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愚者達の戦記  作者: 六三
皇国編
310/443

第218:成り上がり

 サルヴァ王子とクレックス王との酒宴から1ヶ月。


 クレックス王が王でなくなる。サルヴァ王子が王子でなくなる。その発表は、まだ公式にはなされていない。私的にも、まだ秘事の部類だ。王宮との伝手を使い、そのとっておきの極秘情報をとある舞踏会で披露した貴族は、何を馬鹿な話をと笑い者となった。


 事が重大過ぎる。東方では古くから大国として君臨していたランリエルだが、かつては大陸中央の人々は名すら聞いた事もない辺境の力自慢でしかなかった。しかし今では中央に進出し、数ヶ国を支配下におく大陸全土に影響を与える超大国。発表し、明日からはこうする。で済む話ではないのだ。外交的に各国の賛成も必要だ。


 ランリエルの外交官達が、まず、大使として配下の国々に飛んだ。他の国に通達した挙句、ここで身内から反対が出ればランリエルは面目を失う。配下の国々は全会一致。それが最低条件だ。


 外交官達が、各国を訪問する名目は別のものとしてあった。しかも、二重の防御策だ。対皇国戦を想定し、出兵規模の検討を極秘裏に行いたい。その為、表向きは友好関係を強化する為に式典を開く日程調整という名目とする。しかし、実際は、そのどちらでもないのだ。


 大使を迎えた国々では、多くの者が困惑した。ランリエル、ひいては、サルヴァ王子の権勢を強めんとする為とは理解できる。だが、まさか、このような手で来るとは、予想の範囲外だった。


 カルデイ皇帝ベネガスも困惑した。何せ、この皇帝は、今でもサルヴァ王子とは、かなり複雑な関係なのだ。


 カルデイ帝国はランリエルの支配下にあり、ランリエルの王子はカルデイ皇帝より上の存在だ。しかし、そのランリエルのサルヴァ王子は、カルデイ皇帝が任命したセルミア王でもある。一面でサルヴァ王子の方が偉く、一面ではカルデイ皇帝の方が偉いのだ。そのサルヴァ王子の位が、今回また一段上がる。


「これは、どのようになるのじゃ?」


 ベネガスは首を傾げ廷臣達に問うたが、彼らも要領を得ない。


「たしかに……、陛下とサルヴァ王子との関係においては、サルヴァ王子の力が強まりますが、陛下とセルミア王としてのサルヴァ王子との関係は、そのままと言えますので、陛下と王子との関係も、そのまま……なのでは、ないでしょうか」

「しかし、もしかすると、セルミアの王位を返上という事も、あり得るかと……」


「いやいや、セルミア王位には、セルミアの領土問題もある。むざむざ、それを捨てる事もないかと……」

「そうは言っても、現在サルヴァ王子にとってセルミアの要地は、陛下がお与えになった我が国とランリエルとの国境にある領地ではなく、新たに得たロタ北部のご領地でありましょう。セルミア王位を返上しても、それはランリエルの所有となるはず。セルミア王の位に、それほど拘るでしょうか」


 それでも、国境付近のセルミア領が戻ってくるなら、セルミア王位を捨てて貰ってもベネガスに損はなさそうなものだが、実は、そうではない。


 ランリエルに敗北し、国内の貴族達の多くが独立して軍事力も大幅に削減された。ベネガスの国内での権威も凋落の一途を辿った。貴族達に侮られるだけならまだしも、下手をすれば、臣下の中から帝位を簒奪しようとする者が現れても不思議はない。


 しかし、現在カルデイは、ランリエルの支配下。その状況で力だけでは簒奪出来ない。帝位を目指す者は必ずこう言うだろう。


「私がカルデイ皇帝になった暁には、一層ランリエルに尽くす所存で御座います」


 そうして、ランリエルの後ろ盾を得ようとするはずだ。しかし、サルヴァ王子がセルミア王であったらどうだろうか。何せ、形だけとはいえ、皇帝ベネガスの臣下なのだ。そのベネガス皇帝を倒すという話をサルヴァ王子に出来るはずがない。


 その為、ベネガスに取っても、この問題は気になるところだ。しかし、今のところセルミアについて、ランリエルから何の話も来ていない。それが、一層ベネガスの心を乱す。


「いっその事、こちらからセルミアについて、問うてみてはどうじゃ」


 しかし、廷臣達は顔を見合わせるばかりだ。言葉にはしないが、内心反対なのは一目瞭然である。やむを得ずというふうに、宰相カルバハルが進み出た。


「恐れながら、陛下のお言葉とはいえ、それは、少し不味かろうかと存じます」

「何が問題というか。ランリエルに問うてみるだけであろう」


「万一、では御座いますが、ランリエルの方ではセルミアの件について、失念しているだけかも知れません。あるいは、ランリエルも微妙な問題と考え対応を先延ばしにしているのやも知れません。それを、こちらから切り出すは、藪を叩いて蛇を誘い出すようなもの。ここは、心積もりだけは忘れず、ランリエルの動きを待つべきかと」


 ベネガスは唸り、微妙な問題を扱う時の外交の秘儀の一つである、触れないでおく、を実践するよりなかったのだった。



 ベルヴァースで槍玉に上がったのは、ルージ王子だった。


「それで、お前はどういう事になるのじゃ?」


 夫を、お前呼ばわりするのは、ルージ王子の妻、アルベルティーナ王女だ。


「えーと……。どうなるんだろう?」


 問われた王子も困惑を隠せない。というより、感情を隠すという芸当が出来ない素直な性格だ。


「何じゃ、分からんのか。役に立たぬ男じゃな」

 と、夫を罵倒し、王女は胸に抱く赤ん坊に視線を向けた。


「全く、お主の父でなかったら城から追い出しておるところじゃ。そうであろう?」


 母の言葉が分かっていないであろう赤ん坊は、天使の微笑でキャッキャッと応じる。


「ほら。リオも、こう申しておる」

「そ、そんな!」


 外見だけ見れば、美少女を経て一見きりりとした美女に成長したアルベルティーナ王女だが、しかし、その言動は実年齢に比べて幼い。子供を産んでも、母として、ちゃんと我が子を愛せるのかと周囲は危ぶんでいたが、思いの外、王女は我が子を可愛がっていた。とはいえ、母としてなのかと言えば、周囲の者も言葉に詰まった。


「何と可愛らしい赤子なのじゃ。まるで、お人形のようではないか」


 我が子を見た王女の第一声だ。金髪碧眼の両親から産まれたエリオットも、当然、金髪碧眼だ。それが自分に生き写しだと、更に王女を喜ばせる。目が開き首も据わってくると、早速、宮廷画家に母子揃っての肖像画を描かせたりもした。親馬鹿というより、馬鹿親と呼ぶに相応しい。ちなみにリオとは、エリオットの愛称だ。


 そう言うアルベルティーナ王女のお腹が大きい。太っているのではない。手足は柳の枝のようにほっそりとし、お腹だけが大きいのだ。2人目である。


 子供を産めば体型が崩れるもので、美貌を誇ったアルベルティーナも例外ではない。かなり金をかけ、本人以外は気付かぬほどに体型を戻したが、やはり、本人には分かる。だが、服で隠してしまえば誤魔化せるのにも気付いた。小柄な王女にしては、意外に安産だった事もある。


 こんなに可愛いのなら、もう1人産んでしまおうと考えたらしい。当然、そんなに気軽に考えられるのも、自分は可愛がるだけで、実際の世話は乳母や侍女に任せっきりだからだ。


 ままごとのような夫婦。いや、お伽噺の世界にいる夫婦。男女の閨の事すら、可愛い赤ん坊を得る為の楽しい儀式である。王女は我が侭放題言い、王子は、王女の我が侭に一々反応して頭を抱え振り回される。政治も軍事もない、玩具のような世界だ。


 それを微笑ましく眺めているのは長身の侍女長のエリーカだ。彼女は、ルージ王子が、かなりの部分で、王女に合わせてあげているのにすでに気付いていた。王女の方も無意識にそれを感じているのか、エリーカから見ても、日々我が侭が増え、王女は年齢を重ねるごとに、むしろ精神的には幼くなっている気すらする。


 傍若無人に振舞う王女に合わせ続けるルージ王子に、安心しているのだ。いや、合わせるというより、ルージ王子が、アルベルティーナ王女の世界の住人になっている。


 初めはルージ王子を幼く頼りないと見ていたエリーカだが、ある時、それに気付き戦慄すら覚えた。愛する者を大事にする者は多い。しかし、愛する者が大事に思うものまで大事にする者は少ない。そして、愛する者の全てを大事にする者が、果たして幾人いるだろうか。


 甘やかせ過ぎと考える者も多いだろう。だが、実際、それで2人は上手く行っている。2人にとってそれが正解なのだ。他の夫婦が同じようにして失敗したとしても、2人にとっては関係のない話である。万人にとっての正解の夫婦関係などあろうはずもない。


 アルベルティーナ王女との語らいを終えたルージ王子が、その後、教育係のマーティンソンに聞いたところでは、宮廷ではランリエルの申し出を、そのまま受けると決まったらしい。現在では、次期ベルヴァース国王であるルージ王子の教育係に落ち着いているマーティンソンだが、かつては宰相を務めた事もある政界の大物である。王宮中に耳を持っていた。


「ベルヴァースは、ランリエルに南部を押さえられ、東のカルデイもランリエルの支配下。他はコルス山脈に閉ざされております。否も応も御座いませぬ」

「うん」


 頷くルージ王子の表情は、アルベルティーナ王女の世界の住人だった時とは別人のようだ。穏和なものを残しつつも、瞳に奥には思慮深さも秘めている。


 前回の皇国軍の侵攻時、アルベルティーナ王女を守る為に死すら覚悟した。彼は確かに王女を甘やかしているが、命をかけて甘やかしているのだ。彼女には何の心配もかけさせない。彼女と共に、安穏と平和に暮らす。王女にはそう信じさせる。裏で自分がそれを支え、王女には悟らせない。


「とにかく、今はランリエルに従順である事です。万一……。ランリエルが皇国に敗れる事があっても、我が国のような小国に、ランリエルに逆らう力などなかったと主張し、生き残る為にも」

「うん」



 ベルヴァースなどより、遥かに往生際が悪いのはバルバールだった。


 ランリエルとの関係を考えればベルヴァースと同じく、受け入れるしかないのだが、それにも受け入れ方というものがある。


 大国に挟まれ生きて来たバルバールだ。自然、その外交は強かとなっていた。世の中は、従順であるより駄々をこねた方が得をするというものなのを理解している。


 軍部との連携も重要だ。権力を握るサルヴァ王子が軍人であるランリエルはともかく、他の国々では、外交と軍事はそれほど親密には連携していない。それぞれ、要請があれば動く、というのが精々だ。しかし、バルバールでは、平素から連携が行われていた。


「今回の件、どう思われるか?」

 と、ディアスに問うたのは、バルバール宰相スオミである。


 小国であるバルバールに形式ばったところは少ない。ディアスの意見を聞く為に、スオミは質素な自分の屋敷に彼を招いていた。出されたお茶も、安くもないが高くもない。


 ディアスはその、そこそこの香りと味がするお茶を啜りつつ、首を振った。


「ランリエルがバスティア島を欲しいと言って来た時に聞きたい話でしたね」


 バスティア島とは、セルミア王都改修時にランリエルに買い取られた内海の要地。交易の中継港として利益を上げていた。20年分の税収の金額でと主張したが、ランリエルに14年分まで値切られたのだ。


「後、2年分、いや、3年分は吹っかけられたか」


 そう言いつつ、スオミも自分の茶を口に運んだ。


 聞いていると、何とがめつい奴らかと思われるが、実は、別に金額はどうでも良かった。何かにつけ、厄介な相手。そう思わせるのが重要なのだ。底の浅い、強欲だけの者とは大きく違う。


 我が儘を言うだけの者は、所詮は最後には愛想をつかされる。厄介な相手とは思われながらも愛想はつかされない。そのギリギリの細い綱を綱渡りのように足を踏み外さず渡る。それが重要なのだ。


「まあ、今回は、何か引き出す事は出来そうにありません。返答を長引かせ、勿体ぶるのが精々でしょう」

「その辺りであろうな」


 測ったように2人同時に茶を口に付けた。


「これで、軍事的には何か動きはあると思われるか」

「さて。皇国は激怒するでしょうが、それが軍事的な動きに直結するかと言えば、それはないでしょう」


 以前の皇国なら間違いなく動いていた。自信は実力よりも膨れ上がり、自尊心はそれすらも超えていた。どんな相手でも虫けらのように踏み潰せる。そう考えていた。しかし、その過剰な自信はランリエルに敗北し霧散した。だが、まだ肥大した自尊心は残っている。それを、副帝アルベルドが抑えているのが皇国の現状だ。


「これで頭に血を上らせ遮二無二軍勢を動かす皇国なら、サルヴァ殿下も苦労はしていません。私達も、小細工せず、諸手を挙げて殿下に協力して皇国を打ち破り、バルバールは安泰。目出度し目出度しです」

「お主にも苦労をかけるな」


 ディアスは、それには返答せず、間を持たせる為に茶に口を付けた。


 いつ裏切るかもしれない男。ディアスは、そう評されている。だが、裏切るのが趣味な訳ではない。好きな訳でもない。必要だったらやる。それだけの話だ。しかも、裏切るかもしれない男などという評価は、本当に裏切る時には邪魔だ。警戒されるに決まっている。だが、ディアスは、その警戒すらも武器にしていた。


 それは、あそこまであからさまなのに裏切られるなら、裏切られる方が無用心過ぎるのだ。というだけではない。


 バルバールが卑怯なのではない。ディアスが卑怯なのだ。そうとまで思われている。全てではないが、悪評の大半はディアスが引き受けている。ディアス自身それを自覚し、むしろそうなるように振る舞っているが、自ら悪者になる本当は正義感溢れる者、などという自己陶酔とは無縁だ。現象として、その方が都合が良いからやっている。それだけの事だ。


「ただ……」

「なんだ?」


「私が非難される事で、私の妻と子に危害が加えられそうな時は、どこか遠くへ逃がしてやって下さい」

「心得ておる」


 自分の妻。自分の子。自分のものならば自分と共に滅びるのも良いだろう。だが、妻と子は、自分のものではない。


 他の国の民よりバルバールの民が大事。当たり前の話だ。自分が正しい人であるよりバルバールの民が大事。当たり前の話だ。そして、自分が私情に流されたと非難されない事より、妻と子の命が大事。それも当たり前の話だ。



 ランリエル支配下の国々の中で、一番心穏やかでなかったのはコスティラだった。


 ランリエルがバルバールを攻めた時、長年の宿縁を捨てバルバールに加勢した。しかし、にもかかわらず、当のバルバールはランリエルに寝返った。バルバール王国軍は、矛を逆さまに攻め入り、コスティラはランリエルに降伏するに至った。


 彼らはバルバールを憎み、本来はランリエルにも従順ないわれはない。だが、豪傑揃いのコスティラ人だ。負けたなら従うのは仕方なしと割り切って、大人しく従っていた。しかし、コスティラ王ロジオンは、ある事に、ふと気付いた。


 従順な我らより、我が儘言い放題のバルバールの方が優遇されているのではないか。そしてそれは、気のせいではなく事実である。


 そして一度気付くと、バルバールの動向とランリエルの対応が気になって仕方がない。


 ケルディラ攻めの時にバルバールはロタ方面との両面作戦を行ったが、その時もサルヴァ王子は、バルバール軍がケルディラ方面、ロタ方面へと軍勢が行き来するのを許すなど融通を利かせた。


 軍事的に必要な事であり、それをせねばバルバール軍は不要な苦戦を強いられる。それは不要に兵士が死ぬ事であり、それを避けるのはバルバールとしては当然なのだが、バルバール優遇を不満に思うコスティラとしては、神経を逆なでられる。


 その後、サルヴァ王子とアルベルド王との会談において、コスティラ騎士がサルヴァ王子の警護に付き、その親密さを内外に示す事に成功しているが、その一時で終わらせては意味がない。継続する事が重要なのだ。


「バルバールは、どう返答しておる」


 ロジオンが宰相イリューシンに問うた。ランリエルとの戦いの時にコスティラ軍を率いたロジオンの参謀を勤めた男だ。ロジオンの信任は篤い。


「今のところ態度は保留しているようですが、それ以上は何とも」


 イリューシンの答えはロジオンを満足させるものではなかったが、それも仕方がないと理解もしている。そのような情報が容易に漏れるはずがない。そして、これだけの情報でも想像は出来る。


「返答を渋り、また何やら無心しておるのであろうな」

「おそらくは」


 実際は、今回は、おねだりするのを諦めたバルバールだが、疑心暗鬼に陥っているコスティラが、そう疑うのもやむを得ない。


 最近になって、やっと、少々ぐずった方が構って貰えると学習したコスティラだ。高度な政治的駆け引きと見えて、大局を俯瞰して見れば、実は、どうすれば母親の愛情を自分が独占出来るかと思案する幼い兄弟の姿と変わらぬところが、この世の喜劇めいたところだ。良く出来た手のかからない子供より、手のかかる子供が優遇されて見えるのと同じである。


 ならば、少々ぐずって見ようかとコスティラは考えていた。無論、彼らはそれを、高度な駆け引きと信じている。


「ケルディラの件、少し揺さぶって見ようではないか」

「ケルディラ……ですか。しかし、それは望みが大き過ぎはありませぬか」


 ケルディラの件とは、コスティラとケルディラの合併問題の事だ。ケルディラを攻める時、サルヴァ王子はコスティラとの合併を大義名分とした。そしてそのケルディラも降伏したのだが、サルヴァ王子は、ケルディラの存続を認めている。


 約束が違うではないか! コスティラとしては、そう叫びたいところだが、消滅させられるとなればケルディラは頑強に抵抗しただろう。ケルディラ王都を力ずくで落としても、ケルディラ王家の血を引く貴族達がケルディラ全土で王家再興を唱え蜂起したはずだ。それは、ロジオンも認めざるを得ない。


「戴冠を支持して欲しくば直ちにケルディラを併呑させよ。などとは言わぬ。だが、期限は切りたいところだ」


 合併するにしても、一旦は降伏させてから徐々にという段階を経なくてはならない。だが、その徐々にの期間は短くすべきだ。下手に長引けばなし崩しに、今まで通り分かれたまま。という事もあり得るのだ。


「なるほど……」


 ロジオンの信任篤いイリューシンだが、その実直な人柄によって各部門の大臣達の調整役、王の補佐役が彼の仕事だ。成長著しいロジオンである。彼の政治感覚は、すでにイリューシンを超えている。


 とはいえ、では、10年後。などと言うのも性急だ。ケルディラにしても、将来の消滅が確定するとなれば、その期限を待たずに反乱が起こりかねない。


 ランリエルとも協議した結果、結局、期限を決める為の協議を断続的に続ける。という政治的決着を見た。ケルディラを消滅させるのは確定ではないが、併呑するという話も忘れない。という、大人、な落としどころである。



 その後、渋っていたバルバールからもランリエルの決定を支持するとの返答を受けた。返事を待たずに進めていた準備も更に速度を増した。


 戴冠の為の宮殿を急遽建築中である。急ぎ完成させる為、大きくはないが、内外を飾る装飾品は全て一流の物だ。戴冠する為にわざわざ宮殿を建てるなど浪費ではないか。そう批判する者は誰一人としていない。ただの戴冠ではない。ランリエルにとって初めての戴冠なのだ。


 戴冠の式典の日付も決まった。外国からも多くの王族、貴族を招く。その日、クレックス王はランリエル王国の王冠を頭上から外し、新たな王冠を頭に載せる。


 その後、クレックス王はこう呼ばれるのだ。クレックス皇帝と。そしてサルヴァ王子はサルヴァ皇子。


 ランリエル王国は、ランリエル皇国となるのだ。

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