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掌編は荒野を目指す――ショートショート集  作者: gaia-73
夢叢篇

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「ポンチョ」

 夏なのに、肩にはポンチョ。

 

 これって、ちょっと恥ずかしい。

 

 クーラーの効いた大学の教室で感じる、なんとも贅沢な悩みだった。


 ちょうどよい感じの上着がなくて、結局これになってしまった。


 冬物で、けっこうしっかりとした防寒着なのだ。


 みんなちらちらっと、こっちを見ている気がする。


 ちょっとどころじゃなくて、けっこう恥ずかしいわ、これ。


 先生が来るまで、あと5分も無いけど、どうしよう。寒いのは我慢しようか。


 でも、私もともと体温が低いから、冷えたらすぐに眠くなる。


 それはダメだ。成績がただでさえ悪いのに、先生の覚えまで悪くするなんて無理。


 ここはぐっと、我慢よ私。


 じっと下を向いてれば、大抵のことは我慢できる気もするし…。



「―― よっ」


 声と共に、叩かれる肩。


「ぅわ?!」


 急に触られたので背中がビクッと震えた。


「ぉお、なんかすごいびっくりしてる」


 面白そうにほほ笑む友達がいた。


「あは、おはよぅ」


 私は控えめな笑顔で応える。


「ん、そのポンチョ……」


「あー、夏っぽく、ないよね」


「いや夏っぽいなぁって」


「そう?」


 私は少なからず驚いて言った。


「ど、どこら辺が?」


 私はポンチョにそっと触れながら訊ねた。



「んー…。小学生の体育でさぁ、プールのときにバスタオル巻いてるみたい」


 あ、なるほど。


 私はペンケースからシャープペンを取り出そうとして、間違えてその向こうにあったフェンスに触れた。


 どこからかざわめきが聞こえた。


「おーい、女子! はよこっちに並べぇ―」


 やって来たせんせいが言った。


 暑いなと思った。


 手のひらにふれているバスタオルは柔らかで心地いい。


 首のところにあるタオルのホックを外して、フェンスにかける。


 すっとすずしげな風がはだを撫でた。


 はやく並ばないと。そう思いながら、わたしはプールの匂いをかいだ。


 太陽がたかい。


 わたしはちょっと熱くなったプールサイドを、かけ足でぴょんぴょんと進んだ。


 ああ、わくわくする。



 だって今日は、小学生になってはじめての、プールの授業なんだもの。





書きはじめたのは6月ごろでした(^▽^;) アレ、季節が……

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