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掌編は荒野を目指す――ショートショート集  作者: gaia-73
暁蒼篇

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「天国のメッセージ」

「Qさんが亡くなりました」


「え?」


「そして、犯人はおそらくあなたです」


 彼女は刑事の言葉に驚いた。

 彼が死んだ?

 しかも、殺したのは自分だという。

 身に覚えなどまったく無い。


「ダイイング・メッセージで、あなたの名前がはっきりと書かれていた」


「そんな……」


 その事件には、犯人の手掛かりが全くなかった。

 彼の残した、メッセージ以外には。




「…………それで絞首刑? 運がないね」


 と天使は言った。


「でも大丈夫。君が潔白だってことは分かってるから」


 そして彼女は天国へと通された。


 彼女は考え続ける。

 なぜ彼は私の名を書いたのか?

 ここにロマンスを持ち込めば、死の直前の朦朧とした状態で、無意識に最も会いたかった(ひと)の名を書いてしまった(・・・・・・・)という悲劇も想定できるかもしれない。しかし……、そんなことがあるのだろうか? 理知的な彼に限って。


 彼女は小道を進んで行った。

 小高い丘を越えようとしたとき、丘の向こうからやってくる、人影が見えた。

 彼だった。


 彼女を迎えにきた……そういうことらしかった。


「やぁ、やぁやぁやぁ、会いたかった!」

 彼は言った。

 彼が笑顔で駆け寄ると、二人はその場で手を取り合って回った。

 ハグをし、やがて離れ、静かに見つめ合う。


「これでも随分待った」

 彼は感極まったように言った。

 目には涙さえ浮かべている。


「ねぇ、あの、どうして、最期に私の名前を書いちゃったの?」

 彼女は聞いた。

 一番の疑問だった。


「それは、……」

 と彼は少し口ごもった。

「早く君に、逢いたかったから」


「……バカ」

 彼女は彼の胸に飛び込んだ。

 そのせいで私、死んじゃったじゃないの。

「何なのよ、それ……」


 彼も彼女を、しっかりと抱き寄せた。

「早く、君に逢いたかった」


 言いながら彼は、後ろ手に、鍾乳石のナイフを抜いた。

 天国には刃物がなかったので、今日までかかってやっと研ぎ終えたのだ。


 彼は泣いていた。

 どうして、君は僕を殺した……?


 彼の胸に顔を埋めている彼女に気づかれないように、彼は特製のナイフを振り上げた。

 愛していたのに。

 どうして、裏切ったのだ。

 痛かった……とても、痛かったよ。


 彼は信じているのだ。彼女が犯人だと。


「痛かったよ。……こんな風に」


「え?」


 そして、――――――






 だがここは天国なのだ。

 彼女は天国に、通されているのだ。



 しかし彼にはもう、そんなことさえ…………。


 


 

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