気に入らなさそうに言う。


「え、あの、でも団長様はお忙しいですし」


「私がそうしたかったんだ」


「…………っ」


 肩に触れていた団長様が、私の首に触れる。

 まるで、そこにかけた従属の魔法の名残を探すように。

 捕まっていることを思い知らされるような、甘い感覚に首をすくめると、団長様が小さく笑う。


「お前を飼うような真似までしたのに、救えないのは私の不覚だ。そのせいで、フレイの方に懐くようなことがあれば、ますます飼い主としてふがいない」


「あの、団長様。契約は何があってもそのままですし……」


 しかも私、魔女だとバレても逃げずに済むかもしれないのだ。

 フレイさんが知っているらしい、元に戻す方法さえあれば、団長様の契約を無理に解除してまで逃げることはない。

 それを話すと、フレイさんが魔女に詳しいことをいぶかしまれて、根掘り葉掘り聞かれそうなので、黙秘を貫くけど。


「だが、フレイにはだいぶん懐いてしまっているだろう」


「懐くというか、よくして頂いたら感謝しますし、信頼するでしょう? 団長様だって、フレイさんのこと好きじゃないですか」


 私知ってるんです。どうのこうのと言って、団長様ってフレイさんのこと配慮してるんですよ。

 以前、フレイさんが私のことで心配性になった時だって、気にしないって選択肢もあったのにしなかった。

 あとたぶん、イーヴァルさんも団長様がフレイさんのことそれほど信用してなかったら、あんなに親し気にしないと思うんです。あ、イーヴァルさんてなんかドーベルマンとかそんなイメージかも。


「信じていないわけではないがな……。私以上に懐かれるのは気分がよくない」


「え……」


 団長様、そんなはっきりとおっしゃるとは。困った。とにかく保護者に不信感を抱かれるというのはよくないので、私は言った。


「あの、私が一番隠し事をしていないの、団長様ですよ。フレイさんには、魔力量のことまでは言ってませんし」


 すると団長様が、少しうれしそうな表情をした。

 わかりますけどね。これが本物の犬猫だったら、飼い主以外に懐いたら寂しいし嫉妬するしで、私だって「きーっ」て気持ちにはなると思うんです。

 私、人間なんですよ。でもそこを主張するのも、後が怖い気がしてできない……。

 なんかこう、それを言い訳に、お互いにぎりぎりの線にいるような変な感じがするのはなぜだろう。


「とはいえ、任せるしかないのは確かだ。ずっと側についていてやれないからな」


 えー、これは心配されているんだよね?


「あの、ご心配をおかけしまして……。でも、フレイさんに知られた分、魔法をばしばし使って撃退することも可能になりましたので」


 今までは知られたくなかったから困ってしまったけれど、今度は遠慮しなくていい。それなら私でも勝ち目があるだろう。そう思って言ったのだけど。


「そう思いたいのなら、それでもいいが……」


 団長様はそう答えて、自分のカップの中身を飲み干して言う。


「とりあえず今日は、それを飲んだらすぐ眠るといい。まだ本調子ではないだろう」


 よくお見通しで……。まだちょっとふらつく。だいぶんよくなったんで、バレないと思ったんだけど。


「全然大丈夫ですよ。でも早く寝ますね」


 言うことを聞くのが一番だろう。そう思い、私はちょうどいい温度に覚めてきたお茶を一気に飲み干して、立ち上がる。

 でもそこで団長様が、「階段から落ちられては寝覚めが悪いからな」と言って、私の腕を引き、あっという間に抱え上げてしまう。


「団長様!? 歩けます、歩けますよ!」


 さすがにお昼の出来事から、だいぶん時間が経っているので、歩くだけなら大丈夫なのに。


「それにこんなところ、オルヴェ先生に見られたら、恥ずかしさで死ねます! 引きこもります!」


 だって間違いなく、オルヴェ先生に何か聞かれるじゃないですか。別に人事不省になっているわけでもないのに、建物の中で抱き上げて運ばれるだなんて!

 ものすごい親切心から、付き合っていると勘違いされて配慮なんてされたら……。部屋の中で七転八倒して、もう人前に顔を見せられないです。


「わかったわかった」


 団長様はそう言いながら私を降ろしてくれることもなく、風の精霊を一体呼んで指示する。


「オルヴェの気をそらしておいてくれ」


 配慮するのはそこじゃないですよおおお!

 叫びたかったけれど、絶句してしまって何も言えない。団長様、自分がすると決めたら絶対譲らない系ですよね意外と!


 暴れたら団長様に怪我をさせてしまうし。

 そうして困っているうちに、部屋に到着してしまう。

 オルヴェ先生に見られるのが怖すぎて、部屋の中に入るとほっとした。

 そうして改めてお礼を言おうとしたのだけど。


 団長様は私を寝台に降ろし、転がった状態の私の顔の横に手をついてくる。

 起き上がれないし、顔、近……っ。ていうかこの体勢は不味くないですか!?

 なんでどうしてと思っている私に、団長様がささやいた。


「もし眠れなかったら、近くにいる精霊にそう言うといい。必要なら、強制的に眠らせに来る。夜中にオルヴェをたたき起こしたくはないだろう?」


「え、はい……」


 そうか、昼間の記憶が濃すぎて、寝つきが悪くなるんじゃないかと心配してくれているんだ。


「わ、わかりました」


 でもこの体勢で言うことじゃないですよね? と思いながら答えると、団長様は満足そうに微笑んだ。


「今はまだ、誤魔化されておいてやる。まだきちんと、私の方に懐いているようだからな……おやすみ、ユラ」


 そう言った団長様は、私の額にわずかに唇で触れて離れていく。

 何も言えないうちに、団長様はさっさとその場を立ち去ってしまう。


 もちろんこの日、拉致犯の自殺のことよりも団長様のしたことの記憶が強すぎて、思い出しはしなかったものの寝つきは悪くなったのだった。

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