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愚者達の戦記  作者: 六三
皇国編
347/443

第252:二人三脚

 兵を纏め軍勢を後退させたランリエル勢は、戦線を縮小しコスティラ国境を固めた。ここが決戦と大動員をかけたランリエルだったが、予想外にも劣勢に追い込まれたのだ。セルミア王都の救援として出陣したが、その実、大攻勢をかけるはずが、守勢に回らざるを得ない情勢だ。この状況にサルヴァ王子は苦悩した。


 セルミア王都を餌に皇国軍を釣り出す。その策略が、完全に逆手に取られた。餌を撒いて誘き寄せたはずが、誘き寄せられたのは自分だった。状況から推測すれば、ベルトラムは皇国と、アルベルドと手を組んでいた。そう見るべきだ。


 どの時点でベルトラムはアルベルドと手を組んでいたのか? 初めにルキノを派遣したところではそのような感触はなかった。思えば、ゴルシュタットのケルディラ侵攻が強引過ぎた。豪腕ベルトラムにしても違和感がある。


 そこまで考えた王子だったが、すぐにその思考を中断し頭から追いやった。


 今は、それを詮索し的中させたところで意味はない。評論家ならば的中させたと愉悦し自己満足に浸ればよいが、実行者たるサルヴァ王子には、現象は現象として受け止め、それに対策する方が重要だ。無論、ベルトラムの思考方法を解明すれば今後の役に立つかも知れないが、今は、もっと緊急に考えるべき事がある。


 まずは、敗退したコスティラ軍への増援だ。これにはウィルケスを向かわせた。元々ケルディラに駐屯するゴルシュタット軍への牽制の名目で派遣された軍だ。小さくとも国王であるウィルケスが、ベヴゼンコの指揮下に入るのは序列に問題がある為、ゴルシュタット軍との戦いでは後詰として後方に控えていたが、現在の状況ではそうも言ってはいられない。


 問題はセルミア王都だ。


 各国の総司令達には見捨てると言ったが……。救えるものならばやはり救いたい。それも正直なところだ。


 確かに全軍の崩壊とは天秤にはかけられない。だが、セルミア王とランリエル皇帝を兼任するサルヴァ王子だ。セルミア王都陥落はその権威を傷付け、ひいては兵の士気にも影響する。


 まず問題になるのは、どうすればセルミア王都を救えるかだ。それには援軍を向かわせるのが一番だ。実際、完成していないとはいえ長大な防御壁を持ち自給自足の備えもあるセルミア王都。如何な大軍を持ってしても物理的な攻勢で短期間で落とすのは難しい。それは皇国側も分かっているはず。その皇国がセルミア王都を短期間に落とそうとするならば心理的な揺さぶりを仕掛けるだろう。


「ランリエル軍はコスティラ国境まで引いたぞ! お前達は見捨てられたのだ!」

「降伏すれば我が皇国の民として優遇しよう。だが、最後まで逆らうとならばどうなるか。想像力を働かせよ!」


 はっきりと言われればそれまでだが、想像はその者の限界に達する。そしてランリエル軍が引いたのも事実。民の動揺は大きい。兵士達が抑えようとしても、反乱を起こし内部から城門を開け放つかも知れない。だが、援軍が到着すれば、見捨てられていないのだと民も兵も安心する。


 問題は誰を向かわせるかだ。サルヴァ王子は、頭の中の人物帳を捲り思案した。


 現在、セルミア王都は完全に包囲されていない。少なくとも以前の情報ではそうだ。皇国軍はほとんどの兵をセルミア王都以北に置いてランリエル勢と対峙する姿勢を見せ、セルミア王都に対しては背後を突かれないようにと抑えの兵を置く。包囲されていないならば、セルミア王都に入るのは簡単そうにも思えるが、ランリエル勢と対峙する皇国の大軍を超えるのが困難だ。


 そして、時が経てば今は包囲されていないセルミア王都も、皇国からの援軍が増えて完全包囲されるだろう。あまり悠長にも構えていられない。


 やはり、ここは才覚ある者を選ぶべきか。いや、如何に才覚あろうとも敵中突破など豪胆な者でなければ逃げ出しかねない。肝が据わった者を選ぶべきか。


 しかし、肝が据わっていても馬鹿ではな……。


 サルヴァ王子は頭の中の人物帳を次々と捲るが、才覚と胆力を併せ持った者は中々見つからない。並みの才覚と豪胆。優れた才覚とそこそこの胆力。という者ならばかなりの人数が居るのだが、援軍を送ろうとして失敗した時の影響を考えれば妥協は出来ない。


「お前達へと送られた援軍は、この通りだ!!」

 と、城門の前に死体を並べられては王都臣民の士気を上げるどころか逆効果だ。


 結局、暫くして副官代理のベルトーニに呼びに行かせ、王子の前に並んだ人物の影は2つだった。


「ルーベン・チェルラ。お召しにより参上致しました」


 軍人としては頬が若干こけ少し線が細いが、十分鍛えられた身体を持つ男だ。声には僅かながらも緊張が見て取れた。


「メダルド・キリコ。同じく、お召しにより参上仕った」


 小柄で、チェルラより更に細い。だが、その体格で軍人をしているからと言うべきなのか、勘気の強そうな目付きで声にも怯みはない。


「うむ」


 チェルラは、やはり肝が細そうだ。キリコも予想通りの勘気だが、体格に関しては想像より小さい。王子の人物帳は自分で調べた者もいるが、多くは他の者に調査させたものだ。大国ランリエルの軍人の目ぼしい人材を全て自分で発掘するのは不可能である。


「お主達にやって欲しい任務がある」


「どのような任務でしょうか」

「畏まりました」


 チェルラとキリコがほぼ同時に言い、次に視線を向けあった。どんな任務かを聞かなければ受けるも何もなかろうというチェルラの視線と、命ぜられれば受けるのが軍人だというキリコの視線が交差するが、すぐに王子へと向き直った。王子の顔に苦笑が浮かぶ。


「セルミア王都に5百の兵と共に入城して欲しい」


「セ、セルミア王都で御座いますか」

「畏まりました」


 チェルラが上ずった声を上げ、キリコが頷いた。


「隊長はキリコ。チェルラは副隊長としてキリコを補佐するように」


 隊長と聞いてキリコの表情が引き締まったが、チェルラはそれどころではない。


「し、しかし、僅か5百で、どうやって国境を越えるのです。現在、我が方はコスティラ国境を固めておりますが、それは敵も同じ。鏡のように敵も国境を固めておりまする」

「分かっている。だが、5百だからこそ可能なのだ。敵は数十万の大軍。10倍の軍勢でも勝ち目はない。ならば5百の兵で敵の目を掻い潜って行くしかないのだ。今回の作戦は、あくまでセルミア王都に兵を入れるのが重要で、数は二の次だ」


「で、ですが、どのようにして……」

「陛下のご命令であるぞ!」


 キリコが一喝した。チェルラがジロリと睨んだが、キリコが隊長で自分は副隊長に任命されたところだ。不服ながらも引き下がった。


 とはいえ、確かにどうするかを抜かしては命令を果たせない。5百の兵で国境を越える策が必要だ。


 数百、時には数千の軍勢で密かに国境を越える為、数名、数十名単位の小集団となって密かに国境を越え、その後、集結する。戦争小説などではたびたび見る作戦だが、現実的とはいえない。


 5百人を10人、50組に分けたとすれば、10人という小集団が敵に見つかれば全滅は必須。その恐怖を兵士に耐えさせる統率力と国境を見つからずに越える才覚を持った隊長が50人必要。サルヴァ王子の頭の中の人物帳にもそんな者は50人も居ないのだ。


 才覚足りず敵に見つかる隊。恐怖に耐え切れない兵が脱走し、その兵が見つかる隊。小集団に分かれた1つの隊でもそれが起これば作戦が露見する。そのような者達を国境にばら撒くのは自殺行為だ。


 そしてサルヴァ王子がその方策を2人に授けた。それを実行するのに豪胆な隊長と不測の事態に備え臨機応変の副隊長が必要なのである。


 キリコとチェルラは、5百の兵を与えられ出発した。兵達はランリエル軍でも肝の据わった者達が選ばれているが、それでも僅か5百で敵中を突破する任務に表情は硬い。キリコは更に硬い表情で彼等を率い出発したが、緊張しているのではなく、これが彼のいつもの表情だ。


 チェルラは、敵陣が連なっているといったが、それはあくまで比喩。現実に、如何な大軍とはいえ兵が足りない。数千サイト毎に点々と陣地が構築されていた。


「この辺りがエストレーダとブエルトニスとの陣境か」

「そのようですな」


 キリコの問いにチェルラが応じたが、僅かに不服そうな響きだ。本来の階級では同格なのだが、サルヴァ王子に副隊長を命じられた以上は、キリコに対して言葉を改めなければならない。


 いうまでもなく皇国軍は、グラノダロス皇国と衛星国家の軍勢の混成軍。各国の軍勢に陣地が割り当てられ守っているが、その境というものが存在する。


「よし! では行くぞ」

 キリコは叫び、兵士達に振り向いた。

「お前達も、堂々と行け。堂々と!」


 兵士達が硬い表情で頷く。


 キリコが率いる一隊は、身を隠しもせず、急ぎもせず、通常行軍の速度で進む。しばらくすると、当然のように皇国側の兵士達に見つかった。しかし、あまりにもこちらが堂々としているので皇国兵に戸惑いが見える。


 実際、5百という数で攻撃を仕掛けるとは考え難い。領民を徴集した兵ならば、少数の奇襲でも混乱して指揮系統が乱れれば、どうしてよいか分からず壊走する事も考えられるが、この大陸の多くの兵は職業軍人。多少、指揮系統が混乱しても逃げずに持ち場を守るのだ。少数での奇襲は成功しがたい。


 だが、やはり不審は不審であり、警戒しながらも皇国兵が近寄ってきた。キリコが先に叫ぶ。


「お主達はどこの兵だ!」

「ブ、ブエルトニスの兵だ」


「それはご苦労。我らはエストレーダ軍の者だ。命令を受け偵察任務を行い、今、帰陣するところである」

「偵察にしては兵が多いようだが……」


 ブエルトニス兵も堂々とした相手に押されながらも、何となく疑っているようだ。


「威力偵察を兼ねておる」

「うむ……」


 威力偵察とは密かに偵察するのではなく、多くの兵を動員して姿を晒し敵を威圧しながら偵察も行うというものだが、威力偵察というには、今度は逆に数が少なく感じる。


「何やら気に入らぬ事があるようですな。なんなら、我らが所属する隊の指揮官レンドン将軍にお伺いを立てて頂いて構わぬ。ただし、我らは先を急がして頂く。帰陣するのが遅れようものなら怖いお方だからな」


 チェルラがエストレーダ軍でも軍規に厳しいと有名な将軍の名をあげた。ただ軍規に厳しいだけなら褒められるべきだが、この将軍は、軍規違反に対し激しい体罰を行う事でも知られている。


「い、いや、それには及ばぬ。失礼した。先を急がれよ」


 たとえ属する軍が違っても、レンドン将軍と言えば雲の上の存在。レンドン将軍が、そちらの兵の所為で自分の兵の帰陣が遅れた。そちらの責任者を引き渡せと主張すれば、将軍を恐れた自分達の上官が、それに応じかねないのだ。


「礼を言う」


 暫く進んだ後、キリコがおもむろに言った。


「いえ」


 チェルラは不機嫌そうに答えたが、口元には笑みが浮かんでいた。


 こうしてエストレーダ兵に会えばブエルトニス兵だと主張し、ブエルトニスと遭遇すればエストレーダと名乗って彼らは進んだ。どうして軍旗を掲げていないのかと指摘される事もがあったが、それはチェルラの機転で乗り切った。そしてある程度進むと、まさか、こんなところに敵兵が居るはずがないという先入観からか、誰何される事も少なくなった。


 セルミア王都付近に到着した彼らは、分解して持ち運んでいたランリエル軍旗を組み立て掲げた。王都の城壁からもそれが見え、兵士達から歓声が上がった。キリコ達が城門に達する頃には城壁は人で満ちていた。大歓声の中、敵陣を突破した5百の英雄達は城門を潜ったのだった。


「やったか!!」


 セルミア王都から作戦成功の狼煙が上がったとの報告にサルヴァ王子が会心の声を上げた。これでセルミア王都の士気は上がり、こちらは落ち着いて対策が練れる。


 胸を撫で下ろしたサルヴァ王子だったが、その背中に氷を投げ入れられたかのような深刻な事態が発生した。タランラグラからの早馬が、タランラグラ南部の海を皇国海軍の大艦隊が通過したとの情報をもたらしたのだ。

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