「ご遺言」
私がそれを最初に見たのは、先生が最後のご旅行から帰られたときだった。
内部にそれの生きる環境を調整され、指先ほどの透明なカプセルに閉じ込められたそれは、採取地から遠く離れたこの惑星の上でも、生き生きと輝いていた。
余命2ヶ月の宣告を受けたとき、先生が望んだのがこのご旅行だった。
身体の弱い先生は、今まで旅らしい旅をしたことがなかったのだ。
私は最後の弟子として、この旅行を成功させなければと思った。
場所はすぐにも決まった。
A宇宙系のなかにある、とある島宇宙だ。
球状星団や変光星、新星その他を正常に分布せしめた、五千四百九十億個の島宇宙をまとめて建設されたというこの宇宙系については、かつて設計者と中央庁との間でその矛盾内在可能性のために揉めたこともあったというが、しかし、確かに聞いていた通り、そのすでに「廃墟」と化した「構造物」は芸術的といってよかった。
先生も眼を見張り、それは喜んでおいでだった。
今日この先生の葬式に、私は先生のご遺言を果たそうと思う。
お亡くなりになる直前、先生は私に言ったのだ。
「ノーメメロク=コプ君、私が死んだらこの星をいっしょに、棺桶に入れてくれ」
――と。




