□14 すごく心配してる子がいるの
「そもそもなんで裏に通じてるような連中にセラの救出依頼がでるんだ? 普通逆だろ」
協力体制をしいた方がいいと思っている私だが、イヴァースはやはり疑心暗鬼だ。
「もちろん逆のものもあった。だが、俺は救出の方を選んだだけだ。裏らしい暗い仕事を高単価で受けた連中に、お前らは今苦しめられてるってわけだな」
イヴァースの問いに答えているようで答えていない。レヴィオスは救出依頼を出した人物に関する情報は出さない姿勢のようだ。
睨みあう二人は、現在でもあまり仲が良いようには見えなかった。根本的に合わないんだろう。主に話し合いはレヴィオスとイヴァースで行われ、ジオさんは方向性を示すアドバイスくらいの程度で口を挟んでいた。あくまでリーダーはイヴァースの方であるらしい。シリウスさんはふらりと出ていってしまったので、私とセラさんは近くで大人しくしているほかない。
「えーっと、セラさんはなにか意見とかあります?」
セラは力なくふるふると首を振ってうつむいてしまった。私の知るセラさんは一児の母で、線の細そうな見た目とは違い、芯の強い女性だ。だが彼女も昔はこんな風に吹けば消えてしまいそうなくらい不安な時期があったのだろう。
「あ、そうだ。みんなにご飯作らない? 私、そこそこ料理できるから」
バチバチの話し合いをしているレヴィオスに許可をもらって二人で台所に立った。
「お料理、できる?」
「ちょ、ちょっとだけなら」
毎日台所に立っているような感じでもないようだ。簡単なことはできるってことかな? 冷蔵庫の中や戸棚を確かめて、レシピを組み立てて……いざ、料理開始。
彼女の料理の腕は、まあ基本的な知識はあるという感じだった。
「集落では、どんな風に過ごしてたの?」
「孤児院みたいな感じ、かな。悪魔病をわずらうのはほとんど子供だから。お医者さんや看護師さん、あとボランティアの人が交代で世話をしてくれてて」
ぽつぽつと話してくれる内容は、隔離病棟の保護施設とあまり変わらないものだ。だがちょいちょい端々にあやしい気配もある。保護とうたいつつもやはり実験的な意味合いも含まれていたのだろうか。帝国は反女神国家だ、少しでも女神に対抗しうる手段が見つかれば試さずにはいられない。もはやそれは執念だ。
とはいえ、帝国が本来どのような目的でアオバさんによって建国されたかをある程度知識として知ってはいても実感なく普通に暮らしている帝国人の方が大半であろう。じゃあ、一体誰がこれを先導しているのか。アオバさん……にしてはやり方に違和感があるしなぁ。
色々と考えながらも料理の手を進めていると、隣から小さくため息がこぼれているのに気がついた。沈んだ横顔は美しい容姿をくもらせている。
「大丈夫だよ。彼らがなんとかしてくれるって」
「イヴァースのことはね……信頼してるよ。そっちじゃなくて」
会話を重ねたおかげが、最初よりも口数が多くなってくれた彼女は一番の悩みどころを教えてくれた。
「一緒に暮らしてた子で、すごく心配してる子がいるの。……ヨルっていうんだけど」
びくっとして包丁を落としそうになってしまった。危ない危ない。
ヨル、その名前はセラさんの口からはじめ、何度か耳にしている。この間ジャック自身から、昔セラさんと同じ施設で過ごしていたことを明らかにした。だから今彼女が心配しているヨルは、無事かどうかは知らんが魔人として元気に過ごしている。ジャックが言うには、セラさんと出会ったときにはすでに魔人になって以前の記憶がまったくなくなっていたらしいので、彼女が心配することはなにもないのだが。
「あの子、どうも施設の人の『お気に入り』だったみたいで……。他の子よりも明らかに施設の奥に連れて行かれることが多かったの。もしかしたら、とても嫌な目にあっていたんじゃないかって」
それはどうなんだろう。
ジャックの現在を見ると、何とも言えない。
「お、美味そうじゃん」
作り終わって、見計らったかのように帰ってきたシリウスさんも含めたみんなで夕食となった。少しは打ち解けたかなって感じだが相変わらずレヴィオスとイヴァースの相性が悪い。まあ、でもそこはもうご愛敬なのかな。
そこからはもう流れるようにセラ救出作戦は遂行されていった。
結果的に陸路じゃ無理で、航路でとなったのだがそこでまさかのヨコハマでおばあさまが壊滅させたあの成金野郎の屋敷を木っ端みじんにする作戦に参加させられてしまった。おばあさまから話は聞いていたが、直前に攫われたセラと囚われの娘が一人、その二人を助けるためとはいえ本当にシリウスさんがバイクで突入してしまった。ルークより断然荒っぽいし、もうほとんど賊である。
私は単独で陽動で手薄になった屋敷に潜入し、捕らわれのお姫様二名を連れ出す手筈。華麗に忍び込み、監禁されている部屋まで辿り着いたのは良かったんだけど。
「……嘘でしょ」
そこで予想外の人物と出会ってしまったのだ。
固まる私にセラはきょとんとしているし、もう一人の少女もきょとんとしている。驚愕しているのは私一人だけだ。
「教皇……」
「え?」
思い出したくもない顔。記憶よりもずいぶんと若いが、見間違えるはずもない。女神の下僕にして、聖教会のトップである教皇の座につく女性、アリスティア。
どうして……彼女がここに。




