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調和を保つ者

 そう言って肩をすくめる俺に、ピジャンは微笑んだ。


「別に、私は神様じゃないよー。スーリアの人たちが、勝手に神様だと思ってるだけー。私は、この世界の『調和を保つ者』の一人だよー。だからねー、スーリアの貴重な鉱石が他の地方に出回らないように、いろいろ苦労してるのー」


 今まで黙って事の成り行きを見守っていたレニエルが、口を開く。


「スーリアの貴重な鉱石とは、あの自然発光する『ピジャンの光石』のことですか?」

「それだけじゃないよー、スーリアには、他にも魔力を秘めた不思議な石がいっぱいあるのー。それを加工すると、すっごく強力で危険な武器になるから、他の地方に流出させたりしちゃ駄目だって、ずっと昔から言ってるのに、最近、スーリア全体で私に対する信仰心が落ちてるから、通商を始めたりする人が出てきたのー、んもー、駄目なのにー」


 小さな肩を怒らせて、プンプンとむくれるピジャンの顔には、神らしい威厳はまったくない。

 まあ、本人も『神様じゃないよ』と自分で言っているのだが。


「だからねー、スーリア人の信仰心が戻れば、通商をやめてくれるかと思ってねー、私、黒竜ちゃんをいっぱい作って、何度か集落を襲わせたのー。あと、シャーマンちゃんの夢に出て、『竜が暴れてるぞー、信仰心を高めよー』ってお告げも出したんだー。でも、あんまり皆の信仰心、回復しなくって、がっかりー」


 黒竜ちゃんとは、例の大トカゲのことだろう。

 やはり、彼女が大トカゲ共を生み出していたのか。


「でねー、私、考えたのー、もっと皆を怖がらせないと、信仰は回復しないって。だからねー、黒竜ちゃんたちを合体進化させて、でーっかい黒竜ちゃんにしたのー。んでー、完成したでっかい黒竜ちゃんを、集落の近くにテレポートさせたら、作戦通り、皆怖がって、私への信仰心、大幅アップ! これでもう、私の言いつけを破ってイハーデンと通商したりする人はいなくなるだろうからー、一件落着なのー」


「そういえばウーフが、ピジャン神から直接『お告げ』があって、皆の恐怖心を煽ったって言ってたな。全部、あんたの描いた絵図通りってわけか?」


左様さようー。『天をく巨大な竜あらわるときー、人々の畏怖心を駆り立て、信仰を復活させよー』って感じで、言っておいたのー。あれ? ちょっと言い回しが違ったっけな? まあ、どっちでもいいかー。……これで、事件の全部が分かったでしょー? 納得したー?」


「だいたいは分かったが、二つ、気になるところがある」


「なにー? この際だから、全部答えてあげちゃうよー」


 そりゃ、サービスのいいことだ。


「じゃあ、まず一つ目な。……さっき、この世界の『調和を保つ者』って言ってたけど、あんた、いったい何者なんだ?」

「おしえなーい」

「おい! 全部答えるって言ったばっかりだろ!」

「冗談だよー、怒っちゃやー」


 こ、こいつと話してると疲れる……。

 俺は、それ以上余計なことを言わずに、ピジャンが質問に答えてくれるのを待った。


「あのねー、この世界はねー、ものすごーく、緻密なバランスで成り立ってるのー、あなたたち下等生物にはわからないだろうけどー」

「いちいちイラっとくるなこいつ……」

「でねー、そのバランスを崩す存在が、『調和を乱す者』たちー。んでー、『調和を乱す者』たちを監視、排除して、世界のバランスをキープするのが私たち、『調和を保つ者』なのー」

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