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掌編は荒野を目指す――ショートショート集  作者: gaia-73
綺陶篇

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「青魚の死」

 見たまえ。


 夜を照らす紅い光を。


 それの滿ちる夜の交叉點を。


 その紅さが、夜露に濕ったアスファルトに照り返すのを見たまえ。


 通り過ぎるクルマのテール・ランプの紅が、それを笑うのを見たまえ。


 俺たちと貴樣は、すでに別の次元さと嗤うのであろう。


「――貴樣は、まだ金魚のままか?」

「――俺たちは、すでに肉の身體ミート・ヘルに縛られてはいない」


 地方都市の一角には、未だ白い身を色彩の鱗に覆われた魚たちが棲んでいる。


 金魚は目を閉じ、その身の熱さを消し束の閒の眠りに就く。

 靑魚が目を開き、カッと己の身を怒らせる。


 その碧さが、夜露に濕ったアスファルトに、照り返すのを見たまえ。


 通り過ぎるクルマのテール・ランプの紅が、それを笑うのを見たまえ。


 俺たちの身體は、すでに表皮と中身の區別をしないと、嗤うのであろう。


「――コップ一杯分の臟器で生きるとは」

「――そんなものは、もう私じゃない。私は私によってのみ反應する」



 2000年代より、この國から白い身を持った、色とりどりの魚が死滅をはじめたのを憶えているか。みな表皮で色を變えることなくその血肉自體が、鱗の色に發光する新しい光輝く街レイディアント・シティ


 アイデンティティの終わりなき改造は、撞着語法でなく終わりを告げようとしているのだと、テール・ランプらは謳っていた。電氣の肉エレクトリック・フレッシュなどもう時代遲れだ、と彼らは疾走するマシンに導かれて笑いさざめくのだった。


 見たまえ。


 あれから■■年經ったこの國を。


 靑信號の中身はすでに發光ダイオードしかなく。


 白い光に靑い色ガラスフィルターの時代はもう終わった。


 光自體が靑くなり、白身の魚は滅んでしまった。


 朝がきて、太陽の白い光が邊りを滿たす。


 クルマのテール・ランプも、信號機も、街燈も、すべての透明なものに、朝の光が行き屆く。


 そのとき、いつしか、


 そこに顯れたのは、


 巨大ないっぴきの、


 魚だった。


 紅い鱗を持ち、靑い鱗に覆われ、黃色い鱗が點在し、綠、オレンジ……鱗は無數で樣々だった。


 みんな、


 その魚だった。


 單色の魚は死んだ。


 だが、


 見たまえ。



 そのために、


 もはや人は巨大な魚の臟器になってしまったのを。

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