表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

152/277

*21 仲良くはない

「ヒースのやつ、言いたいことだけ言って、追い出しやがった……」


 不満そうに呟いたオルフェウス様と、大きな不安だけが残った私が立っているのは、異世界の未知の技術が詰め込まれたヒース様の秘密基地ではなく、見知った森の中だった。いつの間にか入口すらなくなっている。あれからいくつか話をした後、私達は強制的にヒース様の部屋から追い出された。

 あれはたぶん、転移魔法みたいなものだろう。


「最初から最後まで俺にはわからない話だったが……。君はこれからどうするんだ?」

「私は……とりあえず情報をギルドのメンバーに共有しながら話し合います。私一人で出来ることでも決められるものでもないので」


 ギルドの皆の願いは同じだ。ベルナール様を助け出したい。今までのことを振り返っても聖教会側が黒であることはわかりきっているのだ。

 ただし……世間的には聖教会は真っ白な場所。聖教会が白といえば白、黒といえば黒となってしまう状況の中、どう動くべきか。


「正直……吐きそうです」

「……俺も、この状況がずっと続くと吐くどころか物理的に死ぬ、と思う。やつがどうにかなって、第一部隊の隊長が選び直されるとしても、な。イヴァース副団長もリンス団長も、いまだに動きがみえないことを考えると、時を待っているのか、それとも……どちらにせよ、上からの命がない以上、俺や騎士団がベルナール救出に動くことはないと思っておいてくれ」

「はい……」


 冷たいなどとは思わない。それが組織として当たり前のことだ。ミレディアさんも、一時暴れそうだったが今は大人しくしている。

 いろんな思惑がありそうだけど……。


「……君は、面倒なことをさらに面倒に考える、面倒なタイプだろう?」

「えぇ? なんですか、それ」

「俺がよく言われるんだ。机上の空論のままで、延々考え続けるタイプは疲れるんだと。主にヒースに言われる。結局最後は、己を曲げられずに過激でも行動してしまうのだから意味がないとね」


 オルフェウス様は思い出したのか、肩をすくめた。


「自分の周りには面倒タイプが多いと、愚痴っていた。椅子に座って頭を抱えている暇があるなら、検証データをとったり、情報の裏付けをとったりしたらいいのにって。ヒースは部屋にこもりがちではあるが、引きこもりではなくてね。知識欲を満たす為なら、とんでもなく行動派だ。だから、机上の空論を延々と繰り返す、面倒タイプは見ているとイライラするらしい」

「……その周囲の面倒タイプというのは、オルフェウス様と……」

「ベルナールだ。あいつは、器用なタイプとみられがちだし、確かに仕事は早いし的確に処理できる。だがそれは『見本』があるからだ。『見本』がない場合は、それが正解だと思えないようで誰よりも不器用な行動をすることがある」


 見本、か。それはたぶん、彼が人間として正しいと認識している『お兄さん』だろうな。


「君は確か、一度聖教会の総本山に出向いたのだったな?」

「はい」

「ベルナールには会えたのか?」

「いえ、面会すらできませんでした。けれど、一応彼からのヒントらしきものを受け取ったので戻ってきたんです」

「ヒント、それが先ほどの家系図うんぬんの話か?」

「はい。色々とあって、最終的にあれを手に入れたんです」


 壮大なドッキリを演出されたが、結局それが本当にベルナール様からのヒントだったのか、よくわからない。

 私の返答にオルフェウス様は難しい顔をした。


「あいつとは、まあそれなりに長い付き合いになっている。仲良くはないが、決して仲良くは絶対に! ない! のだが……なんというか少し嫌な予感がしている」


 そこまで念を押されて仲良くないと言われると、微笑ましい気持ちになるのはおかしなことだろうか? 自然と親戚のおばちゃんみたいな心境になるんだが?


「たまーにあいつはな、変なことをするんだ。微妙にひねくれているようで素直なようでいて、アホな感じの。だからな、やつの真意を悟ることなど難易度が高すぎるわけだが……長年の勘が言う。あいつの行動は全部をうのみにするな。たぶんどっか、一部分、正常ではないなにかがまぎれたせいで、普通の人間には意味のわからない、意味深なのにまったく意味深じゃないことをしてきている気がするんだ」


 ん? え? ちょっと意味がわからない。


「不思議そうな顔をするな。俺がなにを言いたいかというとだな、あれの行動をあまり気にし過ぎない方がいいということだ。それこそ面倒タイプな俺達にしたら相性がとことん悪いことになりかねない」

「それは、もしかしてベルナール様がヒントっぽいのをくれたりしているような行動も全部違うかもしれないということ……ですか?」

「全部とは言わないが……。そもそも、あれは救出を望んでいるんだろうか?」


 オルフェウス様の言葉に、私は目が点になった。

 ……それは盲点だった。


「もしかすると、それは救出のための情報などではなくて、聖教会のあやしさや己の家系の黒さをみせて、逆に君をそれらから遠ざけようとしている……気がしてならないんだが」

「あ……あー……」


 なんでそっちの線を考えなかったんだろう私。

 どうやったら合法的に教皇様をぶん殴れるかばっかり考えていた。脳筋すぎる。


「い、いやいや!? でも、ベルナール様だって罪もおかしてないのに大人しく捕まるなんて、不本意だと思いますけど」

「うーん……相手が相手だからな、慎重にならざるを得ないが。引っ掛かるとすれば、あいつは自分のことを一切大事にしないってことか」


 その言葉にハッとした。


「昔からそうだ。あいつは自分に存在価値を見出していない。あいつが動くことで大きなリスクが伴うことがわかっているのなら、大人しく捕まったままなのも、救出を願わないのも筋が通る」


 ……通っちゃうなぁ。

 ベルナール様の人となりを、きちんと知っているわけじゃない。だけど、オルフェウス様の言葉のひとつひとつに納得せざるを得ない経験がある。


 またもや面倒タイプを発揮しそうになる私達だったが、先にオルフェウス様が空論空論、と唱えてギルドまで送ってくれた。

 無理をしないでくださいね。と社交辞令をして別れた私は、部屋のベッドでごろんと転がった。


 考えすぎはいけない。だけど、まったく考えないことなんてできないし、無策でいたくもない。

 ベルナール様が逆に救出されたくないと思っていると仮定した場合、その理由はなんだろう? 今回のことで知ったのは、やはりクレメンテ家は七家であり、アルベナの魂と深いかかわりがあるということだ。そして子爵の話や、家系図をみるにアルベナの魂を継いだのはベルナール様、もしくは行方不明となった腹違いの弟。

 弟さんの方は、どうなったかわからないのでとりあえずおいておいて、聖教会からマークされていたというベルナール様が継いでいる可能性は高い、といわざるを得ないだろう。そうなるとやはり、七家やアルベナ関係なのだろうか?

 リゼは、アルベナの意思に翻弄され苦しめられていたし、ヒース様も覚醒者になったおかげでアルベナを抑え込めたと言っていた。アルベナの魂を継ぐ者達は皆、アルベナの意思に苦しめられている。けれどベルナール様にはそういった様子はなかった。


 もしかしたら、なにかがきっかけでアルベナの意思が表層に出始めている? それが関係して、聖教会側が動いたのか?

 でもならなぜ、すでにアルベナの意思がでているリゼやヒース様は捕まえないのか。


「あぁ~~もう、ダメだ! ご飯作ろうっ。ギルド掃除しちゃおうっ」


 煮詰まったら家事に逃げる。

 ルークとレオルド、リーナも今日は外仕事だ。お腹ペコペコで帰ってくるに違いないと、市場に買い出しに出かけることにした。

 そして安いお野菜をたくさん買って、沈んだ気持ちをあげながらギルドに帰ってきたというのに。


「どういうこと!?」


 ギルドが入った建物に人が集まっていたので驚いた。


「それはこっちのセリフよ、どうしたのあれ!?」


 心配そうにことの成り行きを見守っていたらしい一階の雑貨屋夫婦、若奥さんのライラさんが駆け寄ってきた。


「聖騎士が来るなんて、滅多にないことよ」


 不安そうな顔で珍しくオロオロするライラさん。それもそうだろう、聖騎士が出張ってくるなんてそうそうなく、かなり重要、重大な任務くらいでしかない。それがうちに来てる?

 私はライラさんの相手もそこそこに、急いで階段を駆け上がった。

 やはり、聖騎士はうちに用があるらしい。


「なんの御用でしょうか?」


 冷静に対処してくれていたのは、受付事務になったサラさんだった。背にリゼをかばっている。ラムとリリが勇敢にもサラさんの隣で、ふしゃーー!! と威嚇していた。

 だが、そんな二匹の威嚇など痛くもないといわんばかりの抑揚のない声が響いた。


「教皇様の命により、リーゼロッテ・ベルフォマ様の身柄を預からせていただきます」


 ――――はあぁ!?


 思いがけない教皇様からの追い打ちに、持っていた買い物袋を落とした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 誤:永遠と 正:延々と どうしても「永遠」という言葉を使用したい場合、「永遠に」とすべきです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ