表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

148/259

それは後悔ではなくて2

 びっくりした。

 でも手首を掴まれていと、牽引されている気持ちになるからだろうか。どう言っていいのか迷う。

 これたぶん、人に見られたら恥ずかしい。私の年齢では、さすがに子供のふりはできないし。勘違いされる前に、離してもらわないと……。


「あの、フレイさん」


「嫌じゃないなら、このままでいてくれないか?」


 そう言われると、嫌とは言えない。

 嫌がるという行動をするのは気が引ける。それに嫌悪感なんてものはない。

 ただ守ってもらうような場面ではないから、戸惑う。一体どうして?

 疑問をかかえながらも数秒そのままでいたら、フレイさんが口を開く。


「役目を外されたことを、話しただろう?」


「はい……」


「……改めて考えたんだ。君のこと、自分のことを。団長が俺から役目を外されたことは、そういうきっかけになったかな」


 私はハッとする。同じ気持ちになったことがあるから。

 団長様に言われたことで、私は進んで魔女になろうと決めた。自分にとって必要なものが何なのかが、わかったような気がして。


「俺は確かに君に近づき過ぎた。今でも君の行動に不安を感じる気持ちは消せなくてね。それがただ、守れなかったことへの後悔だけなら、君には謝るべきかなと……昨日から考えてた」


「謝る、ですか? フレイさんがそんなことをする必要は……」


 私が悪いのだ。それしか方法がないとしても、フレイさんを驚かせたことは間違いないのだから。

 でもフレイさんは首を横に振る。


「君みたいな行動をする人が、世の中にいないわけじゃない。それでいちいち傷つくようじゃ、騎士なんてやっていられない。というか、今までもずっとそのつもりだったんだ。助けようとした相手が死ぬことだって、何度もあるんだからね」


 吐息をつくように言ったフレイさんは、そこで足を止める。


「ずっと前……自分を犠牲にして誰かを助けようとした人達を、何人も見てきた。まるであの時の君みたいに、自分を投げ出して誰かを救おうとする人を」


 フレイさんの視線は、夕暮れの朱に染まりつつある空に向けられている。

 昔のことを思い出しているんだろう。


「そういうことが続きすぎて、だんだん何も感じなくなって。もう仕方ないことなんだ、って思うようになっていった。でも、俺達とは無関係でいられたはずの人が、同じように自分の人生を捨てるようなことをして、俺や知り合いを助けてくれた。さすがに関係のない人間まで犠牲にして、何も感じないままではいられない。彼女のことが女神みたいに思えた」


 語る口調から、その『彼女』に対してとても恩義を感じているのがわかる。

 確かに関わりのない人に救われたら、神様みたいに思えるだろう。

 実験をされていた場所で、殺されかけた時の私も、助けてくれた団長様が神様に見えた。そして拝んで呆れられた。

 フレイさんにとって『彼女』は、たぶんそういう存在なんだと思う。


「それからどうにか、彼女が犠牲にならないようにと思って行動してきたんだ。そのために彼女の側にいられなくても、それは仕方ないと思っていたし、役に立つならそれでいいと」


 フレイさんは真摯な声音でそう語り、それから私に視線を移す。手首を握ったまま。


「君は……保護されるべき立場だった。君が殺されかけていたと聞いた時も、そう苦しいとは思わなかったんだ。でも俺が安心した隙を突かれたせいなのかな。久しぶりに最初の時みたいに衝撃を受けて、昔のことを思い出してたまらなくなって……」


 フレイさんは自由な右手で私の肩に触れる。


「どうにか、今度こそ守りたかったっていう後悔を、君を助けることで晴らそうとしていた部分があったんだと思う。ずっと申し訳ないと思っていたんだ。昔、俺を助けてくれた彼女が被った責任は、自分が被るべきもので……だけど俺が矢面に出ることはできなかったから」


 フレイさんは苦笑いする。

 話してくれた内容の全てを理解できたわけじゃない。でも、おかげでフレイさんが謝りたかった気持ちが理解できた。


 昔、フレイさんが誰かに庇われて助かり、相手が死んだことをとても後悔していて。同じようなことを私がしたから、過剰に不安になっていたんだと、そう言いたかったんですね。

 それなら私が言えることはただ一つだ。


「やっぱり、フレイさんが私に謝る必要はないと思うんです。後悔をしないようにしたいって思うのは自然なことですよね? 私だって目の前に、お祖母ちゃんと似た人がいたら、引っ込み思案で何もできなかった頃のことを思い出して、今度こそは役に立ってみせたいとか、できなかったぶんまで優しくしてあげたいとか思いますから」


 上手く言えただろうか。

 不安になったけれど、私なりの言葉で伝えるしかないと思う。


 そしてふと気づいて、手首を掴んだフレイさんの手に触れる。フレイさんはきっと、これを話した時に私に嫌がられたりするのが怖くて、掴んでしまったのだとわかったから。

 年上の人なのに弱いところが見えた気がして、少し可愛いと思うなんて、私は変なのだろうか。


「私、フレイさんが後悔したおかげで優しくしてもらえました。一人っきりになった上で、わけのわからない状況に遭った後も、慣れない場所で生活を始めた私には、ありがたかった。とても感謝しています。だから悪いことじゃなかったって、思ってもらいたいです」


 そう言うと、フレイさんはぼんやりと私を見た後で、ほっとしたように穏やかな笑みを見せた。


「君にはかなわないな……。か弱さが不安で、君のことを気にし始めたわけじゃないんだって、今ならはっきりとわかるよ。それも、君と離されたからなんだろうな」


 また口説き文句みたいなことを言い出すフレイさんに、私は笑って言おうとした。

 ……ねじまき人形みたいに、面白い動きをするからですよね? と。

 でもその前にフレイさんが、私の肩から右手を離し、掴んでいた私の手を持ち上げる。

 一体何をするのかと思えば、手の甲に、フレイさんが腰をかがめるようにして口づけたのだ。


「……え、あの……っ!?」


 それ以上の言葉が出ない。

 今、見間違えじゃないくて、フレイさんの唇が私の手に触れた!?

 それに手の甲にふれた、くすぐったいようなやわらかな感覚は……。

 思わず手を引きそうになったけれど、フレイさんがそれを許してくれない。


「嫌?」


 むしろ上目遣いにそんなことを聞いてくる。


「そ、そういうわけではないですが……なっ、どうして!?」


 思わず尋ねてしまった私に、フレイさんは楽し気な表情になる。


「君に感謝と、少しでも今のうちに印象付けて置こうと思って」


「感謝とかいりませんよ!? それは必要ないですけど印象って?」


 私にはちんぷんかんぷんだ。本当にどうしてこんなことをするの?

 フレイさんはゆっくりと姿勢を戻して、でも繋いだ手は決して離さないまま言った。


「もっと他にも、君に聞いてほしいことがあるんだ。だけど今はまだ君に対して、俺は誠実とは言えないだろうから……。次こそ君を守れたら、聞いてほしい。それに団長にも、役目を外されただけで、君と話すのは別にいいと言われているからね」


 よくわからない宣言をしたフレイさんは、そのまま私の手を引いて城まで帰ろうとした。


「あの、さすがにこれは人に見られたら恥ずかしいです」


 そう言ってようやく手を離してもらえたけれど。

 フレイさんと別れた後、まだくすぐったいような感覚が消えない気がして、つい自分の手の甲に触れては、頭をかきむしってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ