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旅の道連れ

 参ったな。


 俺としては、最初に言った通り、治安のいいところ(人間も魔物も寄り付かないような、森や山の奥)でのんびり暮らせればそれでいいのだが、レニエルにも、そんな世捨て人みたいな暮らしをさせるのは、少々気が引ける。


 若く美しい、才気あふれる12歳の少年だ。その気になれば、これから何にだってなれるし、いつか良い相手を見つけて恋に落ちることもあるだろう。


 それが、元魔物の俺と一蓮托生で隠者暮らしをするのは、あんまりといえばあんまりである。


 俺は、少し考えてから、口を開く。


「なあ、正直言うと、俺はシルバーメタ……じゃなくて、前の仕事みたいにヤバイ環境じゃなきゃ、別にどんな暮らしでもいいんだよ。特別やりたいことがあるっていうわけでもない。だから、なるべく、お前の思う通りにしてやりたいんだ。……俺にとっても、お前は命の恩人だからな」

「ナナリーさん……」


 それは、突然だった。

 本当に、突然、レニエルが俺に抱き着いて来たのだ。

 いきなり相撲でも取りたくなったのかといぶかしんでいると、彼が俺の胸に顔を埋めて泣いていることに気がついた。


「おい、俺、何かまずいこと、言ったか?」


 レニエルは、鼻をすすりながら答えた。


「いえ、嬉しいんです。こんなふうに、僕の身を案じて、僕のやりたいことを考えてくれる人は、今までいませんでしたから。……僕は、母の名前も知りませんし、父も兄も、僕を疎んじます。修道院の先生方は立派な人たちでしたが、やはり、僕が王の庶子ということで、一線を引いた付き合いしかしてくれませんでした」


 俺は、黙ってレニエルの後頭部を撫でてやった。


 かわいそうなやつだ。

 ずっと、孤独だったのだろう。


 しばらくそのままでいると、レニエルは落ち着いたのか、急に自分の行動を恥じたかのように、ガバッと身を離す。


「す、すいません。とんだ失礼を」


「まったくだ。いきなり胸に顔を突っ込んでくるからびっくりしたぞ。お前じゃなきゃセクハラで訴えてやるところだ」


「セクッ!? ぼ、僕はそんなつもりじゃ!」


「わかってるって、冗談だよ」


「そ、そういうのは冗談とはいいません! 冗談とは、皆で楽しく笑いあえることをいうのです!」


「俺は楽しいよ?」


「僕は楽しくありません!」


 そんなやり取りをしながら、俺たちは街道を進んでいった。

 これからどうするかは、まあ、おいおい考えればいいだろう。

 それにしても、旅の道連れがいるというのは、思ったより良いものだ。


 今朝、単身で魔王城を出てきたときは、別に何とも感じなかった。

 しかし今、このだだっ広い草原を、話し相手もなく、一人ぼっちで歩いていると想像すると、実に寒々しい気持ちになる。


 俺ってやつは、意外と寂しがり屋なのだろうか。

 そんな俺が、こうして旅の初日から、割と馬の合う『相棒』と出会ったのは、きっと幸運なことなのだろう。

 あのクソったれのグレートデーモンにやられて、死にかけなければもっと良かったけどね。


 ……まあ、これも、運命の導きってやつなのかね。

 願わくば、良い運命が、旅の行く先にありますように。


 それから、俺とレニエルは、時折襲い来る魔物たちを撃退しながら歩き続け、傾いた夕日が遠くに見える山々に沈むころ、小さな宿場町に到着した。


 大きいが簡素な宿と、酒場が一つ、商店が二つ、そして民家が四軒。

 たった、それだけの町。

 いかにも、旅の中継地点といった感じだ。

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