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心の温かさ

「お前、空飛べるの!?」

「まあな」

「マジか。そりゃすげーわ。さすが最強の人造魔獣」


 驚く俺の背を、誰かがツンツンとつつく。

 振り返ると、アーニャもジガルガと同じように宙に浮き、ニコニコと笑っていた。


「どう? 僕も飛べるんだよ? 凄いでしょ?」

「あっ、そうなの、ふーん」

「やぁん、リアクション冷たいー」


 まあ、ジガルガが飛べるなら、アーニャが飛べても不思議はないし、軽くスルーして、俺はジガルガに再び向き合う。


 そして、手を差し出し、最後に握手をした。


 ジガルガは、自分のことを、作り物、兵器だと言っていたが、ギュッと握った小さな手の温かさ――そして、俺の身を心の底から心配してくれた『心の温かさ』は、まぎれもない、人間の温かさだと、俺は思う。


 なんだか、面映ゆかったが、その気持ちを伝えると、ジガルガは、小さく笑った。


「人間を抹殺するために生まれた我が、人間の温かさを持ってるなど、出来の悪い冗談だ。だが、不思議と嫌な気分じゃないな」


「こういうときは、素直にいい気分だって言うんだよ」


「そうか。では、いい気分のまま、旅に出るとしよう。さらばだ。またいつか会おう。ずっと行動を共にするのでなければ、調和を保つ者とやらも、ぬしが我を所持しているとは、判定しないだろうからな。……では、行ってくる」


 そして、ジガルガは飛翔し、天窓を開けて、大きな空へと飛び立っていった。


 凄い速さだ。

 どんどん小さくなるジガルガの姿を見つめながら、俺は心の中で、『またな』と声をかけるのだった。



「あーあ、ジガルガちゃん、行っちゃったね」


 遠くを見るように、水平にした手のひらをおでこに当て、天窓を眺めながら言うアーニャ。


 俺は、今日のためにやってきた努力が、一応すべて報われたことで、ホッとして、全身から力が抜けたような状態になりながら、答える。


「そうだな……」


 呆けた様子の俺の顔を、覗き込むようにしながら、アーニャは問うてきた。


「寂しい?」


「まあ、そりゃな」


「僕が、その寂しさを埋めてあげようか」


「別にいい」


「やーん、冷たいー。ジガルガちゃんが解放されたことで、もう因縁はなくなったんだし、僕とももっと、仲良くしようよぉ」


「考えとく」


 そう言って俺は、店内にあった椅子に腰を下ろした。


 アーニャの治癒魔法でかなり回復したとはいえ、やはり、まだまだ骨の髄まで疲労でいっぱいであり、ずっと立ち続けるのは、少々きつかった。

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