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愚者達の戦記  作者: 六三
皇国編
393/443

第297:豪胆

 ベルトラム帰国。50騎の部下と共に王宮の門をくぐった。その報にリンブルク王宮は騒然とした。


 その中でも、最も愕然としたのはルキノ達だろう。ベルトラムがやって来るまで1ヶ月はかかると想定していた。それが、僅か8日。あまりにも早すぎる。


 ベルトラムがリンブルクで執務を行う時は王宮ではなく別の屋敷で行っているが、王宮で大臣達と会ったり泊まる時に使用する部屋がある。王宮に乗り込んだベルトラムは、とりあえずその部屋に向かったと連絡があった。まっすぐに娘に会いに来ると考えていたルキノには意外だ。


「それで、ベルトラム殿はいつ面会に来るのだ?」

「え。も、申し訳ございません。私も、そこまでは……」


 確かに、帰国を伝えてきただけの者が、ベルトラムの予定を把握しているはずもない。焦るあまり、埒もない事を問うてしまったとルキノは恥じた。


「そうだな。すまない。とりあえず、ベルトラム殿からの連絡を待とう」


 こちらから、いつ会いたいと伝えるという手もあるが、現状では出来るだけ先延ばしにしたいのも事実。動きを起こすのは躊躇われた。


 仲間達だけになると、ルキノとリンブルク騎士。ルーペルトらが深刻な顔で卓を囲んだ。気を落ち着かせるために熱い茶を用意させたが、誰も口を付けない。


「まさか、これほど早く戻って来るとは予想外でした」

「1ヶ月ってのは、どういう計算だったんだ?」


 ルーペルトにハイトマンが噛みついたが、いつもの力強さはない。ルーペルトもそれに答えず、ハイトマンもそれ以上は追及しない。


「現実にベルトラム殿は王宮に入りました。ベルトラム殿が戻ってくる前に混乱して対応不能状態のリンブルク王都に軍勢をなし崩しに駐留させて占領する。その計画は難しくなったと言わざるを得ません」


 破綻とは言わない。どうすれば、現状から軌道修正しえるか。それを思案する為に男達は集まっている。


「王妃様とベルトラムが顔を合わせちゃ不味いな」

「妻がベルトラム殿に対抗できるとは思えぬ。しかも、俺が傍についてないと対面する事すら……」


 今のクリスティーネは、仲間と認識ているハイトマンやルーペルト達ですら男というだけで、ルキノが傍にいないと恐慌を起こす。だが、いかに風体を変えているとはいえ、それであのベルトラムの目を欺けるとは思えず、ベルトラムと妻との対面にルキノが傍にいてやるのは難しい。


「クリスティーネ陛下には、もう一度、身を隠して頂くという手も御座いますが、その場合、どうして父と会うのを拒絶して姿をくらますのか。それが疑われましょう」

「順当に考えれば、実は俺達はランリエルに懐柔されていて王妃様を連れ去って、何食わぬ顔で王妃を連れてきた。って事になるわけか」


 全員がため息を付いた。それが誤解ではなく、完全に正解だからだ。逃げれば命は助かるが計画としては間違いなく破綻する。彼等も軍人である前に1人の人間である為、確実に死ぬ状況ならば逃げるという選択肢もあり得る。しかし、命を賭ければ成功する可能性があるならばその覚悟があるのも軍人としては当然。


「逃げるのは最後の手段だ。とにかく、作戦を途中で放棄は出来ない。別の手を考えよう」


 ルキノの言葉に、ハイトマンが腕を組んだ。部屋にいる者達の顔を一瞥した後、口を開く。


「いっその事、俺達で先手を打ってベルトラムを打ち取るってのは、やっぱり無理そうか?」

「それが一番困難でしょう。ベルトラムの部下は50。我らは10。隙を突いて常時ベルトラム殿の身辺を警護している者達だけとの勝負に持ち込めても、ベルトラム殿の部下は精鋭です。こちらで彼等に対抗できるのはラルフ陛下を含めても2、3人。全員、死ぬ気でやって奇跡を願う。というものです。それは勝算とは言いません」


 いつものハイトマンならば、その2、3人に俺は入ってるんだろうな。と切り返すところだが、無言で頷くのみだ。彼自身も、一応、他者の意見を聞いてみたというだけで勝算が低いと見積もっていた。


 そして、ルーペルトの言い回しならば、自分はベルトラムの精鋭に対抗できるとお墨付きを貰っているはずのルキノとて、ベルトラムを討つのは困難と考えていた。ベルトラムの部下が問題なのではない。人数が問題なのではない。ベルトラム個人が、自分より強い。それを察していた。


 義父と剣を交えた事はない。だが、妻との結婚の後に顔を合わせた日。ベルトラムの片手で頭蓋骨が割られかけた。自分はそれに抵抗するのが精一杯だった。それで剣の技量が計れる訳ではないが、剣技以前に格、というものの差を思い知らされた。


 無論、男として、いずれは義父は超えたいという意思はある。だが、妻の父を殺したい訳もない。義父との決闘は、避けられるならば避けて当然だ。


「何とか、外にいる私の部下を王宮内に引き込めれば、打てる手も増えるとは思うのですが」

「部下を引き込んでどうするんだ? 部下達と共にベルトラム殿を襲うのか?」


 王宮外に居るルーペルトの部下は20人。それが加われば、確かに戦力差は縮まる。隙を突けば、瞬間的には戦力差を逆転する事も可能かもしれない。


「それは最後。いえ、逃げるのが最後の手段ならば、最後から2つ目の手段というべきでしょうか。それよりも、今は、クリスティーネ陛下とベルトラム殿との対面を引き延ばすのが必要かと」

「お前の部下が居れば、どう引き延ばせるってんだ?」


「我等の中から1人。怪我人を出すのです。そして、それをやったのがベルトラム殿の部下であると主張し、それを理由に対面を引き延ばすのです」


 彼らはクリスティーネの命の恩人という立場だ。それを些細な事でベルトラムの部下と口論となり傷を負った。という筋書きだ。恩人を傷つけられたというなら、たとえ実の娘とは言えベルトラムと会うのを拒絶してもギリギリ許容される話だ。


「しかし、実際はベルトラムの部下がやったんじゃないだろ? どうやってベルトラムの部下の所為にするんだ?」

「実際には、そのような者は存在しないからこそ問題が解決しないのです。こちらは顔はよく見えなかった。シュレンドルフ家の紋章を付けた軍服を着た男にやられた。とだけ言えばいい。私の部下に彼等の軍服を盗ませ、血で汚して隠し、かつ、それが見つかるように工作すれば、より効果的です」


 悪魔の証明というものだ。やっていない事を証明するのはほぼ不可能。ベルトラムの部下がやっていないと証明するには、50人の部下全員を、全くの部外者がその時間帯に目撃していなくてはならない。そして、それは現実的ではない。


 そうと決まれば、次には誰が傷を負う役目をするかだ。ルーペルトの部下を王宮に引き入れるのはその後でもいい。ベルトラムの部下は否定するだろうが、その後に、彼らに罪を着せる工作が出来れば良いのだ。


 傷を負うのは、リンブルク騎士の中で一番、剣の腕が劣る者が選ばれた。本人は嫌そうな顔だが、もしベルトラムを襲撃するとなった時に一番役に立たないのだから仕方がない。


 次にどうやってルーペルトの部下を王宮に入れるかに話が移った。いくら隠密行動が得意とはいえ、王宮の兵士達も無能ではない。秘密裏に潜入したところを発見されては計画が破綻する。何かしら、身分を付けて堂々と引き入れたいところだ。


 そこに扉が叩かれた、皆は話を止め、警戒しつつルーペルトが扉が開けると、先ほどベルトラムが来た事を伝えに来た男が立っていた。どうやら、律義にベルトラムの動向を伝えに来てくれたようだ。だが、その内容にルーペルトが絶句した。他の者達も、耳を疑うように全員が顔を向けている。


「ベルトラム殿が、寝ている。だと?」

「はっ! ご息女、いえ、クリスティーネ陛下がお戻りになられたと聞き、ゴルシュタットから休まずに駆けてきた故、疲れた。との事で御座います」


「そ、そうか。それは無理もないな」


 多少、部屋で疲れは落とすとしても、その後は、すぐにでも娘と会おうとする。そう予測していた。それだからこそ、彼等もその面会を引き延ばそうとしていたのだ。だが、それでも余裕が出来た訳ではない。


「しかし、ベルトラム殿がお目覚めになれば、すぐにでもクリスティーネ陛下とお会いになるのだろう? いつ頃になるかは分からぬか?」


 寝ているとしても、今晩には面会を求めるだろう。そう予測して問うたが、その予想は裏切られた。


「それが2、3日は休みたい。との事で御座います。クリスティーネ陛下とのご対面は、その後になると」


 ルーペルトが再度、絶句した。ハイトマンなども唖然としてる。責任を果たした男がすっきりとした顔で部屋を後にすると、ハイトマンが正直な感想を漏らした。


「むちゃくちゃだな」


 ここで2、3日も時間を浪費するならば、ゴルシュタットから急行したのが全くの無意味だ。いや、無意味どころではない。このままではウィルケス率いるテッサーラ王国軍が到着してしまう。5千のテッサーラ王国軍にいくら精鋭とはいえ50騎で対抗しようというのか。


「豪胆なお方ではあるが、まさか、ここまでとは」


 ルキノが正直な感想を漏らした。他の者達も言葉はない。沈黙のまま時が過ぎ、ルーペルトが思い出したように言った。


「ベルトラムの部下に我らの仲間が切られた。という作戦は中止にいたしますか……」

「そう、だな」


 ルキノもそう答えるしかなかった。


 むちゃくちゃ。ハイトマンにはそう感じたが、ベルトラムにしてみればむちゃでもなんでもない。自分はリンブルク王家の上位に君臨する二重統治統治者である。この王宮に自分を制約するいかなる機構も存在しない。また、王宮に到着してそのまま私室に入ったベルトラムは、如何な政治的立場も表明していない。ランリエルとの同盟を反対とは言っていないのだ。


 王宮の大臣や有力者、貴族達はベルトラムが不在なのに乗じて、或いは、クリスティーネがそう言っているのだから父であるベルトラムも実は承知しているのではないか。という、それぞれの思案によって立場を決めかねていた。


 更に、この機に乗じて、ゴルシュタット支配下からの脱却を目論む者もいる。しかし、その者らとて、ランリエルとの同盟がベルトラムも承知、或いは承諾すれば、下手にベルトラムに手を出せば自分達の立場が悪くなるだけだ。


 ランリエルは正義の使徒ではない。ゴルシュタットの支配がランリエルの支配に変わったのでは同じだ。ベルトラムがランリエルに敵対を表明すれば、その首を手土産に有利な交渉を引き出せるだろうが、敵対していると確定する前にベルトラムの首を落とそうものなら、よくも同盟を組もうと考えていたベルトラム殿の首を落としたな! と、難癖すら付けられかねない。


 勿論、短慮な一部の馬鹿。が、自分を襲う可能性はあるが、それは自身が率いていた騎士達と王宮の兵で対処できる。王宮に乗り込んでくる狼藉者を防ぐのが、王宮を警護する近衛兵という機構の習性だからだ。


 ベルトラムはここまで状況を看破していた。サルヴァ王子の獅子の爪先が自分の近くまで伸びている。だが、まだ届いていない。届かないならば、平然と眠られるのがベルトラムの豪胆だ。


 しかし、ルキノ達に、その意味での豪胆さはない。ベルトラムに比べて臆病なのではない。それどころか、ある意味ではベルトラムの方が臆病と言える。しかし、彼らの持つ豪胆さは、ベルトラムにしてみれば笑止。ただの自暴自棄。無謀。それらをはき違えているだけのものだ。


 だが、5千のテッサーラ勢はどうするのか。それに50騎で対抗しようなど、それこそ豪胆ではなく無謀。自殺行為だ。


 サルヴァ王子やアルベルドが知者ならば、ベルトラムは賢者。賢者の賢者たる理由は、その状況判断の的確さだ。知者が、知者ゆえに拾ってしまうような雑音を排除し、事の本質を見抜く。


 王女の帰国。リンブルクへの撹乱工作。テッサーラ王国軍の進撃。ランリエルは同時多発的に事象を巻き起こしているが、その本質的な目的は、リンブルクの自陣営への取込。すべての事象は、この目的の為の手段であり、それを根とするならば他の事柄は枝葉。根を抑えれば、枝葉など立ち消えるのである。


 その根を抑える為にベルトラムが打ったのは、クヴァンツという1人の男を派遣しただけだった。リンブルクに向かう途上、ダーミッシュの一族の者を先行させランリエル寄りの貴族が誰かを調査させた。そして、テッサーラ王国軍の進路に近い領地を持つシュティールを選び、ゴルシュタット軍人らしく胆力を持ち、ベルトラムの薫陶により弁もたつクヴァンツを派遣したのだ。


「実は、ベルトラム閣下もランリエルに付く事をご検討なさっておいでなのです。無論、強大な皇国よりなぜランリエルを選ぶかと疑念をお持ちでしょうが、それには理由があります。皇国の北ロタへの対応です。北ロタは皇国の庇護下にあったにもかかわらず、結局は見捨てられました。いかに皇国が強大でも、見捨てられるならば力無きと変わりませぬ」


 ランリエル寄りの立場をとったとはいえ面と向かってベルトラムと対決する度胸はこの貴族にはない。ベルトラムからの使者が来て怯えていたが、その言葉に気が抜けて倒れこみそうになるほど安堵した。そして、男の提案に飛びついた。


「サルヴァ皇帝の意を受けたテッサーラ王国軍が王都に向かっているのはお聞きでしょう。その軍勢はこの近くを通ります。シュティール殿には、彼らを屋敷に招待し大いに持て成して頂きたい。テッサーラも我が軍との一戦を覚悟しておりましょうが、歓迎されるとなれば安心いたしましょう」


 シュティールは大いに頷き、早速、テッサーラ王国軍に使いを送ろうとしたが、それをクヴァンツが押し留めた。


「テッサーラには、ベルトラム様からもお伝えしたき議が御座います。シュティール殿がテッサーラの将兵を御領地にお招きしたいという事は、私から間違いなくお伝えいたしますので、ご安心を」


 シュティールは大領主でも名門貴族でもない。しかし、テッサーラ王国軍は国王ウィルケス自身が率いている。一国の王への使いを任せられる者が居るか不安だったこともあり、これも快く承諾した。クヴァンツは、すぐさまテッサーラ王国軍へと向かいウィルケスと面会を求めた。


 クヴァンツはランリエルに友好を示すリンブルク貴族の使者と名乗り、そうなればウィルケスも合わざるを得ない。


「ほう。この近くを領するシュティール殿が、我が軍を持て成して下さると?」

「は。心より貴軍を歓迎いたす。との事で御座います」


 ウィルケスは、クヴァンツの真意を測るように視線を向けたが、彼の面の皮が厚く内部までは見通せない。何か問題があるのかと、一国の王を平然と見返している。


 まあ、受ける訳にはいくまいな。というのはウィルケスとしては当然だ。彼の任務は一刻も早くリンブルク王都を抑える事にある。


「そのお心は嬉しいが、我等は5千の軍勢。シュティール殿にはご負担であろう。お気持ちだけ有難く頂いておこう」


 ベルトラムの使者が来たと慌てていたシュティール自身気付かぬ事実をウィルケスは瞬時に看破した。近年の混乱で国内の動員兵力が1万余程度まで国力の落ちたリンブルクである。シュティールがどの程度の貴族かも知らぬウィルケスだが、リンブルク国内のどんな大貴族とはいえ1人で5千の軍勢を持て成す財力があるとは思えない。今ごろテッサーラの将兵を持て成す準備をしているシュティールも、その費用の膨大さに気づき顔を青くしているだろう。


 だが、断られるのは想定内。クヴァンツにしてみれば、これからが本題だ。


「その負担を押してシュティール様は、陛下とその将兵をお招きしたいと申しております。どうか、シュティール様のお心をお汲み下さいますよう。お願いいたしまする」

 シュティールの負担など露ほども気にせず言い切った。


 面倒な事になった。ウィルケスも、有能な男だが、それはあくまで軍人として。あるいは政治家としての才能も持ち合わせているかも知れないし、知者に分類しても良い男だ。しかし、知者とはいえ全てにおいて優れている。という訳ではない。サルヴァ王子により国王の地位には就いたが、国王としての才は未知数であり、その教育も受けてはいない。国王としての己の立ち振る舞いへの不安。常に飄々とするこの男ですら、その重圧からは免れられない。


 軍事作戦上の課題としてリンブルク王都を早急に抑えなければならない。軍人としての視点ではそれはゆるぎない。しかし、国王として、外交問題としての視点ではどうか? どうすれば正解か?


「もしや、とは思いますが、友好を示す我らを振り切ってまで王都へと向かうと仰るは、何か思惑があるので御座いましょうか」


 クヴァンツが畳みかける。リンブルク王都を抑える。しかし、それはリンブルクを味方につける。という大戦略の一環だ。折角、ランリエルに友好を示そうというリンブルク貴族を拒絶して要らぬ疑念を植え付ければ、彼らが敵に回るかも知れない。そうなれば、リンブルクを味方につける。という大戦略が破綻する。


 そしてクヴァンツの決定的な一言。


「実は、ベルトラム閣下もランリエルにご加担なさるを検討しておるのです」

「なに!?」


 驚くウィルケスにクヴァンツはシュティールにしたのと同じ説明を行った。確かに、客観的に見ても説得力のある言葉だ。そして、それが事実であれば、さほどリンブルク王都に急行する必要はなく、ますますリンブルク貴族に疑念を抱かせ敵対するわけにはいかなくなる。ここで万一要らぬ疑念から小競り合いでも起きようものなら、すべてが台無しだ。だが、ウィルケスも無能ではない。気持ちが傾いたとはいえ、確認すべき事がある。


「ベルトラム殿は、今、リンブルクへ向かっている途上と思われるが、貴公はいつベルトラム殿のご意向をお聞きしたのだ?」


 ウィルケスが聞いている計画では、まだベルトラムはリンブルク王都に到着していないはずだ。


「いえ、ベルトラム閣下は、既に王都に到着しておいでです。連れ去られ行方不明となっていたご息女たるクリスティーネ女王陛下がお戻りになったのです。ベルトラム閣下とて人の親。取るもの取らずにリンブルクへと急行いたしました」


 今まで仏頂面だったクヴァンツが、あのベルトラムが平凡な父としての面を見せたと微笑ましく感じたのか初めて笑みを浮かべた。ウィルケスもつられて笑みを浮かべる。だが、その裏では軍人として計算を行った。ならば、軍勢は連れてきていないはずだ。それをクヴァンツに確認するのは波風が立つので出来ないが、ほぼ間違いないだろう。


 ならば、数日の遅れは問題ないか。友好を示す貴族の元に立ち寄れば、他の貴族達も雪崩を打ってランリエルに付く事も考えられる。


「なるほど。貴公の話、よく分かった。それではシュティール殿の持て成しをお受けするとしよう」

「は。シュティール様もお喜びになります」


 クヴァンツは深く頭を下げ、その下で薄く笑みを作った。


 ベルトラムにしてみれば、単純な話だ。敵対する者を無力化する最も単純な方法。敵対しなければ良いのだ。

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