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呪術

 レニエルは、さらに言葉を続ける。


「あと、もう一つ気になるのが、隣の集落の破壊のされ方です。ウーフさんは、邪悪竜の眷属によって、あの集落は襲われたと言っていましたが、なぜ、あれほど酷く、集落の隅々まで燃えていたのでしょう。邪悪竜の眷属――いえ、あの大トカゲたちの武器は、口から吐き出す水の大砲です。たとえ、争いの最中、焚き火か何かがテントに燃え移ったとしても、集落全体が炭化するほどの火事になるとは、どうにも考えにくいと思いませんか?」


「それはまあ、そうかもな。でも、あの大トカゲ、もしかしたら火も噴けるのかもしれないぜ?」


 俺の言葉を遮るよう、レニエルは首を左右に振った。


「ナナリーさん、『呪術』というものを、知っていますか?」


「知らないけど、ウーフが呪術者がどうたらこうたら言ってたのは覚えてる」


「呪術とは、僕やナナリーさんの使う魔法とは、体系の違う超常術法です」


「体系の違う? 超常術法? うーん、なんか、よくわからんな」


「そんなに難しく考えなくてもいいですよ。僕たちのものとは種類の異なる魔法だと思ってもらえれば、それでいいです」


「ああ、うん。それならわかる。それで、その呪術がどうしたんだ?」


「魔法を使うと、魔力の波動が跡として残るのと同じように、呪術にも、呪術なりの波動――分かりやすく言うなら、呪術の匂いのようなものがあって、それは、使用された地点に長く留まるんです」


「ふむふむ」


「あの集落には、濃厚な呪術の波動が残っていました。あそこは、大トカゲたちに襲われたのではなく、呪術の炎によって燃やされたんだと、僕は思っています。それも、集落を束ねる族長クラスの、高度な呪術によって」


「……お前、いったい何が言いたいんだ?」


 何が言いたいんだと問いかけながらも、俺はレニエルの考えていることを、だいたい理解していた。

 ただ、俺の頭脳ではそれを言葉にまとめるのが難しいので、静かに口を閉じ、レニエルが総括してくれるのを待った。


「……もしかして、僕は思い込みで、恐ろしいことを口にしようとしているのかもしれません。しかし、こう考えると、しっくりくるんです。今回の騒動は、スーリアの人々の、ピジャン神に対する信仰心を高めるための、ウーフさんによる自作自演なのではないでしょうか?」


 俺は、黙っていた。

 それは否定の沈黙ではなく、俺もそう思うと主張する、肯定の沈黙だった。


「もちろん、ウーフさんが、あの白い少女や大トカゲたちをどう操っているか、その方法は分かりません。でも、この奇妙な騒動で、最大の利益を得た人物は、あの人だけなんです。皆が苦しんでいる中、あの人だけは、起きている状態でピジャン神からお告げを授かったと、幸せそうで、なんだか妙な雰囲気でしたし……」


「そうだな。隣の集落は、掟を破ってイハーデンと貿易のようなことをしていたんだから、信仰心の高いウーフにとっては、はらわたが煮えくり返る思いだったろう。おまけに、最近では妹まで取り込もうとしていたんだから、怒りが頂点に達してもおかしくはないかもしれないな。凶行に走る動機は充分にある」


「ウーフさんの目的が、外界との通商をやめさせ、ピジャン神への信仰に満ちた、閉じたスーリアを作ることならば、それはほぼ達成されたわけですし、これ以上集落の人々が苦しむことはないでしょうが、これを放っておいてよいものでしょうか……」


「いいわけねえだろ。いくら直接俺たちに関係ないとはいえ、こんなこと、見過ごしておけるか」

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