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救世主の名は

 ジガルガ!

 起きてくれたのか!

 頼もしさと安堵感に、瞳から涙がこぼれそうになる。


 口を開いて返事をしようとするが、もう、息も絶え絶えで、上手く言葉が出てこない。酸欠で、頭の中に文字を思い浮かべるのすら容易ではなく、俺は意識を失いつつあった。


『あっ、とりあえず、今の状態を回復させてあげるね。よいしょ……ほら、これでどう?』


 体の芯から、温かな感覚が広がっていく。

 ああ、気持ちいい。

 楽だ。


 落ち着いて、呼吸ができる。

 なんだ?

 いったい、何をしてくれたんだ?


『きみと魂を共有しているレニエルくんとの間に、目には見えない、長いパイプを通したんだよ』


『パイプ?』


『あ、パイプより、長~い紐の方が、イメージとして正しいかも。まあ、どっちにしても、つまりはね、離れてしまったきみとレニエルくんの魂を、不思議な力で繋げたってことなんだ。これでもう、長い距離を離れていても、命を失うことはないよ。でも、どっちかが死んじゃうと、もう片方も死んじゃうのは変わらないから、そこは気をつけてね』


『そんなことできるのか!? やっぱ凄いな、ジガルガは! いやあ、頼もしいぜ、まったく、お前がいなきゃ……』


 そこまで言って、やっと冷静さを取り戻した俺は、気がついた。

 心の中に響いてくる声と喋り方が、ジガルガとは似ても似つかないことに。


 ……誰だこいつ?

 知らない女の声だ。

 声は、おかしそうに笑いだす。


『やだな。そんなに訝しげな顔しないでよ。それに、危ないところを助けてあげたんだから、ひとまずはお礼くらい言ってほしいな』

『あ、ああ。そりゃそうだな。誰だか知らないけど、ありがとう。助かったよ、本当に』

『ふふ、どういたしまして』

『で、誰なんだ、あんた?』

『知りたい?』

『そりゃそうだよ!』

『でも、僕の正体を知ったら、きみ、きっと怒ると思うなあ』

『怒りゃしないよ、命の恩人なんだから』

『そう? じゃあ教えてあげる』

『うんうん』

『きみたちが、邪鬼眼の術者って呼んでる、いや~な奴がいるでしょ』

『ああ』

『それが僕』


 ……は?

 なんだって?

 邪鬼眼の術者だと?


『おい、冗談きついぞ』

『冗談じゃないってば。ちなみに、名前はアーニャ、よろしくね』

『そうか。じゃあ聞くけど、アーニャ。なんで邪鬼眼の術を使って俺に嫌がらせをしてきたお前が、俺を助けるんだ?』

『まあ、当然の疑問だよね。その質問に対する答えは、たった一つ。どっちも、僕のご主人様の命令だから』

『命令だって? いのちにかかわる嫌がらせをしたり、かと思えば瀕死の俺を助けたり、お前のご主人様、頭おかしいのか?』


 頭の中に、アーニャの楽しそうな笑いが響く。


『あははっ、ハッキリ言うね。まあ、一般人の感覚ではかれるような人じゃないのは確かかな』

『なんだそりゃ。いったいどこの誰なんだよ、そいつはよ』

『ごめんね。それは言えないんだ』

『はぁ?』

『僕は言ってもいいんじゃないかなって思うけど、ご主人様は秘密にしておきたいんだって』

『秘密にして、何か得があるのかよ。そいつ、俺の知ってる奴か?』

『ひ・み・つ』


 あ゛ぁー!

 もう!

 こいつといい、ピジャンといい、イライラする野郎ばっかりだ!


『僕、野郎じゃないよ。女の子だよ』

『やかましい! それくらい声聞けば分かるわ!』

『ねえ』

『なんだよ!』

『襲ってくるみたいだよ。ほら、正面』


 言われて、俺は前を見る。

 あと1メートルの距離まで、ピジャンが迫っていた。

 鋭い爪が、俺の喉を狙っている。

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― 新着の感想 ―
[一言] テンポが良くてとても読みやすいです!主人公の守備力を発揮できるような場面をもう少し見てみたいです!主人公最強系ではないので難しいと思いますがよろしくお願いします。話はとても面白いです!頑張っ…
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