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商業都市アルモット

 それから俺たちは、南に進路を取って旅を続け、小さな宿場町を経由し、温泉のあった町を出てから二日後の夜、どうにか目的地の商業都市アルモットにたどり着いた。


 すっかり日の落ちた時間だというのに、色とりどりの照明が輝く街並みは、商業都市の名に恥じぬ、近代的な様相である。


 立派な宿も沢山あったが、ここまでの旅で随分と所持金が減ってしまったので、豪勢なところに泊まれるはずもなく、俺とレニエルはあばら家同然の安宿に部屋を取った。


 それで、とうとう所持金がなくなった。

 まあ、ボロ宿でも、魔物に襲われる心配がなく、雨露をしのいで眠れるありがたさは高級宿と同様である。


 俺たちは、泥のようにぐっすりと眠り、次の日の朝、ボロいベッドの上に座り込んで顔を突き合わせ、ため息を吐いた。


「さて、分かっちゃいたことだが、とうとう金がなくなったな」

「そうですね。何か仕事を見つけないと、今日の昼食も買えません」


 ちなみに、ボロ宿にしてはサービスが良く、困窮した俺たちの事情を察してか、朝飯はタダでパンを恵んでもらえた(カチカチの残り物パンだけど)。


「そういえばお前、昨日、教会でプリーストを募集してないか聞いてただろ? あの話、どうなった?」


 レニエルは、力なく首を横に振った。


「駄目でした。いくらプリーストの能力があっても、正式に聖職者の資格を持っていないと、雇ってはもらえないそうです」


「まあ、向こうも信用商売だからな。素性の知れない奴を簡単に雇いはしないか」


「それでも、なるべく食い下がってお願いしてみましたが、『何より、きみはあまりにも若すぎる。たとえ聖職者の資格を持っていても、どこの教会も雇いはしないだろう』と言われてしまいました……」


 そりゃそうか。

 子供の神父さんなんて、格好つかないもんな。


「まあ、そう気を落とすなよ。俺の方で、なんとか仕事を見つけるさ。ふふふ……この美貌を利用してな」


 レニエルを元気づけるように笑い、ちらりと部屋の鏡を見ると、俺はキメ顔でポーズを取る。


 自分で言うのもなんだが、俺の目鼻立ちは、かなり整っている。

 まあ、『美少女』と形容して問題ないだろう。


 アルモットに着いてから、夜の繁華街で、すでに二回ほどチャラ男にナンパされたこともあり、俺は自分のルックスに自信を深めていた。


 ふふふ、男どもは、この長い銀髪のミステリアスさに惹かれるらしい。

 ……なんて馬鹿な冗談はともかくとして、可愛く造形してくれた魔王様には感謝である。この容姿であれば、素性不明でも、接客業なら簡単に採用されるはずだ。


「よっしゃ、とりあえず、隣の酒場で給仕のバイトでもしてみるか」


 俺は、新生活に期待を込め、意気揚々と部屋を出た。



「つ、疲れた……」


 夜。

 朝とは正反対の、げっそりとやつれた顔で、俺はボロ宿に帰って来た。


「お疲れ様です、ナナリーさん。お仕事はどうでした?」


 レニエルが、とてとてとこちらに駆け寄ってきた。

 一応、彼もいっしょに同じ酒場のバイトを受けたのだが、店主による『酒場の給仕に子供を雇うわけないだろ』という当然の理屈で採用されなかったので、先に宿へ返しておいた。


「どうもこうもないよ……労働時間激長、休憩時間極少、そんで、やけに短いスカートをはいて、ひたすら酔っ払いの相手だ。最悪としか言いようがない……」


 三十分に一回は、スケベなおやじにケツを触られるしな。

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