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掌編は荒野を目指す――ショートショート集  作者: gaia-73
夢叢篇

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「全滅」




 兵士たちは夕刻の冷たい風の中を敗走した。

 背後からは、まだ砲撃の音が止まなかった。

 


   ◇



 セユジメフ・ココミゲ軍曹は騎走用ドラゴン(フェフェゲラーギア)に跨りながら、無線通信機(テテレーブゼン)を起動した。

 地場嵐(セメゲマ)の音がうるさかった。

 彼は故郷の農地のように疲れていた。

 

「ゲデベリア戦線東部より、本部へ」


 彼は腹に力を込めて話した。

 でなければ身体の芯がそのまま戦場の硝煙になってしまったように曖昧になり、忙しく息をしても自身から軸が消えてしまうような気がしたからである。

 頭が朦朧としている。

 目の奥に大きめの石ころでも詰まっているような苦しさだった。

 

『状況は?』


 彼は無線通信機(テテレーブゼン)を愛おしそうに握り直し、数度息を整えると肩をぶるぶると震えさせながら、自らの絶望を噛み締めるようにゆっくりと言った。


「……第3機動大隊、全滅です」


 彼は腹の底からせり上がる震えを、野生の小ドラゴン(シシニア・メケス)それらの天敵(ザダイガラギア)を前にした時のように懸命に押し殺して続けた。


「全部隊の、四割が喪失……死にました」


 "全滅"というのは、文字通り全ての兵士が死に絶えることではない。

 全部隊の三割が失われた場合、記録上では全滅とする。

 一般的にいって、三割が失われた集団には、もはや実質的な応戦力は無いものとされている。


『……そうか、御苦労。』


 彼は肩を落とし、通話を切ろうとした。

 しかしそこで、彼は「止めろ!!」という叫びと共に部下に銃床で殴り倒され、地面に転がった。


「あ、あ…………?」


 彼は地面にうずくまり、その銅元素の豊富な紺色の砂を呆然と見つめていた。

 

「隊長!! 貴方という人は!!」


 と彼を殴り倒した兵が言った。

 彼の手には、殴り倒された軍曹の手から奪い取った無線通信機(テテレーブゼン)が……いや、軍曹はそれが無線通信機(テテレーブゼン)でないと気付いた。


「……あ」


 それは拳銃(ディウ)だった。

 私は……。


「もういいんです隊長。あなたに落ち度はなかった。もう……いいんです。だから、帰りましょう国へ。ねぇ? 隊長…………」


 兵士は軍曹に対して涙を堪えながら話しかけた。

 ハ、ハハハッ……とセユジメフ軍曹は渇いた笑いを零した。

 自分が今の正常な自分でなくなっていくこと、またそれを知覚できることに対して。――私はまだ、正常の範疇に戻ることができる。

 

 だが彼は思う。


 兵力と同じだ。

 私の中の三割が狂ってしまえば、もう、私は正常でいることは出来ないのだ……、と。

 

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