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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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※団長様は悩んだ末に 2

「巡回の報告に参りました、団長。南の街道は問題ありません」


 いつも通りの様子に見えるフレイ。

 彼とて、自分の気持ちを隠すことぐらいわけがないだろう、とリュシアンは思う。

 むしろ、戦闘時に止まらなくなる悪癖があるせいで、そうでなければ普通だ……と強く印象づいている可能性もある。


 彼はどこまで本気で、ユラに心を傾けているのか。

 そこを考えると、やや心に抵抗を感じる。そう、自分の飼い犬が別の人間にやたらと懐いてしまった、という感じだろうか。

 急に、ユラを試してみたいという気持ちが湧く。どちらに懐いているのかを見定めたい。


「ご苦労だった。あと一つ話がある」


 ユラが一人で森へ採取に行ったことを話す必要があるだろう。先にユラのところへ訪問したのなら、知っているだろうと思いつつも口を開けば、フレイが遮った。


「ユラのことですね?」


「そうだ」


「森へ一人で採取に行ったことは聞きました。本人からも、問題ないとは……。でも団長、なぜ私にだけ秘密になさったのですか。聞けば私の部下も知っていたようですが、口止めされたと聞きました」


 想定通りの質問に、リュシアンは答える。


「戦闘力のない人々でさえ入れる場所なら、ユラを出入りさせても問題はないはずだ。お前に確認をとらなくてもいいだろう。それに、言えばお前はそれを嫌がって、なんらかの理由を作るかもしれないと思ってな。それは私の杞憂だったか? だとしたらすまないことをしたが」


 この時、リュシアンはわざと答えを誘導するような言い方をした。

 本当にその気がないのなら、この言葉に引っかかっても杞憂だと答えるはず。また、強く真意を聞き出したいという気持ちがないのなら、ただ「はい」と答えるだろう。

 でもフレイは、そう言うまいとも思っていた。


「ええ……杞憂ではありませんね」


 フレイはまっすぐにリュシアンを見ながら言う。その眼差しは、リュシアンに挑戦しようとしているかのようだった。


「私は、しばらくは彼女を外に出すべきではない、と思っています」


「しかし、先日の森に魔物が集合した時にしても、ユラは普通に討伐に参加して、成果を上げている。そういう人間に、老女でさえ出歩く場所へ行くなとは言えないだろう?」


「彼女は禁忌の実験の被害者です。何が起こるかわからない。実際、先日の討伐でもおかしな点もありましたし、一日とはいえ寝込んだのですから。その前の警戒ラインへの巡回では、二時間以上森の中を歩き回っても平気だったのに、です」


 フレイは譲らないとばかりに、早口に言った。


「魔法陣を壊した後、機能させるために使われていたのだろう魔力が、あの場に拡散していました。もしユラがその影響を受けて体調をくずしたのなら、もう少し様子を見て、人目のある場所で観察することが必要ではありませんか?」


「精霊と融合したせいで、彼女が魔力にあてられやすい体質になったと思っているのか?」


「私としては、そのように考えています」


 そうきたか、とリュシアンは思う。

 確かにユラの状況だけを見ると、そう考えてもおかしくはない。

 フレイがユラのとんでもない異常に気づいていないこともわかって、ほっとする。魔力を吸収したせいだと察していたら、面倒なことになる。


 でも、ユラを何もかもから遠ざけるために、隔離することはできない。

 魔女についてリュシアンも知っていることは少ない。だからそのスキルを得た状態で、何もせずにいる方が彼女のためになるのか、と精霊には尋ねていた。

 精霊も、ユラには自由にさせてやるべきと言うのだ。

 ――強くなった方が、彼女は安全、と。

 だから、魔法を覚えることも遮るべきではないと考えていた。


「安全な場所に隠しておけば済む、ということでもないだろう」


 そう言うと、フレイはリュシアンに近づいて言った。

 執務机に手をつく。


「あなたは、ユラが大事なのではないのですか?」


 ……その問いかけに、一瞬だけ心をつつかれたような気持ちになる。けれど、リュシアンは迷わない。


「保護すると決めた以上は守る。けれど今の彼女は、ある程度は戦えるんだ。不必要に行動を制限してどうする? 本人が息が詰まるだけだ」


 ただの採取にすら出かけるのを止めたら、ユラは自由を奪われたと感じるだろう。

 魔女であることを隠す協力者として、リュシアンに従う魔法を受け入れているけれど、それすらもわずらわしく思うようになるかもしれない。


 リュシアンは彼女を閉じ込めたいわけではない。

 自分で側にいることを選ぶようにしたい。……これも少し、危険な考えのような気がするが。

 そんな自分を棚に上げて、リュシアンは言う。


「フレイ、お前は少しユラに関して過剰反応をしすぎだ。しばらくお前からユラを離す。平常時は、彼女の見守りはもうしなくていい」


「っ……」


 フレイが口を引き結ぶ。


「魔法が使えて、他人を助けられるだけの戦力はあると証明したんだ。守ってやらなくても、騎士見習い程度には彼女は強いということだ。そんな相手を始終見守る必要はないだろう」


「精霊融合のことは……」


「今の所、目立っておかしな影響は見られない。むしろ、本人にとっては使える能力が増えただけだ。毎日オルヴェに確認させれば済むことだろう」


 むしろ他の者に、つぶさに様子を見られては問題がある。特に今後、ユラの魔力が増えるなり、能力が増えるなりしたら……。精霊融合の一件だけで、誤魔化しきれるかどうかわからない。

 フレイは決定に対して、不服を言うわけにもいかないと思ったのだろう。じっと机を見つめている。


 そんなにも……ユラへの執着は深いのか、と思う。

 だがフレイのこれは、異性としてなのか。面倒をみていた相手を、妹のように思ってということなのか。リュシアンには断定できない。

 はっきりと聞くことはできない。団長という立場では私生活に踏み込みすぎだと思う上、ユラを見守って来た間柄としても、聞きにくい。


 そして何かをこらえるようなフレイの表情に、同情心が湧いてしまう。自分だったらどうか。ユラから遠ざかれと言われたら。

 最初のうちならば可能だっただろうが、今は……。


「かといって、会話もするなとは言っていないからな」


 思わず言うと、はっとしたようにフレイが顔を上げる。


「わかりました。命令に従います」


 素直に従うフレイに、ほんの少し、リュシアンは不安を感じた。

 だからかもしれない。

 その後、森へ連れ出したユラに、その意思を確認するようなことを口にしたのは。

 自分に属するものだと確認させて、離れないことを言わせて。


 そうして安心した自分が、どうにも嫌になったが、満たされた気持ちがあるのも事実で。

 かといって、フレイがユラに対して堂々と権利を主張できる立場を手に入れようとした時に、自分はどうするべきかも、決めかねてしまっていた。

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