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外界への興味

 静かに沈黙していたアーニャが、我慢しきれず、会話に割り込む。


「そーゆーことだね。調和を保つ者が、ご主人様を殺すのを諦めたのは、思念体同然のご主人様には、物理的なあらゆる暴力が通用しないからさ。ナナリーちゃんなら、僕の頭で思いつくだけでも、ざっと152通りの方法で暗殺できるよ」


「さらっと怖いこと言うんじゃねえ」


「そのアーニャの言う通りだ。……だから、我はぬしと距離を置くのだ。本音を言えば少々寂しいが、これがぬしのためだ。それに……」


 ジガルガは、小さな頭で上空を見上げる。不思議なことに、いつの間にか俺たちは全員、リングの上ではなく、いつもの古道具屋の店内に戻っていた(流石に200人の観客人造魔獣はいなかったが)。


 天井付近の、大きな天窓を通して空を見つめながら、ジガルガは、静かに、静かに言葉を続けた。


「こうして、肉体を手にした今、一度、世界を旅して、人々の営みを自分の目で見てみたいのだ。データベースで色々なことを検索するうちに、外界に対して、興味が湧いてな。……長い間、狭い本の中で暮らしてきたのだ、それくらいしても、バチは当たらぬだろう?」


 彼女の瞳には、抑えきれない好奇心が湧き上がっていた。


 そうか。

 それが、今のお前のやりたいことなんだな。


 初めて会ったとき、存在する意味を見失っていたお前が、自分の意志でやりたいことを見つけたのなら、それを、俺が止められるはずもない。


 笑顔で、送り出してやろう。

 それが友達ってもんだ。


「……分かったよ。俺としても、お前と別れるのは寂しいが、お前がしたいことを、止める気はないよ。心の向くまま、好きな所に行ってこいよ。楽しい旅になるといいな」


「うむ、色々、世話になったな」


「そりゃこっちの台詞だよ。……まあ、お前、俺よりずっと強いし、頭もいいから、余計なお世話かもしれないけど、道中、気をつけてな。知らないおじさんについて行ったりするんじゃないぞ?」


「本当に余計なお世話だ。我を子どもあつかいするな。……だが、まあ、一応留意しておこう」


「うん……」


 そこで一度、言葉が切れる。

 黙ってると、なんだかしんみりしてしまうので、俺はすぐに言葉を続けた。


「移動手段は、馬でも使うのか? でも、おこちゃまサイズのお前の身長じゃ、馬に乗れないよな」

「だから、我を子どもあつかいするなと言っているだろう。心配無用だ。見ろ」


 見ろ、と言われるまでもなく、俺は目を丸くして、ジガルガを見た。

 彼女の小さな体が、1メートルほど、ふわりと浮き上がったからだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさか、飛行術で世界旅行を? 主人公たちのいる世界で、それが可能な者がどれだけ居るのか分かりませんが、レアな存在だとしたら、かなり目立つでしょうね。
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