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ヴィルガ・レインズ

 まあ、何はともあれ、この人が、ヴィルガ・レインズで間違いないようだ。


 しかし、なんというか、全然強そうに見えないな。

 俺が言うのもなんだが、やかましいだけの小娘って感じだ。


 だが、イングリッドがヴィルガの知り合いだと分かった途端、荒くれの用心棒たちが、すごすごと引き下がっていった。ヴィルガに気を使ったというより、変にちょっかいを出して、痛い目に遭いたくないといった感じである。


 イングリッドと、積もる話で盛り上がっていたヴィルガが、突然俺の方に目を向けた。そして、イングリッドに、問う。


「このお姉ちゃんは、なんなん? インコのツレか?」

「ふふふ、驚かないでくださいよ。彼女こそ、先程話した、私が武者修行で敗北した相手なのです」

「へえ、ほんまか? 全然強そうに見えへんけどな」


 正直に言うなー。

 まあ、俺も彼女に対して同じようなことを思ったのだから、お互い様なのだが。


 ……何にしても、今からこの人に師事しなければならないのだ。

 俺はぺこりと頭を下げて、丁寧に自己紹介する。

 第一印象は大事だからね。


「はじめまして、ナナリーといいます。突然ですけど、今日は、ヴィルガさんにお願いがあって……」

「あっ、待ってや。今、勝負の最中やった。話は後や。かんにんな」


 そう言って、すたすたと奥のスペースに引っ込んでしまったヴィルガを追って、俺とイングリッドも後に続く。


 もう、俺たちを止めようとする用心棒はいなかった。


 奥のスペースは、裏カジノのようになっており、数名の客が、スロットを回したり、麻雀やカードゲームをしていた。


 ヴィルガは、いかにもやくざ風の、三人の男たちが待つ雀卓に「よっこらせ」と座り、近くに置いてあった一升瓶を一口、二口、三口飲んで、ケラケラと笑いだした。


「いやー、みんな、待たせてかんにんな。知り合いが訪ねてきたんよ。あっ、なんや、ここまでついて来たんか? ほらみんなー見て見てー、どや、なかなかべっぴんやろ? これ、ウチの弟子。んで、となりの銀髪ちゃんは、ウチの弟子をやっつけたらしいから、それなりに強いでー。あぁっ、あんたら、ウチがおらんあいだに、積み込みとかやっとらんやろうなー?」


 よ、よく喋る女だ。

 ヴィルガの怒涛の喋りも、雀卓で待っていた三人の男にとっては慣れっこのようで、一人の男が、やれやれといった感じで口を開く。


「姐さん。これ、全自動卓ですよ? 積み込みなんかできるわけないじゃないっすか。だいたい、姐さん相手にイカサマなんかしたら、姐さん、俺たちのこと、殺すでしょ?」

「なんや、人聞きの悪い。ウチかて鬼やない。そこまでせーへんわ。せいぜい、イカサマをしたお行儀の悪い手をバッサリ切り落とすくらいやって! あはははは!」


 口では笑っているが、ヴィルガの目は笑っていない。

 恐らく、いや、絶対に、イカサマの証拠を見つけたら、その不届き者の手を容赦なく切り落とすのだろう。


 なんなのこの人……怖いよ……


 どうやら、ヴィルガの麻雀勝負はまだ続きそうだったので、反社会的な雰囲気に耐えられなくなった俺は、イングリッドを促して外に出た。


 今になってやっと気がついたが、中は何らかの方法で空調を効かせていたようで、こうして外にいると、むぁっとした熱気を受けて、肌にじんわりと汗が滲んでくる。


 それでも、あの騒々しく、雑然とした店内よりは、ささやかな風を感じられる、この場の方が気持ちよかった。


 イングリッドが、小さく息を吐いて、言う。


「とんだ初対面になってしまって、すまないな。見たところ、もう勝負も終盤のようだったから、あとしばらくすればお師匠は出てこられるだろう」

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