第333:大陸一の猛将
「計画通りベルヴァースは孤立した。もはやランリエルからの援軍は来ぬ。新手を繰り出し戦線を伸ばしつつ、ベルヴァースに全面攻勢を仕掛ける」
アルベルドの命令により、皇国軍によるベルヴァース王国軍への猛攻が開始された。
今までは皇国軍が左へ左へと戦線を伸ばせば、それに応じてベルヴァースも戦線を伸ばしつつランリエルに援軍を要請していた。しかし、今は援軍は期待できない。皇国軍が兵力に任せて戦線を伸ばせはベルヴァースも戦線を延ばさざるを得ないが、その層は限りなく薄くなっていく。
薄くなった戦線は皇国軍の攻撃に持ち堪えられなくなるか、それ以上戦線を伸ばせなくなり、皇国軍の迂回を許すか。そのどちらかの未来しかないのだ。
「テグネール総司令。皇国軍の全面攻勢です! 如何なさいますか!」
副官はランリエルへの伝令に向かっており不在だ。現在、参謀の1人がその代理を務めているが、正式な副官でない為、副官としては上官への態度が適切でないのは仕方がない。
代理とはいえ副官から怒鳴り気味に問いだたされるという、ありえない経験をしているテグネールだが、今はそれを注意している暇はない。
「ランリエルへ改めて要請を行う。現在、我が軍は皇国軍により分断され一刻も早くランリエル本隊との再合流が必要だが、こちらは防衛に精一杯で分断した皇国軍を攻撃する余力なし。貴軍も我が軍の孤立を解消しようと軍を発するであること疑ってはおりませぬが、我が軍からの呼応は期待できぬとお考えいただきたい。援軍には十分な戦力を願う。とな」
テグネールの指令を清書して、改めてランリエル総司令部へと要請が発せられた。先ほどテグネールを怒鳴った副官代理の参謀ではなく、もう少し口の良い者が選ばれた。
しかしテグネールの仕事はこれで終わりではない。ランリエルからの援軍がランリエル本隊との分断を解消し、さらに皇国軍の攻勢を押し返すまで、持ち堪えなければならない。
「後詰の部隊は、すぐにでも動けるように準備をしておけ」
テグネールはそう命じつつ、迎撃の指揮に全神経を集中した。戦線を維持するには、劣勢になる前に手当てするのが良い。劣勢になってから盛り返すのは多くの戦力が必要となる。しかし、全戦線に対し十分な支援をするだけの戦力はない。しかし劣勢に見えて意外と持ち堪えたり、支えられている戦線が突如崩壊することもある。
どの戦線に支援をするか。その判断はテグネールの経験がすべて。司令部には多くの参謀が存在するが、彼らは状況報告しか出来ていない。そして確かに、名将グレヴィにして百戦しても勝てないと言わしめた、その指揮は堅牢だった。
耐える戦線、支えるべき戦線。その見極めを完璧に行い戦線を維持し続けた。しかし、グレヴィに負けないというのも同じ戦力ならばの話。ベルヴァースと皇国では戦力に差があり過ぎた。
そして皇国軍にしても、テグネールの手腕を過小評価していない。そのため、今回の作戦の主力となるべき猛将バルベルデを有するオルギン将軍の部隊も初手では動いていない。もし初手からオルギンが動いていれば、テグネールはそこに戦力を集中し戦線を支えていただろう。
そして、ベルヴァース軍の戦線の綻びが出始めたと見たオルギンは部隊に出陣の激を飛ばす。
「もはやベルヴァースに余力はない。今こそ叩く時だ!」
駆けだす兵士たち。その先頭に立つのは猛将バルベルデ。突撃してくる敵兵に対しては弓矢で応戦すべきベルヴァース軍だが、今は目の前の敵への対応に精一杯でその余裕はない。妨害なく敵陣に切り込んだバルベルデは手にした槍でベルヴァース兵を薙ぎ払い、皇国軍兵士がその後に続く。
「ベルヴァースに俺の相手になる勇者はおらぬか!」
バルベルデは、大見えを切りつつ槍を振るう。慢心からの大言壮語ではなく、猛将として自分の振る舞いが兵達を奮い立たせ敵を怯ますことを計算しての事だ。そして実際、ベルヴァースに彼に比する勇者は居なかった。数は力というがそれは、勇者の存在でも同じこと。100万を数える皇国軍の中で勇者と言われる者の力量が低い訳がない。
幾人かの騎士が彼に挑んだが、ほとんどが一撃。数撃耐えた者も極わずか。こうなっては彼の行く手を阻む者も居なくなる。彼が進むと同じだけベルヴァース兵は後退するか、左右に逃げ散るのみだ。
「俺に続け!」
バルベルデが味方の兵士を鼓舞する。粗野に見えて言葉を選んでいる。戦闘開始初期では敵が自分に向かってくるような言葉を吐いて敵を引きつけ蹴散らし、一旦敵が崩れだせば、後は突き崩すのみと、敵がこちらに向かってくるような言葉は吐かない。味方を鼓舞する言葉で一丸となって敵陣を切り裂くのだ。
バルベルデは、あるいは単純な武勇だけで言えばブランには劣るかも知れないが、猛将としての演出の計算高さではグレイスにも匹敵するだろう。オルギンはグレイスやブランに引けを取らないと進言したが、確かに大言ではなかった。むしろ謙遜していたとすら言える。武勇と演出の総合力では、彼らを超える”猛将”と言えた。
一騎当千という言葉がある。勿論、一騎で千人の敵と戦えるはずがない。その存在が敵を怯ませ、味方を鼓舞し、一騎で千の戦力に相当する影響を戦場に作り出す者を言う。バルベルデは一騎当千どころか一騎当五千の影響を戦場に与えた。
バルベルデの出現により、戦線崩壊の危機に瀕したベルヴァース王国軍総司令部では、その対応に追われていた。
「ありったけの予備兵力を投入し戦線を支えるべきです!」
「すでに遅い! 今から兵を向かわせ合流しても崩れる味方に巻き込まれるだけ。後方に防御線を引き直すべきだ!」
「勢いに乗った敵を、そんなことで止められるものか!」
参謀同士が怒声を浴びせあい、議論というより口論に近い。その中で冷静に指令を発すべきテグネールの口は閉ざされていた。責任を放棄したわけではない。彼の経験として、既に手がない。それを察し、しかし、それでもなお総司令としての責任として、何か手がないかと思案していた。だが答えは出ない。
「テグネール。ちょっと良いかな?」
不意の言葉にテグネールが視線を向けると、そこにはルージ王子の姿があった。礼儀正しいテグネールにして、この忙しい時にと苛立ちを感じる。
「これはルージ殿下。今、我が軍は戦線崩壊の危機に瀕しております。申し訳ありませぬが、殿下のお相手をしている訳にはまいりませぬ」
一応は言葉を選んだが、意味としては、とっとと失せろ。といったところだ。テグネールの態度にルージ王子は困った表情を浮かべた。
「あ。うん。そうだよね。今から討ち死にして来るから。言っておいた方が良いと思って。ちょっと騒ぎになるかも知れないけど、落ち着いて対応して欲しいなって」
ルージ王子は何気ない口調だったが、その内容はテグネールさえ狼狽えさせるものだった。
「え、あ。な、何をおっしゃって……」
と、驚愕の表情だ。
「もしランリエルが負けてもベルヴァースは生き残らないと行けない。すぐに皇国軍に降伏してベルヴァースの王族の助命を申し込まなくてはしなくてはならない。でも、僕が生きて帰ったら、きっと皇国は僕は許さない。ベルヴァースのみんなは僕を守ってくれようとするかも知れないけど、そしたら皇国はベルヴァースを許さない。僕はね。負けるんだったら、ここで死なないと行けないんだよ」
「陛下……」
ルージは殿下であって陛下ではない。しかしテグネールは自身の言い間違えに気づかない。間違いなくこの人はベルヴァースの”王”だ。たとえその根本がアルベルティーナ王女、そして娘たちへの愛情であったとしても、そのためにベルヴァースを守ろうという心に偽りはない。
「で、ですが、そうだとしても、陛下、いえ、殿下が戦死なされることはありません。例えば、殿下が戦死したと報告し殿下はお隠れになれば宜しいではないですか」
「それは駄目だよ。皇国は、僕の死体がなければ僕が死んだと信じない。僕が死んだと確認できなければ、ベルヴァースの人たちが僕を匿っている。皇国はそう思うはずだよ。たとえ本当に僕が戦死しててもね。だからこそ戦死するなら、敵の目の前でなくちゃならないんだ。今、敵将が先頭で突っ込んできているんだよね。僕は、そいつと戦って戦死する」
「しかし、いくら何でもそのような……」
「皇国軍の目の前で死なないと、僕が本当に死んでいても彼らは僕を探してベルヴァースを疑う。見つかるはずのない僕を探して、ベルヴァースを攻撃するかもしれない。それはさせちゃ行けないんだよ」
「ルージ殿下……」
死ぬ覚悟で戦う。多くの兵士たちはその覚悟がある。しかし、それは死ぬ可能性があっても戦うという意味だ。死ぬ為に戦う者など居ない。だがルージ王子は、まさに死ぬ為に戦場に向かうのだ。
テグネールとルージ王子の会話が続いているが、戦況は刻一刻と変化している。両者の間に割って入ることが出来ない参謀たちは、テグネールの指示を待っているが、いい加減しびれを切らした者も居た。
無礼を自覚しつつ、気づいて貰いたいとテグネールにチラチラと視線を送っていると、期待通りにテグネールと視線が合った。
「ルージ殿下。失礼。少しお待ちを」
と言いつつ、参謀たちに視線を向けた。
「皆も落ち着け。司令部が混乱すれば、兵達にも混乱が広がる。まずは我らが落ち着くことだ」
そう言って参謀たちを見渡したテグネールは、自分自身を落ち着かせるかのように目を閉じた。そして大きく息を吐くと、何かを決意したかのように目を開いた。
「これより、戦線を鼓舞するためルージ殿下が出陣なされる。5百を残し、予備兵力のすべてをルージ殿下にお付けする。殿下に遅れを取るな!」
「よ、宜しいのですか。殿下が出陣なされるなど」
「殿下に万一のことがあれば……」
テグネールの命令に参謀たちも驚きを隠せない。ルージ王子の参陣はランリエルへの演出で、実際に出陣することはないと考えていたのだ。
「ルージ殿下の御身を危惧するのは当然だ。しかし、我が軍が敗走してしまえば、そうは言ってはおられまい。我が軍はルージ殿下と一蓮托生である」
「テグネール……」
「ルージ殿下。もはや殿下が出陣なされるのを御止は致しませぬ。ですが、むざむざ殿下を死なせはしませぬ。もし殿下が討ち死になされるなら、それは我が軍が崩壊する時です」
「分かったよ。テグネール」
テグネールは頷き、参謀たちに改めて視線を向ける。
「お主たちも、覚悟せよ!」
「はっ!」
ルージ王子の本来の配下は5百の兵からなる一個大隊。その大隊を中心とし予備兵力を動員した軍勢がバルベルデを先頭に攻撃を仕掛けるオルギン隊を迎え撃つべく出陣した。オルギン隊の半数の数だが、その勢いさえ止めれば、戦線は立て直せる。という算段だ。
ルージ王子が乗るのは純白の白馬。さらに金銀の華麗な馬具が馬躰を飾る。この馬を用意した者もまさかルージ王子が本当に出陣するとは考えていなかった。士気高揚と、ベルヴァースは本気で出陣しているとのランリエルへの見せかけの為だけにルージ王子は参陣している。そのため、派手な馬を用意したのだ。
ただルージ王子にとって良かった事もある。万一危機に陥った時にはルージ王子には逃げ切って貰わないと困るとの考えから、姿だけではなく能力も選りすぐられている点だ。足が速くルージ王子程度の腕でも乗りこなせるほど従順だ。
「ルージ殿下が出陣なされるぞ!」
ルージ王子が白馬に跨ると、それを宣伝するように従者が叫んだ。ルージ王子に取っては気恥ずかしいが、派手に討ち死にするという思惑とも一致するので止める事も出来ない。そして実際に、兵達の鼓舞には役立った。
「ルージ王子万歳!」
「ルージ殿下にご武運を!」
兵士たちの歓呼を背にルージ王子の白馬が先頭を走る。その左右と後ろをルージ大隊が固め、さらにその後ろにベルヴァース兵が続いた。
ルージ王子が戦線にたどり着くと、バルベルデの猛攻にすでに戦線は崩壊寸前だった。ルージ王子はオルギン隊の前に立ちふさがった。
「僕はベルヴァース王国のルージ王子! これ以上皇国軍の好きにはさせない! みんな僕に続け!」
討ち死にするために出陣したルージ王子だが、そう言えるはずもない。兵を鼓舞し白馬を駆けた。しかし、王子直属の兵士たちも、ルージ王子に武勇は期待していない。ルージ王子の白馬は選りすぐった駿馬だが、技術が違う。ルージ王子を抜き去って皇国軍に突入した。
しかし、やはりバルベルデの武勇は並大抵ではなく瞬く間に叩き伏せられる。バルベルデは、頭上で槍を一回しするとルージ王子に向かって愛馬を奔らせる。その前に立ちふさがるベルヴァースの騎士達。ルージ王子もバルベルデの前に立ちふさがろうとするが、いつの間にか追いついていた従者がルージ王子の白馬の手綱を抑えて離さない。
「ルージ殿下! 危険です! これ以上前に進むのはお控えください!」
従者がルージ王子の自殺に等しい突撃に賛成するわけがない。そのため、従者には自分が死ぬ積りだとは伝えていなかった。従者は当然の役目としてルージの突撃を阻止しようとする。
「放して! 僕は行かないといけないんだ!」
「おやめ下さい! 危険です!」
ルージ王子と従者が揉めている間にもバルベルデはベルヴァース兵を薙ぎ払い、ルージ王子へと向かっていく。先ほどのルージ王子の鼓舞が聞こえて居たわけではないが、王子の白馬は身分のある者と察せさせるには十分だった。
「貴様の首を取って手柄にしてくれるわ!」
しかし、その間にも立ちふさがるベルヴァース兵。いかな武勇を誇るバルベルデとて進みが鈍る。
「僕は、ベルヴァースのルージ王子! 逃げも隠れもしない!」
「殿下! 何をおっしゃっているのです!」
わざわざ敵を引き込むルージ王子に従者が慌てる。そしてルージ王子の声はバルベルデにも聞こえていた。
「ルージ王子だと! これはまたとない幸運」
そう呟くと、改めて”猛将”としての怒声を発した。
「ルージ王子といえば、サルヴァ・アルディナの弟だな。わざわざ首を落とされに来たか。皆の者。俺に続け!」
ルージ王子の重要性を強調し、味方の兵士たちにも討てば手柄だと鼓舞する。バルベルデばかりではなく、その配下の兵士たちもルージ王子に殺到する。だが、ベルヴァース兵達もルージ王子を守らんと集結する。
大国ランリエル王国に隣接するベルヴァースは常に、その脅威にさらされて来た。ランリエルに匹敵する大国であるカルデイがランリエルの軍門に下った後は猶更だ。ルージ王子は、今は皇国となったランリエル皇帝の弟。ベルヴァース王国に来た当初は、どうせランリエルの権威を笠にきてベルヴァースで我が物顔をすると考えられていた。
しかし、ベルヴァースに来てからのルージ王子は、一貫してベルヴァースの側に立った。ランリエルからの無理な出兵要請にも泣け叫びながらも断固拒絶した。格好の良い姿ではない。しかし、だからこそその姿に偽りがなかった。彼はベルヴァースの皆に愛されていた。本人が思うより遥かにだ。
「ルージ殿下をお守りしろ!」
「敵を寄せ付けるな!」
だが次々とバルベルデに討ち取られていく。その光景にルージ王子が叫んだ。
「みんな。もういい。下がれ。僕が戦う!」
だが、並みの騎士にすら勝てそうにないルージ王子がバルベルデに勝てる訳もない。槍を切り結ぶまでもなく一撃で打倒される以外の未来が予想できない。
「皆の者。下がるな!」
「ここで下がれば、ベルヴァース人の名折れぞ!」
バルベルデに討たれても討たれてもベルヴァース兵が彼に殺到する。
「木っ端共が! それほど死にたいか!」
群がるバルヴァース兵を打ち払いながらバルベルデが叫ぶ。しかし、その声には次第に焦りの色が濃くなっていく。
どうしてこいつらは、殺しても殺しても群がってくる。死ぬのが恐ろしくはないのか。その思いが深くなっていく。そして死を恐れぬ者たちへの戸惑いは、無意識に逆の意味も己の心に芽生えさせる。俺は死ぬのが恐ろしいのに。という思いを。
ルージ王子の元へ進めば進むほど、群がって来るベルヴァース兵が増えていく。死にに来る。その思いがバルベルデの足を止めた。そして足を止めれば、それによっても群がるベルヴァース兵も増えた。
「こ、こいつら。くそっ。俺に近寄るな!」
思わず叫んだ。それはバルベルデの”猛将”としての演出の破綻。敵が来るのを恐れる猛将など存在しない。しかしバルベルデは己の失言に気づかない。それほど余裕を失っていた。必死で群がるベルヴァース兵を討ち払うのみだ。それでもベルヴァース兵は引き下がらない。
そして足の止まった騎士は力を半減させる。バルベルデに付き従っていた皇国兵達は彼ほどの武勇はなく、いつの間にか討ち減らされていた。どんどんとバルベルデは孤立していく。余裕を無くしたバルベルデの隙を突いて、ベルヴァース兵の槍がバルベルデの乗馬の足を払った。馬は横倒しになりバルベルデも馬上から放り出される。
「しまった。おのれっ!」
そう言いつつ起き上がろうとしたが、そこにベルヴァース兵が殺到する。無数の槍がバルベルデの身体を貫いたのだった。
「敵将! 討ち取ったぞ!」
「俺だ! 俺が討ち取った!」
「いや、俺だぞ!」
「あははははっ!」
バルベルデに槍を突き刺した兵士たちが口々に叫び、笑い出す者まで居る。本人たちは歓喜の叫びの積りだが、客観的に見ればあまりにも不気味だ。皇国兵が思わず後ずさった。
ルージ王子を抑えていた従者も、もはやその必要も無くなったとルージ王子の白馬の手綱を放す。死ぬ積りだったルージ王子も、死ななくて良くなったみたいだから引き返す。という訳にもいかない。皇国軍を迎撃するために来たという名目の役割を演じ続けるしかない。
「敵は怯んだ! 追撃だ!」
似合わないな。と自分でも自覚しながら腰の剣を抜き放って皇国軍に向けた。さっきまでは槍を持っていたが、従者に止められている間に槍も取り上げられていた。
ルージ王子が白馬を駆って進むと、ベルヴァース兵達も続く。今までバルベルデの武勇は圧倒的だった。それがルージ王子が出現した途端に討ち取られた。ルージ王子自身が討ち取ったかどうかは問題ではない。その事実がすべて。
ルージ王子の出現で流れが変わった。ベルヴァース軍はルージ王子の出現で強くなる。バルベルデを討ち取るほどに。そしてバルベルデを討ち取る者たちを自分たちが防げるわけがない。バルベルデの武勇が強烈であったこそ、皇国軍の動揺は大きかった。
ルージ王子と彼に付き従うベルヴァース兵の進むところ皇国兵は逃げ惑う。後方に居てバルベルデの討ち死にを知らなかった者たちも、その渦に巻き込まれ、その状況からバルベルデが討ち取られたのだと理解した。それが混乱に拍車をかけた。
ベルヴァースの戦線に深く切り込んでいた皇国軍は、それだけに後退が困難だ。逃げるのに邪魔だと武器を捨ててみたものの、どこを向いてもベルヴァース兵が居る状況で、どの方角に逃げれば良いのかすら分からない。
この逆転劇は総司令部のテグネールにも伝えられた。もはやルージ王子を止める事は出来ない。ならばと出来る限りの兵をつけた。そして、万一ルージ王子が負傷程度で運ばれて来るならば、どうにかして守って本国に送り届けようと考えて、5百の兵と共に備えていた。戦死しなければというルージ王子の思いには裏切ることになるが、それを考えずにはいられなかった。
しかし思いも寄らずバルベルデを討ち取った。皇国軍を押し返した。ベルヴァース兵達がルージ王子の元まったく引かず戦ったゆえだ。そしてテグネールは理解した。
一騎当千とは一騎で戦場に千の兵に相当する影響を与えるものだ。そしてバルベルデは5千の兵に相当する影響を与えていただろう。しかしルージ王子は万の兵に相当する影響を戦場に与えていた。
この大陸一の猛将。それは彼だったのだと。




