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愚者達の戦記  作者: 六三
皇国編
440/443

第344:入城

 デル・レイ王都においてグラノダロス皇国とランリエルとの会談が開かれた。交渉を公的な物としようと、双方が書記を用意し、双方の発言を一言一句を記録する中で行われた。


 皇国側の全権大使となったのはフェルナンという人物だ。フレンシスが皇国で証言した時に、何番手かでその波に乗った人物である。皇国の新体制首脳部の一員に滑り込んだ彼だが、その中でも更に立場を強くしたいと、今回の交渉を買って出たのだ。


 国家の格としてはグラノダロス皇国が遥かに上だが、会談は、サルヴァ王子の主導で行われた。理由としては、戦いにはランリエルが勝利している事だが、そもそもフェルナンとサルヴァ王子とでは役者が違った。


 和平自体は、戦いの原因をアルベルド1人の責任にする事で、皇国の威信は傷つかぬと、皇国にも異論はなかった。サルヴァ王子が動いたのは、領土交渉だった。


「ランリエルとしては、皇国から寸土も得ようとは考えておりませぬ」

「はい。勿論です。我らも寸土とて譲るつもりはありませぬ」


「ですので、現時点の領土をもって確定としたく考えております」

「そうですな」


 ここまでは、交渉に当たったフェルナンも、尊大な態度を崩さなかった。しかし、ここから一気に色を失った。


「ならば、現在、我が方が占拠しているアルデシア王国までが、我らの領土という事で了承いただけたという事ですな」

「な、何を仰る。アルデシアは皇国領でござろう! まさか衛星国家の領土は皇国領ではないなどという詭弁をおっしゃる積りではありますまいな!」


「いえいえ。詭弁などとんでもない。しかし、戦で領土が動くのは古今東西、常識で御座いましょう。アルデシア王国領は、アルデシア王都を占領してる我らの領土。現時点での領土をもって確定とは、貴公も認めたではありませぬか」

「い、いや、しかし……。それに、アルデシア王都を占領しているからと、アルデシア領すべてを支配している事にはなりますまい」


「なるほど、王都を占領しているだけでは王国全土領有は認められぬと」

「はい。勿論です!」


 何とか突破口を開き、サルヴァ王子を抑え込もうとフェルナンの口調が強くなる。しかし、それこそがサルヴァ王子の思う壺だ。


「分かりました。仕方がありませぬ。貴公が言う通り、アルデシア全土の領有は諦め、アルデシア王都周辺の領有のみとしましょう」

「いえいえ。そうではなく、アルデシア領の寸土と言えど、ランリエルの領有を認めるわけにはまいりませぬ」


「先ほどの発言とは食い違いますな」

「いえ、決してそのような事は……」


 しどろもどろになるフェルナンだが、サルヴァ王子が更に追い詰める。


「書記殿!」

 と、サルヴァ王子が皇国側の書記に顔を向ける。


「先ほどのフェルナン殿の発言を確認したい。フェルナン殿は、アルデシア王都を占領しているからと、アルデシア領すべてを支配している事にはならぬ。と申されたな」

「は、はい。確かに……」


「王都を占領しているからと、王都を支配している事にはならぬ。とは、申しておらぬな」

「そ、それはそうですが……」


 書記の返答をもって、サルヴァ王子はフェルナンに顔を向けなおした。


「ならば、我らが占領するアルデシア王都は、我らの領有と認めて頂いたと認識して問題無いと考えるが?」


 フェルナンは答えられず、脂汗を流すばかりだ。皇国の領土を隠したのはずのランリエルに取られるなど、あってはならない。しかし、サルヴァ王子の術中にはまってしまった。冷静になれば良くある手段だ。初めに過大な要求をし、こちらが渋るところに小さな要求を通す。その交渉術の亜種。過大な要求を行い、その過大な部分だけを否定させた。


 今回、フェルナンは簡単に引っかかったが、この手に引っかからなかったとしても、サルヴァ王子は次々と罠を張って、フェルナンを逃がしはしなかっただろう。


 このままではランリエルに領土を取られてしまう。皇国に戻れは、自分は処罰されるだろう。出世をもくろみこの役を引き受けたが、それどころではないのだ。


「フェルナン殿。先ほどから口を開かぬが、どうなされた」

「い、いや。どうも致さぬ」

 とは答えたものの、肝心の領土に関しては一言も言い返せない。


 サルヴァ王子はそれから黙り込み、フェルナンも一言もない。双方、一言も喋らぬが、その姿は対照的だ。余裕の表情で茶を啜るサルヴァ王子に対し、目の前の茶に視線を落としたまま微動だにせぬフェルナン。


 双方の書記や警護の者達も、これがいつまでづづくのかとうんざりした表情だ。


 脂汗を流すフェルナンに向け、おもむろにサルヴァ王子が口を開いた。


「分かりました。それならば、こちらも譲歩いたしましょう」


 その言葉に表情を明るくするフェルナンに、サルヴァ王子が’本題’を語り始めたのだった。



 皇国に戻ったフェルナンが交渉の結果を披露すると、皇国の高官達はどよめいた。


「ランリエルのサマルティ王子と、アルデシア王家の王女を婚姻させ、アルデシア王とするだと!!」

「それでは、実質、ランリエルにアルデシアを取られたようなものではないか!」


 怒声を浴びせる高官達に、フェルナンは得意げに語りだした。


「いかに元がランリエルの王子だろうと、アルデシア王になれば皇国の衛星国家の王としての責務を果たさねばならぬ。万一、皇国を裏切らんとしたところで、アルデシアの臣民がサマルティ王子に従うはずもなし、実質、我らの人質で御座るよ」


 フェルナンは自信満々に持論を述べた積りだが、実際は、サルヴァ王子によって巧みにそう考えるように誘導されたに過ぎない。勿論、一理ある話であり、だからこそ無能ではないフェルナンも信じているのだ。


「古来、名目としては和平としながらも、人質を出すのは実質的に降伏なのは言うまでもありますまい。勿論、そう表立って公表してはランリエルの面子を潰しましょう。窮鼠猫を噛むとも申しますからな」


 繰り返すが戦いに勝ったのはランリエルである。何が窮鼠猫を噛むのかは分からないが、彼らには大グラノダロス皇国が最終的にランリエルに滅ぼされるなどあるはずがないという確たる自信がある。そして実際、ランリエルが衛星国家を含めた皇国領をすべて征服するのは困難だ。


 それは、アルベルドが見抜いていた通り、実はランリエルの戦闘継続能力が限界に来ている。という事だけではない。皇国だけではなく衛星国家の地方貴族までが、格下として見ているランリエルに簡単に降伏するはずがないのだ。それほど長年培われた彼らの尊厳は高い。制圧するには、領主を皆殺しにしていくしかなく、そうなれば彼らこそが窮鼠と化す。


 制圧には、何年にも渡っての数えきれないほどの出兵が必要なのだが、それをこの大陸の東の端にあると言っていいランリエルが出来るのか。サルヴァ王子とて、まあ、無理だろう。と認めざるを得ないのだ。


 フェルナンの演説は続いた。


「ランリエルの面目の為に、表向きは、友好のしるしとしてランリエルの王族を衛星国家の婿養子に迎えた。とする必要はありましょう」

「な、なるほど」


 実質的にランリエルの降伏。その言葉に高官達も頷いた。元々、サルヴァ王子が誘導した結論であり、サルヴァ王子にとっても、実質、人質に近いものになるのは分かっている。しかし、それは皇国と争わない為の。である。今後、皇国と争う気がないサルヴァ王子にしてみれば、結果的に人質ではない。のだ。


 皇国にしてみれば、友好のしるしという名をランリエルに取らせ、人質という実を皇国が取った。という事だが、ランリエルにしてみれば、態の良い人質という名を皇国に取らせ、アルデシア王国という実をランリエルが取った。という事だ。


 とはいえ、サルヴァ王子に至っては、皇国がそう考えるだろうとフェルナンを誘導しているのだから、一枚上手だろう。しかし、他にも問題はある。


「しかし、それでも衛星国家の王に、皇族や他の衛星国家の王族以外を迎えるなど……」

「うむ。そのような事、認められまい」


「確かに、そう思われても仕方がありません。ですが、今回、アルデシア王都がランリエル一派のバルバール軍に落とされたのは事実。それはアルデシア王の失態で御座いましょう。これには、その懲罰的な意味も含んでおります」

「しかし、それではアルデシアの威信は地に落ちよう。皇国内は勿論、他国にも侮られようぞ」


「確かに、皇国内では侮られましょう。ですが、皇国外ではどうでしょうか。我らにとっては格下でありますが、他の国々に取ってランリエル皇ぞ……。王族というのは中々、箔があるそうですからな」

「しかし、それは我らが畏怖されている事にはなるまい」


「何、我らに取っては、実があれば良いのです。皇国内のアルデシアの待遇を見れば、他の衛星国家の王達も身を引き締めましょうし、他の国々に侮られる事もない。何の問題もないではないですか」

「う、う~~む」


 高官達も頷き、こうしてグラノダロス皇国とランリエルとの和平が結ばれる事となった。


 そして、各国の領土について、改めて話し合われた。確認するまでもない事とも思われるが、領土問題というのは曖昧にすると、後々面倒だ。相手側の勢力ではないと思ってちょっかいを出したところ、実は、繋がっており大問題に発展する。というのは避けたいところである。


 こうして、改めて発表された領土は、皇国領は、皇国本国と衛星国家(むろんアルデシア王はサマルティ王子だが)、ランリエル皇国は、ランリエル本国は勿論、カルデイ、ベルヴァース、バルバール、コスティラ、ケルディラ、北ロタ、リンブルク、タランラグラが所属するとして、確認された。


 残りの、ドゥムヤータ、ブランディッシュ、南ロタ、ゴルシュタットは、どちらにも所属していないという態だが、実際、ランリエル寄りなのは明白だ。ただ、これらの国が皇国と揉めたとしても、即、ランリエルとの戦いとはならない。精々、ランリエルが仲介役として、関わって来る程度だ。


 正式な和平の調印式は、グラノダロス皇国皇都で行う。それは、ランリエル側から、つまり、サルヴァ王子の提案だ。それには、流石に皇国の高官達も内心、サルヴァ王子の度胸を称賛したほどだ。


 ウィルケスからも、

「皇国ともあろうものが、皇都にやって来た陛下を殺すなど、その威信にかけて出来ないでしょうが、皇国高官達はともかく、市井の者はそうとは限りません。ランリエルとの戦いで身内を失った者も居ましょう。陛下の身をお守りするには多くの警護が必要です。ですが、皇都に多数のランリエル兵が入れるとは思いません。危険ではありませんか?」

「何、たとえ市井の者であろうと、私が害されれば、それは皇国の差し金と思われよう。それを一番恐れるのは皇国自身だ。精々、厳重に警護してくれるだろうよ」


「そ、そうですか……」


 確かに理屈は分かるが、してくれるだろう。を信じて、それこそ大丈夫だろうか。とウィルケスは懐疑的だ。


「まあ、それこそ、それくらいの度胸は見せぬとな」


 まだ釈然としない風のウィルケスに、サルヴァ王子は皮肉な笑みを浮かべた。


 こうして、サルヴァ王子は、千騎を率いてグラノダロス皇国皇都バルスセルスに入城した。とはいえ、皇国本国の領土手前までは、デル・レイ、アルデシア両国からランリエルの軍勢が展開している。


 皇都の城門を潜ったサルヴァ王子に、皇都の民衆達は興味津々だ。


 このような時の定番として、白馬に跨るサルヴァ王子は、兜を脱いだ甲冑姿で、東方の覇者との名に相応しい覇気をまとっていた。それでも、皇都の人々は、皇国と衛星国家の皇族と王族以外は格下と見ている。


 口では

「あれがランリエル王か。精々、威厳を保とうとしておるわ」

「まったくだ。平静を装っているが、内心、皇都の華やかさに驚愕しておろうに」

 と、サルヴァ王子を卑下する言葉を履いているが、それも、サルヴァ王子が臆しているように見えない事の裏返しだ。


 そして、女性は異国の王族というものに憧れる。グラノダロス皇国の皇族より勝るものはない。ランリエルなど東方の蛮族の王、とは思っていたが、その皇国との戦いに勝利したのだ。そうなれば、蛮族というのも、皇国とも渡り合える野性味あふれた王族。と、解釈も変わる。


「お父様。私も、本当は嫌なのですけど、もしランリエルの王が、皇国との友好の証にグラノダロス貴族の令嬢を妃に欲しいと所望するというのなら、私の身で国の為になるのならば、やむを得ずお引き受けいたします」

 と、御父上に進言する貴族令嬢が続出していたのは、年頃の娘を持つ貴族達の頭痛の種だった


 皇都の城門を潜ったサルヴァ王子は、そのまま皇都のエスカサル宮殿に入った。


 皇祖エドゥアルドが作り上げた宮殿に、跪く為以外の理由でその門を潜った初めての他国の王族となったのだった。

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