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永遠に触れたくて  作者: 桜倉ちひろ
転:絡まる恋
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 「……じゃあ、良かった」

 誰の得にもならない無駄なことをしたんじゃないかってずっと思っていた。なかなかもりやんにも会えなくて、こんな時に限って飲み会の一つもない。部署が離れているし、仕事上にかかわりもないと本当に会える機会もなくて、それを言い訳にしたわけではないけれどずるずると謝る機会を逸していた。

 確かにもりやんから、例の彼女のことについて聞いていたから私は電話の対応の仕方を間違えてしまった部分はある。けれどそれはやっぱり自分のせいであって、営業をしているもりやんにとっては顧客を失ってもおかしくないほどの大失態を犯したことに変わりはない。

 補佐が『俺が処理しておいたから大丈夫だ』と言ってくれたけれど、それに甘えていた。

 それにまだあの電話の一件で傷ついた部分が回復してなかったこともあり、上手に話を出来ないと思っていたけれど、今なら……回復してきた今なら、ちゃんとした説明ができると思う。

 ギュッとカップを握りしめると、私は意を決して事の経緯を説明しようと口を開いた。けれど、もりやんに先を越された。

 「つーか、お前んとこの補佐、すげーよなぁ」

 「え、補佐? 何かしたの?」

 お前は心配するな、と言ってくれたけれどあの件については私はあの後どうなったか知らない。何度か尋ねてみたけれど、補佐は『江藤の業務に関係ない』とか言って教えてくれなかったのだ。

 けれど目の前ですごく目をキラキラさせながら感動している同期を見て、これは上司が何かをしたんだって分かった。あの人は本当に仕事が出来るし、周りへの配慮がすごく出来る人だ。それを直属の部下である私には、よく分かっている。

 気を配りすぎるから余計に仕事が増えるってことは、内緒だけど。

 「いや、今回の件。永友補佐のおかげでこっちはすげぇ助かったからさ」

 「補佐の……?」

 「あぁ」

 自分が電話中にクレームをつけてきた相手の名前を聞けなかった件については翌日謝罪をさせてもらった。けれど謝罪をしたのは営業部のもりやんの直属の上司に当たり、3月までは直接お世話になっていた鈴木係長にだけだ。

 私の電話対応はお世辞にも褒められたことではない以上、補佐から軽くお小言は頂いた。もうそれは、軽い羽毛がふわっと飛んできたくらいの叱責で、怒られた感じは全くなかったけれど。いつもの厳しい補佐からしてみれば、あれれ? なほどで、でもそれはきっと私の反省する気持ちが先に伝わったからだろうって思っている。

 私の電話の内容からして相手が判明するより前から、個人で篠崎商事を利用するお客様だろうと言うことは容易に分かっていた。会社に損失を与えるような大事ではない以上、私の失態を大きく取り上げてしまうといろいろとややこしくなるので、補佐からは「俺が江藤を厳重注意した」からもう謝罪に行かなくていいと言われた。

 けれどそれでは気が済まないと私がごねて、上の方に話が漏れないように配慮され鈴木係長にだけ謝罪が許された……なんて下りがある。

 けれど私の失態をありのまま暴露して謝罪した時に、元上司に謝罪は一蹴された。

 「失敗は誰にでもある、気にするな。問題ないならいいんだよ、なかったことにしとけ」

 前々から懐の広い人だとは思っていたけれど、今回の件では本当に鈴木係長様々だと思った。

 係長がこんな風に言ってくれる人でなければ、私は飛んでもない失態をやらかす電話対応の一つも出来ない残念な社員、と言うレッテルを貼られるところだった。その後、鈴木係長からこっそりと『相手のことは誰だか分かった。心配することはないからな』とメールを貰っている。

 だから私は、この件はそれで終わったと思っていたのだ。

 でも……補佐のお蔭ですごく助かったというのはどうしてなんだろうか? 

 営業部だけで話は収まらなかったってこと?

 そう言えば、涼華ちゃんも異常に私にお礼を言っていた。何か私の知らないことが起きているのだろうか? 

 「うちの部長にかけあってくれてさ、永友補佐が」

 「え……? それって、営業の部長ってことだよね。一体何を?」

 電話対応が悪かったこと含め、今回のことは私の問題であり、問題提起するならば営業部長に掛けあうのはお門違いだと感じた。けれどそれをもりやんは感激しているようだ。明らかに瞳が輝いている。

 ――一体、どういうこと!?

 さっぱり先の見えない話に困惑の表情を顕わにしたままもりやんを見ると、クッと笑われた。

 「安心しろよ、お前の失態を言いふらしたとかじゃないから」

 「そ、そんなこと思ってないってば」

 補佐が私を落とすようなことをするわけがない。だからそれをすぐさま否定すると、さらに笑いながらもりやんが言った。

 「ははっ、江藤の忠犬ぶりは半端ないな」

 「ちょ!? 犬じゃないですけど!?」

 「あー、嫁だっけか?」

 「ち、違うっ」

 悪乗りな空気になってきてバッサリと切ると、もりやんはまた笑いながらも、そう言う風になるの分かるけどな、ってフッと笑った。

 それに私はまたも眉を顰めた。もりやんは補佐と接点なんてまるでないはずだ。異動した当初だって、噂の補佐なんて言っていたくらいで、以後興味を持っている素振りもなかった。それが今は、私が補佐を慕っていることが自分も分かると言っている。

 よく、そんなに仕事押し付けられて嫌だろ? って聞かれる。でもその度に私は『補佐の言うことに間違いはないので、どんなことも全力でやるだけです』と返していた。

 だからまぁ、変な風に取る人もいるのかもしれない。けれどそんな私の気持ちを理解できるってもりやんが言い出した。

 本当に何があったの……?

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