■42 よく我が子達を守ってくれた
「あ、アギ君!?」
「よー、姉ちゃん達お帰りー」
よっ! と軽快に右手をあげて返事をしたのは、王国にいるはずのアギ君だった。
ペルソナおばあさまの仕事を終えてホテルまで戻ってきた私達。しかし部屋は散々な有様で、一目見てなにかあったこと明白だった。しかし部屋が荒れていること以外は悪い方へは変わっていない。変わっていないどころか人が増えていた。しかも……。
「ヴェルスも一緒か……ますます事情がわからんのだが」
一番混乱したのはレオルドかもしれない。ラミリス領でダミアンの補佐として再建に尽力しているはずのヴェルスさんがここにいるのが信じられないのは私も一緒だ。アギ君はまぁ、驚きはしたがなにがしか目的が帝国にあってもおかしくはない。だけどヴェルスさんは本当になんで?
「……別にレオルドの為じゃない、サラとシャーリーの面倒をじぃさんに泣いて頼まれたからだ」
ふん、っと鼻を鳴らしたがどうもただのツンデレに見えた。レオルドがドジっ子おっさんならヴェルスさんはツンデレおじさんだったんか……。
「正直助かったわ、ヴェルス。私一人だったら、手負いになって子供達を守り切れなかったかもしれないし」
少し青い顔でサラさんがソファーに座ってヴェルスさんから手当てを受けていた。怪我の具合は擦り傷くらいらしく動くのに問題はなさそうだ。
「俺達がちょうどここに来た時、サラと子供達とで二手に分かれてたからな。機動力のあるアギに任せたが……まあ、さすがとしか言いようがない」
「当たり前だろ、俺を誰だと思ってんの?」
話によるとここを襲撃した者達はそれなりの手練れでサラさんは子供達を先に逃がしたようだが、待ち伏せに合い危機一髪のところをアギ君が助けてくれたらしい。アギ君が来てくれて本当に助かった。子供達の身になにかあったらと思うと震えてくる。
「うむ、アギとやら小さいのによく我が子達を守ってくれた。感謝するぞ」
「え? うん?」
自分と同じくらいだとしか思えないペルソナに礼を言われてアギ君は首を傾げつつも返事をした。
「アギ君は、どうして……というかどうやってここに?」
「どうして、は『依頼』だからだよ。ラミィ・ラフラ・クウェイス卿直々のご依頼」
「ラミィ様が!?」
美しき魔女ラミィ様。ギルド大会前に修行でお世話になっていらいだが、ずっと私達を気にしてくれていたらしい。たまに手紙やお酒を送ってもらっていたから、長く会っていない気にならなかったけど。
「どうやって、は王立の留学制度を利用して。俺って優秀だし、推薦はあったんだよねもともと、興味なかったってだけの話で。制限は多いけど留学生として帝国に入国できなくもないんだ。行動制限解除はヒースさんがなんとかしたみたい、どうやったかは知らないけど」
「ヒースさんって、あの騎士団で七家の一つであるディーボルト家の」
「あの人って謎だよね。やたら異世界の未知な技術を知り過ぎてるし、帝国においての行動制限を解除できるし……そもそも聖教会の追跡を振り切ってる。見た目はぜんぜん強そうに見えないけどなぁ」
それでも騎士団の人だ。荒事の対処はそれなりに訓練しているのかもしれない。貧欲な部分は血筋というか血に宿ったアルベナの欠片の影響であると当人が言っていたっけ。
「……で、そのヒースさんは? 見当たらないけど」
「さっさとどこかへ消えた。やつは居場所を特定されるとまずいらしいな。なぜかは知らんが」
ヴェルスさんがため息をつきながらサラさんの手当てを終えて立ち上がった。手当てを終えたサラさんの膝に真っ先にシャーリーちゃんがダイブする。
「ママーー!」
「シャーリー、心配させてごめんね。怖い思いもさせちゃって……」
シャーリーちゃんは首をぶんぶん振りながらも顔はサラさんに膝に埋めたままだ。強がっている顔を見られたくない意地のようなものを感じる。そっと自然に傍に寄り添うレオルドは二人を守る父親そのものだ。ヴェルスさんはそれを横目で見てから、こちらへ来た。
「シン、お前も怖かったじゃろ!? わしの胸にどーんと飛び込んでこい!」
「遠慮します」
親子のスキンシップが羨ましかったのかペルソナおばあさまはそう言って両手を広げたが、シン君に丁寧に断られた。
ちらりとリーナを確認すると、ソワソワした様子だ。ここは私が!
「リーナ――」
「リーナ、怖かったろ。抱っこするぞ」
「おにいさーーん!」
な、ルークに先を越されただと!?
痛恨のダッシュ失敗に、残念な気持ちがわいてしまった。
……そんな冗談を考えている場合じゃないか。話を聞く限り、狙われたのはリーナだという。サラさん達に襲撃者の覚えはないだろう、だが私は襲撃先の屋敷であの資料を見てしまった。帰り際に情報を共有したからペルソナおばあさま、ルーク、レオルド、リゼは知っている。
私達はずっとホテルにつく直前まで、この情報をリーナに伝えるべきか相談した。最終的に出した答えは。
「リーナ、あのね……落ち着いて聞いて欲しいの」
ルークに抱っこされてよしよしされて、少し落ち着いてきた様子のリーナへ、タイミングをはかりながら私は口を開いた。
リーナはギルドの一員。小さな子供だからと気をつかえば使うほどあの子は傷つくと知っているから。私は、リーナの父親についての情報を伝えた。




