「グラウンド・ゼロ」
「遊べないのが、つらい」――と息子は言った。
あの < > からは既に70年が経っていた。
「もう何もおかしくないのに、……いやだよ」
息子の通う小学校は校庭皆無だった。
「しかし、お前は別に駆け回るのが好きなわけでもないだろう? ボールだって怖がるし」
私はそんな風に返した。
「まぁ、そうだよ。たしかに、そうなんだけどさ、なんだか、息苦しい感じがする。自由に、走り回れる場所が、ないなんて……」
――なるほどね、と私は同情するように言った。
実際はどうかって?
私だって、小学校はグラウンド・ゼロだったんだ。
「中学になればまた変わるさ」
私はそう言いつつも、今の時代にグラウンド・ゼロでない場所なんて、そうそうある物じゃ無いことを知っている。
息子も、もしかしたら薄々感づいているのかもしれない。
彼は眉を寄せ、じっと涙を耐えるような顔を一瞬した。
「真ん中を避けたって、」
彼は吐き出すように言った。
「ん?」
「お父さんみたいになるんだろう?」
彼は私の顔を睨むように見ていた。
「そんなわけないじゃないか」
私は爛れて剥がれ落ちてくる皮膚を気遣いながら、息子の頭を撫でていた。




