表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/277

◇25 筋肉は怖くない

 A組第一試合、一戦目が決着しすぐに二戦目に出場する選手が決められた。どうやら二戦目はアギがでるらしかった。対して深淵の蝶からは私よりもちょっと年下……十六歳くらいの女の子が出てきた。装備から考えて、魔導士だろう。


「君のことは知ってるわ。魔導士協会では有名人だもの」

「おねーさんのことも知ってるよ。若くして色々と魔術研究の成果を論文で発表してる期待の魔道研究博士だって」


 互いにニッコリと笑っているが、どうも二人の間の空気は良くない。


「あの二人、仲わりぃのかな」


 心配そうにレオルドがそう言った。

 馬が合わない人間はいるものだ。アギも魔法に対して強い好奇心を持ち、色々と研究も重ねているようだし、彼女とはレオルドとは違う方面のライバルみたいなものなのかもしれない。


『さーて、二戦目はじめるよー! 蒼天の刃、アギVS深淵の蝶、エメラルド。魔導士同士の熱いバトルを期待するぜ!』


 カーン。

 一戦目と同じく、高いゴング音が鳴った瞬間。

 信じられない光景を私達を含め、観客達は見た。


 ――結論から言おうか。

 勝負は、あっけなくついた。

 ……五秒だ。五秒でついたんだ。


 ぼーぜんとしたのは、私達だけじゃない。いつの間にか場外に吹っ飛ばされていたエメラルドが一番、『え?』だったに違いない。


『え、えーっと何が起こった?』

『どうやらアギ君の魔法のようですが……』


 ざわめく会場をよそに、アギは一つだけ答えを言った。


「空気砲だよ。空気を圧縮して一気に解き放った……それだけの魔法なんだけどね」


 なんにも見えなかったし、当たった衝撃は本人にしか分からないだろう。エメラルドは茫然としつつもまだ立ち上がれていない。


『う、うん? まぁ、勝ちは勝ちだね! 勝者アギ君!』

『かなりのあっさり感で、勝負としてはあまり面白くはないですけど』

『こういう大会にはエンターテイメントが必要な部分もあるっちゃあるけど、ギルド大会は本気勝負! 次の勝利の為の戦略が重要だからね。次のアギ君の試合にご期待くださーい』


 うーん、確かに試合としては手に汗握る! というわけじゃなくて、会場内からも若干がっかり感が漂ってはいる。でも実力に差がありすぎていたり、次の試合の為に体力温存として先手で決めてしまいたいときもあるだろう。エンターテイメントも大事かもしれないけど、優勝狙うならブーイング覚悟でそういう試合運びをするのもありなんだろうな。


 二戦を勝ち越した蒼天の刃の勝利が決まり、第一試合は蒼天の刃が上がった。次は第二試合、B組の紅の賛歌と私達、暁の獅子の試合だ。


「さ、リーナ、レオルド準備しに行くわよ」

「おう」

「はい!」

『のー』


 私達は試合に出る為、控室に降りて行った。割り当てられた控室は東側。つまり、前には蒼天の刃が使用していた控室だ。

 なので。


「お、アギ! 勝ち上がったな!」

「レオおじさん。まぁ、まだ第一試合だし、次は勇者率いるAランクギルドだからね。油断はまったくできないけど。レオおじさん達もがんばって」

「おう、任せとけ!」


 レオルドとアギが和気あいあいとしていると、アギの後ろからエルフレドが現れた。なんだか浮かない顔だ。


「アギぃ……お前、エメラルドと何があったか知らないがあれはかわいそうだと……」

「まーだ言う。試合相手にかわいそうも何もないでしょ。ちょっと魔法に対する見解の違いとかで論文上で喧嘩することはあっても、直で嫌がらせはしないよ。ただ、あんまり顔を見ていたくなくてちょっと手がすべったけど」


 やっぱり嫌いなんじゃないかー! とエルフレドが説教し始めて、アギが耳を塞ぎながら。


「あー聞こえない。なにも聞こえなーい」


 と子供らしい態度でエルフレドに追いかけられて走って行ってしまった。どうやら戦略的なものじゃなくて、うっかり嫌いだから誤射してしまっただけらしい。うっかり誤射で勝てるんだからやっぱりアギはすごいんだろう。

 他の蒼天の刃メンバーと少し談笑を交わして、私達は試合の準備をはじめた。


 相手は、格上のCランクギルド。彼らの話は最初にここへ来たときにギルド交流の中でいくつか耳にした話がある。

 紅の賛歌は、主にレアモンスター狩りを主流にするモンハン専門ギルドだ。宝探しをするように冒険を楽しんで、レアモンスターと熱い戦いを繰り広げる。それが醍醐味で、モンハン好きがたくさん集まるギルドらしい。うちと同じでギルドメンバーの仲は良く、家族ぐるみの付き合いがあるようだ。

 ギルドマスターは、レオルドみたいなガタイの良い壮年の男性で、豪快な性格らしい。武器はごっつい斧。典型的な戦士ランクだが、斧戦士の間では知らない者がいないほどの実力者だ。


「実は俺、斧術はバルザン師匠から習ったんだよな」


 ぽそりと、懐かしむようにレオルドは教えてくれた。

 王立学校で勉学に励んでいる中で、偶然出会ったのが、紅の賛歌ギルドマスター、バルザンだった。彼の筋肉に憧れ、弟子入りしたりしたらしい。その後、王立を卒業して教師になって色々あって退職して……などを経て家族を養うために就活していた時もバルザンが声をかけてくれた。

 レアモンスター狩りに拘る紅の賛歌とは違う、のんびり色んなことができるギルドを探していたレオルドは結局、紅の賛歌には入らなかったがそれでもバルザンは『戦士』になるというレオルドに斧術を教えてくれた。

 レオルドに、武器を扱う素質はない。もちろん、教える側もかなり頭を抱えるような出来だったろうと、レオルドは語る。

 しかし、バルザンは嫌な顔なんか一つしないで懇々と教えてくれたらしい。だからこそ、武器下手のレオルドが、斧だけは少しだけ上達したんだ。


「そういえば、レオルドはうちに来る前どこのギルドにも断られたらしいけど……紅の賛歌の門は叩かなかったの?」

「超恩人のギルドだぜ? どうしても叩けなかったんだ」


 それに、現在のこんな惨めな姿を見せたくなかった……というのも大きいようだ。


「けど、今なら胸を張ってバルザン師に会える。いいギルドに入れたからな!」


 にかっと笑うレオルドの良い笑顔が、本心だと教えてくれる。そう思ってくれるのはとてもありがたくて、嬉しいことだ。思わずつられて笑顔になった。


「あ、あの……」


 大人しくレオルドの昔話を聞いていたリーナがおずおずと声をあげた。


「どうしたの?」

「腹でも痛いか? 便所なら今のうちにすました方がいいぞ」

「ち、ちがうです。あの、リーナにいちばんをやらせてほしいのです」


 私とレオルドは顔を見合わせた。リーナが積極的に戦おうとすることはない。あまり戦うのが好きじゃないようだし、苦手にしている部分もある。リーナがテイマーに覚醒したのは、緊急事態だったこともあったし、本来は争いごとが苦手な優しい子だ。

 だから、自分から一番最初に出たいと言うとは思わなかった。


「どうしたの? リーナ」

「リーナは、レオおじさんのおんじんさんに、つたえたいです。レオおじさんは、すごいギルドにはいったんだって。しょーめい、します!」


 熱く語るリーナが、可愛い……あ、違う勇ましい。どうやらリーナは、レオルドの為にひと肌脱ぎたいらしい。レオルドが感動で泣いている。おじさんは涙もろい生き物だ。


「よーし、リーナ。バルザンさん達にうちのすごいとこ、見せつけちゃおう!」

「はい!」

「くぅ! 俺はやはり良いギルドに入った! おじさん感動」

「はいはい、レオルドは泣き止んで。ほら、そろそろ時間よ」


 レオルドの広い背中を叩いて、私達は細長い通路を通りまぶしい会場へ出た。会場は第二試合を待ちわび、大きな声援で溢れている。私達は無名とはいえ、予選では派手に動いたから知名度はかなり上がったんだろう。私達を応援する声も増えてきている。といっても紅の賛歌には劣るのは仕方ないんだけど、憶えてくれるのはすごく嬉しい。


 反対側の入り口からは紅の賛歌がすでに控えていた。屈強な戦士で固められたメンバーで、女性も一人いるがかなり鍛え上げられた立派な筋肉を持っている。


「紅の賛歌メンバーは、筋肉自慢の戦士が多いが色んなレアモンスターに対応する為に、魔防のすべも多く持ってる。だから筋肉戦士が魔法に弱いなんてことは一切ないから、気をつけろよリーナ」

「はいです!」

『のっ!』


 リーナものんも気合十分だ。寸前まで、『き、きんにくですぅ……』と少しおびえ気味だったがレオルドの筋肉をタッチして筋肉は怖くないとレオルドに諭された。

 筋肉は怖くないって、どういう諭しだと突っ込みたい。


『さーて、第二試合をはじめるぞー! B組最初のカードは超有名どころ、レアモンなら任しとけなモンハンギルド、紅の賛歌! そしてそして、今大会熱い展開を見せてくれる新進気鋭のギルド、暁の獅子!』

『暁の獅子はEランクの新しいギルドながら予選でも活躍しましたからね。これは面白い試合を期待できるのではないでしょうか』


 すごいプレッシャーかけられた。

 変に緊張してくるが、悟られないようにリーナの小さな背をそっと叩いた。


「行っておいで」

「いってきます!」


 軽やかな足取りで、中央のリングにリーナが上がると会場は一気に沸いた。先鋒にリーナを出してくる意外性が高かったのだろう。ちゃんと戦えるのか、という心配の声も聞こえる。

 大丈夫。大丈夫だ。リーナは誰よりも強い心を持つ子だ。立派に胸を張ってギルドのメンバーだと言えるようにと、ラミィ様のもとで一生懸命修行したんだから。


 対する紅の賛歌からは、女性戦士が登場した。腹も足もむき出しなセクシー鎧を着用しているのに、いやらしさや色気はまったくなく、ムッキムキのシックスパックが固い壁のようにして装備されている。


「まさか、お嬢ちゃんが相手とはね。こりゃ、レアモンよりも手ごわいかも。でも、相手が天使みたいに可愛い子でも、手加減はしてあげないよ」

「の、のぞむところです!」

『のー!』


 二人は少し会話を交わして、構えた。


『天使ちゃんが一戦目とか意外だけど、やる気は十分そうだね! じゃ、そろそろはじめよう。暁の獅子、リーナVS紅の賛歌、セルビア--試合開始!』


 カーン!

 注目の一戦が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ