◇21 ヤマダ君、座布団一枚
「ああやっぱりレオおじさんの魔法はおもしろいよいったいどういった仕組みになってるんだろうどんなルートでどんな元素と計算式で成り立ってるんだろうああもうなにもかもが面白すぎて逆に笑えないすごすぎる未知すぎるいますぐ解明したいけどもっと謎が深まってもいいような手ごたえを感じるよ--」
「句読点! 句読点入れてくれアギ。そして冷静になれーー! 俺はね、これでも怒ってるの。先に行ったと思ったら敵の筋肉魔導士に足止めされてる上に、まるで気にせず筋肉魔法談議に花を咲かせて結局、後からなんとか突破した俺が三位でゴールしたからいいものの!!」
アギは自身の所属するギルドのマスターに叱られていた。
そして。
「いい、レオルド。自分の筋肉魔法に興味があるのはいいことですよ? でもね、時と場合を考えましょうよ。誰がレース放って話に花を咲かせていいと言いましたかねー?」
「……すみません」
私もレオルドを正座させて叱っていた。
レオルドはどうやら反省しているようだけど、アギの方はまったく聞いていないようで目をキラキラと輝かせながら筋肉魔法の解明に乗り出している。
好奇心の塊みたいな子なんだろう。
「レオおじさん、まだ俺話足りない! もっとたくさん話して情報を突き詰めていけば解明の糸口は見つかるかもしれないよ!」
「大会が終わってからにしなさい!」
ゴン!
と、強めにマスターの青年がアギの頭に拳骨を落とすと。
「お騒がせしました!」
と、ずるずるとアギを引きずって退場した。
「いやー、でも本当にアギには驚かされるな。こっちが脅かすつもりたったんだが、戦ってるうちに徐々に耐性つけて返してくるわ、分析始めるわで本当、天才ってあんなのかね」
「そういうレオルドも楽しそうだけどね?」
子供のように輝く目をしていたのは、なにもアギだけではない。レオルドも冷静を装ってはいるものの内心、アギと話し込みたくてたまらないんだろう。だけどやっぱりそれは大会の後でね。それならいくらでも筋肉魔法談議に花咲かせてていいから。彼の特殊な形態魔法は謎が解ければ有用性も高いだろうし。
『えー、第一予選の結果を発表しまーす。まずは会場の多くが驚いた、無名の新興ギルド≪暁の獅子≫のギルドマスター、シアと愛らしい天使のような少女、リーナちゃんのワンツーフィニッシュ! 文句なしの通過です。続いて第三位でゴールの≪蒼天の刃≫ギルドマスター、エルフレド。滑る床に悪戦苦闘していたようだが天才少年魔導士アギ君の策で無事通過』
『シアちゃんのもちもちの罠をうまく利用して、滑り止めにして渡りましたね』
『ですねー。あれ、普通はくっついたらなかなかとれないですよね?』
『ええ、ですがあのもちもちは魔法ですから、魔法の分解作用を利用するといい具合に使えるんですよ。魔法の分解作用というのはですね--』
『あ、その話は長くなりそうな予感と難しくて理解出来ない予感両方するんでスルーしまーす』
賑やかなアナウンスが流れ、雑談などを省いた内容は第一予選を突破したのは20組のギルドであること。第二予選はクイズ形式の早押し勝ち抜けマッチらしいことが判明した。
『本選に行けるのは半分の10組です! ギルドの中でも知識豊富な人を選んで勝ち抜きましょう!』
ということなので、第二予選出場者は誰も何も言わなくても決まっていた。ルークがいようといまいとこの選択は変わらないだろう。
……ルーク、間に合うかなぁ。
ぽつりと思って競技場の出入り口を眺めたが、やはりやってくる様子はない。なんとか午後の本選まで勝ち残って間に合ってくれればいいんだけど。
そう思いながら振り返れば、わがギルドの知識人、筋肉魔法で第一予選を放り出したドジっ子なおじさん、レオルドは汚名返上といわんばかりに第二予選が行われる段に上がった。20人が並んで立てるスペースに20人分の台があって、その上に赤いボタンが乗っていた。クイズ形式の早押しだと言っていたのでこのボタンを素早く押して正解した点数で競うのだろう。早く到達ポイントに達すれば勝ち抜けだ。
「やっぱりそっちはレオおじさんがでてくるよな」
ぞろぞろと20組のギルドの中から知識豊富な代表者が段に上っていく中、やはり蒼天の刃からはアギが出場するらしかった。
「おう、そっちもやっぱりお前か。まあ、お手柔らかに頼むぜ」
「お手柔らかにしたら負けちゃうじゃないか。王立出身なんでしょ?」
アギの言葉にレオルドは驚いて目を瞬いた。
「よく知ってるな?」
「おじさんのことは知らなかったけど、俺も王立に所属してる身だし色々な情報を合わせるとそうかなって」
どこをどう情報を合わせたらどういう答えが導き出されるんだろう。彼の頭の中は一体どうなっているのか開けてみたらきっとブラックボックスみたいに理解できないに違いない。
二人とも楽しそうに視線を交わすと、各々自由に台を選んで立った。
いよいよ、第二予選の始まりだ。
今回は、私もリーナもすることがないのでレオルドを全力で応援するのみ。アギも含めて、他のギルドの人達もみんなインテリっぽくて頭が良さそうだ。
がんばれ、レオルド! 王立仕込みの知識を見せてやれ!
『それじゃ準備はいいかなー? 俺が問題を読むんでどのタイミングでもいいから早押しで答えを言ってくれ。ボタンの前にある札が立ったら回答権があるからな』
--それでは第一問。
『勇者や聖女が聖剣や女神に選ばれているのは誰もが知るところだが、では勇者と聖女の中で何人が異世界から呼ばれた者か』
ガンッ!!
ピンポン!!
最初はみんな慎重にクイズの問題を聞いていたようだが、それが終わると同時に多くの人達の手が動いた。そしてその中で勝ち残ったのは。
『あーー! ちょっとレオルドさん、ボタン壊さないでね!』
「……すみません」
もくもくと煙をあげているのは、レオルドの台のボタンだ。どうやらピンポン音とともに鳴り響いた破壊音はレオルドが出したものらしい。勢いと力が余ってボタンを破壊したようだ。だが、しっかりと札は立っている。
『回答権はあげます。あー、下っ端君、新しい台を用意してあげて』
大会運営の下っ端君らしい人達が新しい台を用意してくれて、ようやくレオルドが回答した。
「8人だ。勇者が5人、聖女が3人。それぞれ、異世界ルーン、ヴェリスタ、エル、日本。中でも日本から来た人間は5人、誰もがチートと呼ばれる力を持ち、この世界に多大なる文明的影響を与えた歴史があり--」
『あー、そこでストップね。詳しすぎてびっくりだよ。ヤマダ君、レオルドさんに座布団一枚』
『……座布団じゃなくてポイントですよ』
異世界、日本がもたらした文明は大きくこの世界に影響を与えている。それは言葉や季節のイベントなど多岐に渡る。≪ヤマダ君、座布団一枚≫もしょーてん、という有名な語り部の名台詞らしい。
『次行くよー。第二問、この世界には大きな大陸が三つ、小さな大陸が二つ、島国が四つで色んな国があるわけだが、世界には現在、いくつの国が--』
ピンポーン!
『はい、今度はアギ君だね』
二問目の早押しを制したのはアギだった。
「帝国が2つ、王国が28、連合国が3つ、皇国が10、それに女神ラメラスを祀る聖教会の総本山を含めて全部で44の国で成り立っている。ちなみに多くの魔王復活の影響で滅んだ国は今までに12国、その中で再興を果たしたのは5つの国。魔王にかかわらず現在に至っても滅んだ理由がわからない国は3つ。一夜にして消失した国で世界の七不思議に数えられているよな。俺、わくわくすん--」
『詳しすぎて、若干引くわぁ。正解ねー』
と、どんどん問題が出されていくのだけど。
ガン!!
ピンポン!!
何度かボタンを壊して怒られつつも、確実にヤマダ君から座布団もらうレオルドと。
ピンポン!
素早い動きで、レオルドから何度も回答権をかっさらい、座布団--じゃなかった点数を増やしていくアギ。他の人達も奮戦しているものの、どうしてもこの二人の速さと正確な回答に舌を巻かざるを得なかった。
「レオおじさん、すごいです。リーナ、ぜんぜんわからないのに」
「そうねー、私もすぐに答えが出てくる問題じゃないと思うから二人が凄すぎるわね」
かなり正解の回答がきわどい難しいものまで、二人はよどみなく答えていき、予想通りにレオルドが一抜け、アギが続けて抜ける形となった。戦いを終えた二人は、満面の笑みで談笑を交えながら段を降りてくる。歳はかけ離れているけれど、気の合う友人同士のようだ。
「レオおじさん、また勝負しようぜ。今度は負けないから」
「おう、楽しみにしとく」
レオルドに小さなライバルができたところで、私は気が抜けるような笑顔を浮かべてしまったが。
--!?
背中に感じた妙な感覚に慌てて振り返った。だが、後ろには誰もいない。遠く後方には観客がいるけれどその視線とは違う気がした。
……なんだろう。
変な悪寒のような気配に、体温が一気に下がった。言いしれない不安が、胸に広がる中。
『本戦開始まで、お昼休憩おねがいしまーす』
明るいアナウンスに促されて、私はご機嫌な二人を心配させまいと普段通りに振舞った。




