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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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※騎士の見たものは

 正直、魔女については不明確なことも多い。

 だからこそフレイは、メイアが魔女になるだの、イドリシアの民が魔女を作り出そうとしていたことに、反対だったのだ。


「まさかこんなことになるとは……」


 火竜に向かって行く騎士達や団長に、精霊の盾の魔法を発動したのはユラだろう。魔女ならばそれぐらいできて当然。しかし上級魔法までいつ覚えたのか。

 それにユラを乗せ、自分がやったふりをして魔法を使わせた団長は、彼女が魔女だということを伏せた上で、ユラの思う通りに行動させようとしたのだろうか。


 そんなことを考えていると。団長の竜の上に、精霊が現れた。

 フレイは唐突な現象に、目を疑った。

 遠目だから錯覚を見たのかもしれないと、フレイは二度も瞼をこすったぐらいだ。


 でも見える。ウサギの形をしているあれは、氷の精霊。おそらくはこの山周辺に住んでいる者達だ。

 中にゴブリン姿の精霊も混じっているが、それも氷の精霊だろう。


 あのゴブリン姿の精霊の変種については、精霊に詳しいイドリシアの民でもよくわからないままなのだ。

 数年前に増え始めて……それが、イドリシアが侵略された時と前後するので、その影響ではないかと言われていたが、会話ができない精霊なのでどうにも原因がはっきりしない。

 他の精霊達も「わかんなーい」としか言わないのだ。


 そして精霊達が自分でも精霊の盾をかけ始めたように見える。

 そのせいでヴィルタの上は精霊の過密状態だ。ヴィルタも滞空しながら、困惑した表情を見せる。

 そうして精霊達は――驚くことに、火竜に向かって行き、攻撃を始めたのだ。


「はぁっ!?」


 思わず声が出てしまった。飛びトカゲに乗って離れているおかげで、近くの騎士にも聞こえなかっただろうが。

 でもみんな、この異常事態には気づいている。

 なにせ火竜が、姿を隠した敵と戦っているようにしか見えないからだ。

 一匹でじたばたしている火竜の姿は、どこかこっけいだ。

 フレイの隊の騎士達も、困惑した表情になっているのが遠目に見える。


「団長……あなたこれ、どう誤魔化すつもりですか……」


 それを考えると、他人事ながらめまいがした。

 とにかく精霊が戦い、火竜の防御が崩れた。すると団長は、表情も変えずにさっさと火竜を攻撃しろと指示をしてくる。


「もう、知りませんよ!?」


 フレイは何も見なかったことにして、火竜に突撃をする。

 火竜の方も黙ってはいない。ブレスを吐くが、フレイよりも火竜の側近くにいた精霊の、魔法の盾によって完全に防がれた。


「……効果が強すぎでしょう、ユラさん」


 火竜のブレスをあっさり防げるあたり、半端なさすぎて笑いがこみ上げてきそうだ。

 きゃっきゃと喜んでいる、ウサギ型とゴブリン型の精霊の影響もあるかもしれない。

 そうして火竜にダメージを与え、紅茶も飲ませる……もとい、火竜の口に投げ込むことができた。


 団長は、紅茶を飲ませることで、導きの樹の精霊の時のように契約を解除できると言っていた。

 けれどユラを連れた団長が山頂へ降下したことで、それは違うとフレイは気づいた。

 竜との契約を破るのに、おそらくはユラの魔力で相手の契約を壊すつもりなのだ。


「止めるべきか……それとも……」


 フレイは迷う。

 ユラが魔女だとバレてしまうのではないだろうか。それが心配だった。

 けれど団長が認めていることを考えると、やらせるべきなのかもしれない。きっと、何か考えがあってのことだろう。


「俺も……やっぱりイドリシアの考えから離れられないんだな」


 精霊の言葉を重視し、国の方針を決めてきた国イドリシア。だからこそ小国でも長い歴史を持ち、精霊の力を欲したタナストラ王国に侵略された。

 あの時も精霊達は、逃げるフレイ達を助けてくれたのだ。

 そんな精霊達を統べるはずの、精霊王の剣を持つ団長の言葉に、どうしてもフレイは従わなければという気持ちと、信頼を感じてしまう。


 だからと地上へ降りつつも、離れて見守ることにしたフレイだったが。

 精霊が騒ぎ出す。

 ユラを守るように集まった精霊達とは別に、氷の精霊達がわちゃわちゃと駆け回り始めた。


『ユラがあぶないよ』


『竜はしかたないけど』


『ユラがあぶないよ』


 一体何が……と思い、フレイは周囲を見回す。

 そして山頂から少し下った場所に、精霊がいるのを見つけた。氷の精霊ではない。岩の精霊だ。


「リュシアン様!」


 イーヴァルが団長の方へ駆けて行く。おそらくユラが、契約解除を始めたのだろう。契約の魔法に何か仕組まれていたのか、火竜の体から精霊力が漏れだして赤い光となって拡散していく。

 そちらは団長に任せることにした。

 今、自分がすべきはそれではない。

 フレイは岩の精霊が何かをするかもしれないと感じ、叩き斬る。


「フレイ様!?」


 岩の精霊によって、姿を岩に同化させることで隠れていたイドリシアの魔術師が、姿を現した。


「お前、何をしようとしていた?」


 剣を降ろして聞いてみれば、魔術師は愛想笑いを浮かべて答えた。


「我々の計画を邪魔をしてきた者を排除するのです。さもなければ、メイア様のご覚悟が水の泡になります。ようやく邪魔者を見つけましたが、あの娘……生き残った実験体なのです。あのままでは彼女もいずれ、増えすぎた魔力を制御できなくなって、周囲を破壊しかねない」


 魔術師は自信に満ちた表情で言い切る。


「王が魔女はただ一人だけ。他は存在してはならぬとおっしゃるのです」


「王? 大伯父上は死んだはずだろう!」


「今はそれを論議している時間はありません。邪魔をするのなら、フレイ様とて容赦はしません」


 魔術師は既に用意していたのだろう、足下に描いた魔法陣に魔力を与えた。

 このままでは、ユラが危ない。けれど魔法陣を壊すだけではだめだ。この魔術師を殺さなければ……。

 フレイは覚悟を決めた。

 ユラを。これ以上犠牲にさせるわけにはいかない。


 そして剣を振り被った時――魔法陣の中から闇が浸み出した。

 闇は魔法陣の中を円筒状に覆うようにして魔術師を飲み込む。


「……ひぎゃあああああっ! 王よ、なぜ!?」


 魔術師の悲鳴に、フレイは戸惑う。

 一体これは何なのか。魔術師は殺されたのか? 一体誰が、何の意図で。

 ただわかるのは、圧倒的な魔力だ。

 普通、魔力量というのは魔法で調べない限りはわからない。けれどここまで強さを感じる存在、そしてこの感覚をフレイは一度だけ経験していた。


 変化はごく数秒のものだった。闇はすぐに引き、最後に数秒、闇色の長衣を着た人物の後ろ姿に変化する。

 その姿もふいに消え、その場には何も無くなった。


「まさかそんな……」


 フレイはぼう然と魔法陣の名残を見つめた。

 あの存在を見たことがあった。一度だけ。

 イドリシアの王宮深くで。王位継承権がある者は一度は経験するべきだという定め通りに、拝謁した存在。


「精霊王……」


 でもあの漆黒の姿は何なのか。

 わからないながらも、いつまでもその場にいるわけにもいかなかった。

 振り返れば、火竜は小さくなりながらも存在し、ユラは無事に契約を解除することができたようだった。

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