□21 わくわくするな!
「俺達は、特にやることなさそうだなぁ」
アギとシンは男子二人で外のベンチに腰かけていた。中には現在、まだ眠り続けているリーナとそれを見守っているシャーリーしかいない。
試練がはじまった後、子供達以外の者達は皆消え去ってしまい、子供達は手持ちぶさたとなったのだ。巫女も魔人達すら姿がない。どのような試練が行われているのか知ることができない子供達はおとなしく待つことしかできなかった。
「俺はクウェイス卿の依頼でねーちゃん達をアシストしに来たけど、結局ねーちゃん達の最終的な目的ってなんになるんかな。王国には戻ってこれはするだろうけど、聖教会の影響力は王国では結構大きいものだし。俺はそれほど信心深くないし、興味ねぇーけどさ」
「……それを言うなら僕の方こそ宗教関連には疎いな。そもそも帝国は実力主義で、『無能』は人権すら与えられない。信じる神もなく、己の力一つで立ち、生き抜かなければいけない」
へぇーっとアギはシンの口からこぼれる帝国の在り方を聞いた。
「なんか俺みたいなのには過ごしやすそうな国だな」
「まあ……そうだな。アギは、『天才』だっけ」
「そう、俺は『天才』」
謙遜することもなくアギは言った。アギは堂々とこれを公言するし、それに見合った確かな実力も実績もある。だからだろうか。
「僕は自分が『無能』であることを卑屈に思ってる。自分の人生はそれだけのせいで台無しだ。だからアギみたいなやつは嫌いだろうなと」
アギはちらりと隣に座っているシンを横目で見た。アギは昔から尊敬されるか嫌われるかの二極端になることが多い。両親はアギをどう扱っていいか戸惑い、結局王立に預けるという選択をした。そういった経緯もあるにはあるが、アギとしては普通の家庭で育ったと思っている。はじめての子供でまだ若い親だ、この難しい子供をどう育てたらいいのかうまいやり方を導き出せないのは当然だと理解していた。距離はあっても両親の愛情は感じられたし、恵まれた家庭だと思っている。
賢いから理解も受け入れもはやい。順応能力が高い。だからあっさりとはつぶれない。己が立つだけの地位とやり方をもうアギはとっくに手に入れているから誰に慕われ、誰に嫌われようと自分の人生を左右するような重大な事柄にはなりえなかった。
だから、交友関係はなるようになる精神である。研究に没頭している最中は人付き合いは最悪レベルに落ちる。
「……やっぱ嫌い?」
シンは少し顔を伏せて、ゆっくりと首を振った。
「嫌いとかそういう妬みが生まれる前に、すごいところを見せつけられたからかな……自分でも驚くくらいなんともないよ。ただちょっと悔しかったなって」
「悔しかった?」
「リーナとシャーリーをちゃんと守ってやれなかった。なんの力もない無力な子供でしかない。それがたまらなく悔しい」
シンの素直な言葉に、アギはなんともいえないうめき声をあげた。
「あー、それは……そうだな。俺は持って生まれたから普通の自分がもう想像すらできないけど。シン、俺さ魔導技師になりたいんだよね」
「まどうぎし?」
シンには聞きなれない単語だった。帝国以外ではそれなりに広がっている技術だったが、帝国の外を知らない彼にそんな知識があるわけがない。
「魔道具を作る職人。帝国では魔法と工学が合体したみたいなのが主流なんだっけ?」
「ああ、力あるもののための文明の利器だよ」
ちょっと皮肉めいた言い方だった。
「俺がなりたい魔導技師ってのは、その力のない人間でも扱える便利で実用的な魔法を作る職人のことだ。お前、なんか『無能』がおかしいみたいな言い方するけど、なんの力もない奴の方が圧倒的に多いんだぞ。シンが『普通』で、俺が『おかしい』の」
目を丸くするシンにアギは笑った。
「世界から見たら帝国はかなり異質だぞ? お前がどうやって育ったかは詳しく知らないけど、お前が王国で暮らしたら、別になんともない普通の子供。よりちょっと賢いくらいじゃね? 無学っつってたけど、状況判断早いし、なにかと冷静だし、聴覚いいし」
「それは……」
劣悪な環境の影響ではあったが、シンにとってアギの話は目に鱗だった。
「僕は……外国では普通なのか?」
「ふつーだな、うん。群衆に紛れたら絶対見つけられない自信ある」
「……そう」
失礼な言い草だったが、シンはなんだか嬉しそうだった。
「僕、本当にバカだったんだな。外に出ればよかったんだ、国の外まで。世界は帝国で終わりじゃないんだって、僕はぜんぜん知らなかった」
「お、旅に出たいか? 俺もいつかは世界中一回は旅してみたいなぁ。文献を読んだだけじゃ得られないものがたくさんあるはずだし。普通の人が本当に必要としている魔法が肌で感じられる。そしたら有益な発明が山ほどできる。俺の持ってる知識だって世界から見たらちっぽけで間違いだらけなのかもしれない。真実の探求や考察も……そう考えるとわくわくするな!」
「……いや、僕はそこまでは。アギは興味がわくと途端に早口で饒舌になるな」
「とかクールに決めようとしたって無駄だからなー。シンだってちょっとわくわくしてるだろ」
「し、してない」
「うーそーだ」
そう嘘だ。シンの胸中はまだ見ぬ冒険への憧れと妄想でわくわくしている。
「なーシン、俺達が大きくなってペルソナやマスターがいいって言ったらさ。旅しようぜ、世界」
思いがけないアギの提案に再びシンの目が大きく開かれて丸くなると、なんだか泣き笑いみたいな顔になった。




