「うっかり」
「ヒ、ヒヒヒ、ヒヒ……お、お前らが悪いんだぞ、ヒヒヒ……お前らが、野蛮だから……」
小声でブツブツと呟いている。彼には口があった。
しゃべることでそのとてつもないストレスを、少しでも発散させようという配慮だった。
「あ、ああ、あと、10秒。9、8……」
彼はマシンであり、マシンは彼を生かしていた。
戦争の最中だった。
《彼ら》と地球人類との戦争は、もう幾世紀も続いていた。
終わりは見えなかった。
「6、5、……」
そして《彼ら》は、地球自体を破壊することに決めた。
資源は魅力的だった。しかしそれ以上に、地球人類が目障りだった。
「3、……」
太陽系自体を一撃で蒸発させるミサイルが発射されようとしていた。
残酷な決断だった。だからこそ、《彼ら》はこの発射を機械には任せないことにした。
ひとつの星系種族が亡びるのだ。それは誰かがやらなければならない仕事だった。
「……1。発射ァアァアアアアアアアアアアア!!」
彼の身体は最早マシンに犯されていた。血液も脳電位も皮膚感覚も、すべてこの宇宙船と接続され、稼働していた。残された彼の役割はミサイルの発射を、決断することのみだった。地球は、彼によって滅ぼされる。
「あ、ああ、あはは、ははははは、はは、は?」
彼は身をビクンッと跳ねさせた。
背中に激痛が。船は外殻を喰い破られていた。
もちろん、彼の内側からだ。
「あ、あは……」
彼はミサイルを、逆向きにセットしていたのだ。
彼はつい、うっかりしていた。
「やべっ」
ミサイルは逆方向へと光速を超えて飛んで行った。
もちろん、そちらの方向には《彼ら》の母星が……。




