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愚者達の戦記  作者: 六三
皇国編
217/443

第127話:皇国軍

 皇国によるランリエル討伐。それは皇帝の弟にして衛星国家デル・レイ王国国王アルベルドにして寝耳に水だった。この時はまだ、対外的な正式発表の前であったが決定という事だった。


 ランリエルと敵対して勢力拡大を目論む彼にとって、皇国によるランリエル討伐は避けたかった。それを行うのは自分が皇帝になってから。そう考えていた。


 しかも皇帝にランリエル討伐を上奏したのはなんと次兄である宰相ナサリオなのだ。ナサリオの話を聞くべくアルベルドは彼の元に向かった。ナサリオはすぐさま執務室に弟を通し人払いも命じる。これで兄弟2人きりだ。


「すまぬなアルベルド。お主にも話を通すべきだったのだが、上奏は機を逃してはならん。誰に吹き込まれたかは分からぬが、皇帝陛下がランリエルへ激しい憤りの言葉を述べられてな。それほど陛下のお心を乱すならばランリエル討伐の軍を起こすべきと上奏したのだ」

「なるほど。ですが、いかに皇帝陛下が憤りの言葉を述べられたからと言っても、それだけで討伐の軍を挙げるのはいかがなものでしょうか」


「分かっておる。何もそれだけで軍を動かすのではない。風聞などを鵜呑みにはせぬが、確かにランリエルは侮れぬ。お主もそう思うからこそランリエルを警戒しているのではないか?」

「いえ。それはあくまでケルディラやロタがランリエルの餌食になるのを不憫と思うが故。ランリエルが皇国の脅威になろうなど、夢にも考えてはおりませぬ」


「しかし、毒華になりかねぬ芽が出ておるのだ。何も育つのを待つ事もあるまい」

「確かに」


 アルベルドとしては自らの手でランリエルを倒したいところだが、そうランリエルの弁護ばかりも出来ない。討伐には反対だが、自らは戦い続ける。というのは流石に矛盾。納得した態を演じるしかなかった。だが、確認すべき事もある。


「とはいえ、いくら災いの芽を摘むと言っても、兄上もランリエル討伐には反対だったはず。このお心の変わりようはいかがなされたのですか?」

「あ、ああ、まあ、皇帝陛下が強く求められるものをそこまでランリエルを擁護してやる必要もないと思ったまでだ」


 今まで理路騒然としていたナサリオの歯切れが悪い。アルベルドはそれに気付いたが、ここはあえて流した。


「しかし、ランリエル討伐は良いとして、まさかナサリオ兄上がこの任を買って出るとは思いませんでした。バルガスやカレスティア公にお任せになればよろしいものを」


 バルガスは皇国軍総司令であり、カレスティア公は皇国の有力貴族だ。通常の考えでは、皇帝の弟であり衛星国家の国王たるアルベルドが皇国、衛星国家の全軍を率いる。とでもなりそうだが、たとえ皇族であろうと衛星国家の王となれば格下。それが皇国の政策だ。皇国軍を率いるのは皇国の人間でなくてはならない。皇帝自らの親征でなければ、慣例として皇国軍総司令か皇国の有力貴族が率いる。その意味では、宰相のナサリオが軍を率いるのは異例だ。


「確かに彼らでも問題は無かろう」

「では、なぜ兄上自ら? 万一失敗すれば、それこそお命がありませぬぞ」


「分かっておる。兄上に、皇帝陛下に疎まれているこの時に、と言いたいのであろう。しかしだ。だからこそ成し遂げれば兄上の誤解も解け、我がお気持ちを分かって下さるだろう」

「兄上がそこまで皇帝陛下の事をお思いとは……」


 アルベルドは感嘆の声を上げた。その大部分は演技だったが、僅かながら本心も混じっていた。ここまで愚かなのかと。それとも貴族として染み付いた皇帝が絶対という価値観、いや性≪さが≫であろうか。どちらにしろ自分は幼き頃にそれが幻だと気付いた。それに己の生命をかけるなど愚の骨頂。大人物といわれる皇国宰相ナサリオも所詮はその殻を破れない。金の卵は価値があるというが、その中に宿る雛は殻を破れず朽ち果てる。黄金に輝くその中は腐りは果てているのだ。


「しかし、そのお心は尊いですが、それでも今回は身を慎むべきです。兄上にもしもの事が有ればフィデリア義姉上やユーリも悲しみましょう」


 軍制というものの存在すら怪しかった太古の昔ならばいざ知らず、軍が組織として確立されている今、たとえ一番上に立つ者が無能でも下の者が有能ならば軍は成り立つ。将軍がわざわざ命令を出さなくても幕僚達が当たり前のように偵察を出し奇襲に備えるのだ。そして大軍に軍略なし、という言葉があるように大軍に鮮やかな奇策など不要。大軍にとって必要なのは’普通に戦う’。それだけだ。


 その意味では大軍をまとめる者は軍事の才よりも――才があるに越した事はないが――統率力を重視すべきである。そしてその観点において、宰相ナサリオは総司令バルガスやカレスティア公を上回る。能力的にも勿論だが、皇帝の弟にして皇国宰相という地位が重しとなる。


 アルベルドとてランリエルが皇国に敵し得るとは思わないが、それでも現時点での滅亡は望んでいない。少しでもランリエルが生き延びる可能性が高くなって欲しいところだ。


「分かっておる。だが、いつまでも皇帝陛下の陰に怯えている訳にもいかぬ。少し前にフィデリアから手紙が届いた。ユーリが私に会いたがっていると。フィデリアからはそのような言葉は無い。私の身を案じるばかりだ。だが、それだけにな」


 夫婦には2人だけにしか分からない機微というものがある。行間には万遍の想いが込められていた。


「2人を守ろうとしてくれるお主の気持ちは嬉しいが、それとこれとは話が別だ」


 なるほど。義姉上やユーリと離れて暮らすのが思いの外堪えているのか。確かに大陸一の美貌と呼ばれる妻と利発な息子。その2人にこのままずっと会えぬと思えば苦しいだろう。


 そう、命に変えても惜しくない者達と会えぬのならば死んでいるのも同然だ。その意味では今のナサリオは死人。命を賭けるのではない。命を得ようとしているのだ。まったく愚かな男だ。


 妻と息子を取り戻す為に命を賭して戦う。まるで美談かのように聞こえるが、何の事は無い。己の私情で100万の軍勢を動員し、ランリエル勢力5ヶ国を滅ぼそうとしているだけでないか。


 ナサリオ自身、皇帝の威光、ランリエルの脅威、そして自分の私情。それらを融合させた結果であり私情だけで戦うのではないが、その一面があるのは確かだった。そしてナサリオの意思が固いのも理解した。いくら言葉を尽くしても考えを変えぬだろう。


「兄上がそこまでのお覚悟ならば、もう止めはいたしませぬ。ご武運をお祈りいたします」

「分かってくれたか。だが、その口ぶりではお主は来てくれぬのか? デル・レイ勢はお主が率いるものだと考えていたが」


「はい。今回は総司令のクリストバルに任せます」

「そうか。お主には力になって欲しかったのだがな」


 ナサリオは意外そうだ。ランリエルとの戦いでアルベルドは親征だった。ならば今回もそうだと考えていた。


「バルガスやカレスティア公が軍勢を率いるならば私が居てもやりにくかろうと考えておりました。しかし兄上が軍勢を率いると聞き、ならばやはり私が出ようかとも考えましたが、兄上のお心を知った今、それも止めておきます」

「なぜだ?」

「本来ならば誰の進言であっても、その功績は軍勢を率いる者に与えられるべきですが、今のパトリシオ兄上、いえ、皇帝陛下は兄上に嫉妬しておいでです。そのお心が事実を捻じ曲げてしまいかねません。私の進言で戦いに勝てば、皇帝陛下は兄上ではなく私の手柄とするでしょう。そうなれば折角の兄上の苦労も水の泡です」

「確かにそうかも知れん」


 ナサリオの顔が悲痛に歪む。たとえ功績を挙げてもそれが無かった事にされかねない。決意を持って挑む戦いだけに、その現実が心に突き刺さる。もっとも、アルベルドにしてみれば、ナサリオを案じての事ではない。


 ランリエルとの戦いで武名を上げた。その名声は必要だが、今回ばかりはそれが足枷となる。自分は現時点でのランリエルの滅亡を望んではいない。だが、ナサリオから相談を受け良策を進言すればランリエルを倒してしまい、愚策を与え万一皇国軍が敗北すれば責任の一端を負わされる。ここは出陣すべきではない。


 そして下手にナサリオの足を引っ張ろうなどと考えれば、思わぬ災いにもなりかねない。運を天に任せるのは趣味ではないが、今回は総司令のクリストバルに軍勢を任せ成り行きを見守るしかなかった。


 皇国軍とナサリオの出陣を止められぬと見たアルベルドは、軍勢の準備を進める為とすぐさまデル・レイに帰国した。もはや関わるべきではない。8つある衛星国家の1国王に過ぎない。その立場を取るべきである。


 ただし、アルベルドは1つの手を打った。討伐するならばランリエル一国だけではなく、その支配下の国すべて。皇帝にそう進言したのだ。


「5ヶ国もの国を討伐するは今まで例が御座いません。皇帝パトリシオの名は長きに渡り語り継がれるで御座いましょう」


 皇帝は頷き、ランリエル勢力すべてが対象と決まったのだ。これで多少は戦力差は縮まった。そう、大火を柄杓の水で消そうとするのを、手桶の水で消そうとするくらいには。


 しかし、自分が言い出した事だが、本気で5ヶ国を滅ぼす気か? 確かに皇祖エドゥアルドは、領土を広げるなとは言った。だが、侵攻した国を滅ぼすなど、狂気の沙汰だ。聡明なる皇祖にしては見識ある行いとは言えない。それが、皇国軍は他国を滅ぼすのが当然のように言われている。どこかで曲解されたのではないのか。だが、それを指摘してやる義理はない。自分の手でランリエルを倒せないならば、そうなっても構わない。


 いっそ、悪逆な皇国に反旗を翻す正義のデル・レイ王。それを目指すか? いや、無理だな。


 アルベルドは浮かんだ考えを即座に否定した。ランリエル勢力5ヶ国。それが滅んだ後の残りの各国を全て糾合しても、皇国に太刀打ちできるはずはないのだ。



 アルベルドと入れ違うようにランリエルの外交官サントリクィドが皇国に入った。だが、皇帝どころか宰相、いや、大臣にすら会うのも難しいのが皇国である。サントリクィドは早速水を撒くように金を放出した。取次ぎの役人は勿論、少しでも伝手のありそうな者にも惜しげもなく大金を与える。


「ランリエルは余程必死と見える」

「無理もありません。何せ皇国軍が動くのですからな」

「あんな東の辺境から、わざわざ皇帝陛下の足元に跪きに来るとは健気な事よ」


 元々幼稚とも思える矜持からランリエルに激した皇国貴族達だ。弁明の大使が慌てふためき飛んで来た事に、溜飲が下がり冷静になる者も居たが、多くの者はまだ収まらない。サントリクィドとランリエルを散々にこき下ろした。


 嘲笑の豪雨を浴びる中サントリクィドは精力的に動いた。時には、明らかに詐欺と思われる皇帝陛下に会わせるという言葉にすら乗り大金を与えた。当然、皇帝にも会えず金も戻ってこなかったが、今は万分の一の奇跡にでもすがるしかない。


「皇帝に会えさえすれば良いのだ。お会い出来れば必ずやランリエルへの出兵を止めてみせる」


 ある日の夜、宿でサントリクィドは鬼気迫る顔で随員の者に溢した。それは己に言い聞かせるかのようだった。


 そしてついに皇都に到着して4日。皇帝自身が呼び出したのではなく、皇族、衛星国家の国王でも無い者としてはここ数十年で最速とも言われる短期間で皇帝に拝謁する機会を得た。


 サントリクィドが使った手段は犯罪まがいどころか、完全に犯罪だった。取次ぎの役人に多額の金を渡し、本人の承諾があれば他の者と順番を入れ替えても良いとの言質を取った。だが、そうは言っても他の者達も主君の命を受けやって来て長い時間を待ち続けていたのだ。多少の金を貰っても主君を裏切れば未来はない。本来ならば順番を変わってくれる者など居るはずがない。


 サントリクィドは人生を買えるほどの金を渡したのだ。その者は金貨を満載した馬車を祖国とは全く反対方向へと馬車を走らせた。両親、妻子、そして友人達とすら2度と会わない覚悟。それだけの金だ。広大な領地を買い、そこで美しい妾を囲って面白おかしく暮らすのだ。彼の主君は怒りに燃え妻子は嘆き悲しむが、サントリクィドの知った事ではない。剣で脅したのではない。金でそれを売ったのは男の意思だ。


 謁見の日。袖を通す礼服を、わざと東方の田舎者と侮らせる為に時代遅れの物にしようか、それとも東方の覇者の大使としての威厳を保つ為に一部の隙も無い物にしようかと悩み抜き後者を選んだ。皇帝に述べる言上も、その衣装に合わせ組み立てる。サントリクィドは一睡もせずその作業に没頭した。


 謁見を前に湯を浴び身を清めた。皺一つ無い衣装に身を包み、鏡を前に表情をも確認した。


 謁見の間には皇帝の他、宰相ナサリオや大臣達のみならず皇国貴族達が詰め掛けた。警護の騎士達を含めれば千を超える人数である。だが、偉大なる皇国の謁見の間はそれを軽々と収容した。


 演劇を鑑賞するかのような気分で待ち構える皇国貴族達の前に現れたのは、徹夜の疲れなど一片も見せず完璧な装いの大使だった。大皇国の皇帝と臣下達、完全武装の数百の騎士を前にその視線は微塵もたじろがずまっすぐに前を見据え慇懃無礼な印象を与えかねないが、口元の両端が僅かに上がって笑みを作り鋭さを和らげる。真新しい絹が擦れ合う音を微かに鳴らせながら歩み出る。


「ランリエル王国大使サントリクィドで御座います。偉大なる皇帝陛下に、ご拝謁の名誉を頂き光栄の極みに御座います」


 美麗字句を並び立てたがこれでも過剰とは言えない。他国の使者などは、感激の涙を流してみせる者までいるのだ。サントリクィドの口上に皇帝は小さく頷くだけで返した。


 代わりに応えたのは皇帝の傍に立つ秘書官カルドナである。黒い瞳と髪を持ち、その髪は香油で綺麗に後ろに撫で付けられている。これは彼に限った事ではなかった。皇国の臣下の多くは彼のように’金髪碧眼以外’の者達だ。建国当初はあまり気にされず金髪碧眼の臣下も多かったのだが、馬鹿馬鹿しい事にいつしか金髪碧眼は皇族と衛星国家の王族の象徴である。とされるようになったのだ。噂では時の皇帝に黒髪の秘書官が媚を売り言い出したとも、金髪碧眼の政敵を蹴落とす為だったとも言われる。


「東の辺境からわざわざ弁明に現れるとは殊勝な心掛け大儀である。それでは、その弁明とやらを述べるがよい」


 居丈高な物言いだが、カルドナが皇帝の威を借る小人物という訳ではない。皇帝の秘書官とはこういうものだ。


「は。さすればこの度の皇国によるランリエルへの出兵は、我がランリエルが皇国を侮り侮辱したゆえとの事で御座いますが、それは全くの事実無根で御座います」


 サントリクィドはそう口火を切った。


「そもそも我がランリエルは、我が国を侵さんとしたコスティラを返り討ちにし大陸中央に進出して皇国のご威光に触れてからというもの、その一挙手一投足に至るまで全て皇国に是非を問うて参りました。皇国を侮るなど有ろうはずも御座いません」


 ランリエルがバルバールを攻めた時、コスティラ軍はバルバールの援軍としてランリエル領内に進出した。ランリエル対コスティラだけを見れば先に手を出したのはコスティラである。また、その後のケルディラ、コスティラ統一戦は事前に皇国にお伺いを立て、ロタ内乱時の援軍は皇国の言葉に従い撤退した。対応に非の打ち所は無い。


「だが、支配下にあるカルデイとやらに自ら求めて王に任命させるとは何事か。この大陸に皇帝陛下はパトリシオ陛下のみ。それを他に皇帝を僭称させるなどもっての外」

「ごもっともな仰せで御座いますが、カルデイは我がランリエルがその影響下に収める遥か以前より帝国、皇帝を名乗っておりました。我が国が僭称させたのではありませぬ」


「今は支配しておるのであろう! ならばその場で僭称を止めさせるべきではないか!」

「は! ごもっともなお言葉。直ちにそのように伝え、僭称を止めさせまする」


 実際、ランリエルにとってカルデイが、カルデイ帝国だろうとカルデイ王国だろうと構わない。無論、カルデイ自身は屈辱でありランリエルが命じれば必死に抵抗したであろうが、皇国のご意向と伝えれば彼らも抵抗の無駄を悟りランリエルへの憎悪も避けられる。サルヴァ王子のセルミア王即位はご破算になるが、今はそれを気にする時ではない。


「それでは、カルデイの帝国、皇帝僭称を正し、ランリエルの皇国への侮辱、侮りが無い事の証とさせて頂きたく存じまする」


 皇帝の傍に立ちサントリクィドと対決していたカルドナが皇帝に向き跪いた。自分が喋るのではなく皇帝のお言葉を得る為である。


「うむ」


 皇帝は頷いた。頷いた! 頷いたのだ! ランリエルは救われた! 私はやり遂げた! サントリクィドは歓喜した。しかし、それを抑えた。早鐘のようになる心臓の音を聞きながら、優秀な外交官としての任務を果たす。


「それでは、ランリエル討伐は中止して頂けるので御座いましょうか」


 外交の鉄則として出来れば誓紙を、最低でも言質を取らなくてはならない。


「いや、それはならん」

 皇帝が言った。


 我が耳を疑った。’ならん’とはどう言う意味だ。さっき頷いたではないか。’ならん’とはどういう意味だ。’ならん’とは、駄目だという意味だったはずだ。記憶違いだろうか。そうだ。’ならん’とは’ならない’という意味に違いない。ランリエル討伐はならないのだ。きっとそうだ。


 しかし’いや’と前に付いたのはどういう意味だ。’いや’は否定のはずだ。’いや’、ランリエル討伐は’ならない’と言ったのか。何かがおかしい。


 カルドナがすくっと立ち上がった。皇帝陛下は述べられた。後は自分が対応する。


「ランリエル討伐は行われる」


 カルドナが断言した。


「で、ですがランリエルは皇国を侮ってはいないと、頷いて下さったではないですか!」


 サントリクィドが絶叫した。皇国貴族達の列から侮蔑の笑いがそこかしこで上がる。取り繕っていた東方の田舎者の化けの皮が剥がれたのだ。なまじ今まで完璧に振舞っていただけに、その滑稽さが際立つ。


「うむ。それは皇帝陛下もご理解下された」

「では、なぜランリエル討伐を中止して頂けないのですか」


「皇帝陛下が欲せられたのだ」

「な、何ですと!?」

「皇帝陛下がランリエル討伐を欲せられたのだ」


 だから理屈など関係ない。言外のその壮絶な言葉にサントリクィドは絶句した。皇帝がやりたいと言っている。だからやる。それ以上でもそれ以下でもなかった。


 その後の皇国のサントリクィドへの対応は優しかった。と言うべきだ。偉大なる皇帝陛下の前で言葉を無くし立ち尽くす非礼な田舎者を皇国騎士達は丁寧に担いで運び出し、その宿まで送り届けたのである。


 大陸暦635年春。ランリエル討伐の陣容が発表された。皇国にそれを隠そうという発想は無い。隠すのはそれによって相手に迎撃の準備をさせず、戦いを優位に進める為である。だが、皇国はその存在自体が絶対である。今更さらに優位にする必要は無いのだ。


 ベルグラード王国軍5万5千は、総司令バルデラスが率いる。

 アルデシア王国軍5万はブリオネス王自らが統率する。

 カスティー・レオン王国軍5万。オルティス王。

 ベルドット王国軍4万5千。総司令カハール。

 エストレーダ王国軍8万5千。総司令グラセス。

 デル・レイ王国軍8万。総司令クリストバル。

 バンブーナ王国軍7万5千。総司令チュエカ。

 ブエルトニス王国軍8万。デルニシオ王。

 グラノダロス皇国軍50万。皇国軍総司令バルガスらを幕僚に、皇国軍全軍及び全軍を統括するのは皇国宰相ナサリオ。


 100万を号した。

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