「天国のメッセージ」
「Qさんが亡くなりました」
「え?」
「そして、犯人はおそらくあなたです」
彼女は刑事の言葉に驚いた。
彼が死んだ?
しかも、殺したのは自分だという。
身に覚えなどまったく無い。
「ダイイング・メッセージで、あなたの名前がはっきりと書かれていた」
「そんな……」
その事件には、犯人の手掛かりが全くなかった。
彼の残した、メッセージ以外には。
「…………それで絞首刑? 運がないね」
と天使は言った。
「でも大丈夫。君が潔白だってことは分かってるから」
そして彼女は天国へと通された。
彼女は考え続ける。
なぜ彼は私の名を書いたのか?
ここにロマンスを持ち込めば、死の直前の朦朧とした状態で、無意識に最も会いたかった女の名を書いてしまったという悲劇も想定できるかもしれない。しかし……、そんなことがあるのだろうか? 理知的な彼に限って。
彼女は小道を進んで行った。
小高い丘を越えようとしたとき、丘の向こうからやってくる、人影が見えた。
彼だった。
彼女を迎えにきた……そういうことらしかった。
「やぁ、やぁやぁやぁ、会いたかった!」
彼は言った。
彼が笑顔で駆け寄ると、二人はその場で手を取り合って回った。
ハグをし、やがて離れ、静かに見つめ合う。
「これでも随分待った」
彼は感極まったように言った。
目には涙さえ浮かべている。
「ねぇ、あの、どうして、最期に私の名前を書いちゃったの?」
彼女は聞いた。
一番の疑問だった。
「それは、……」
と彼は少し口ごもった。
「早く君に、逢いたかったから」
「……バカ」
彼女は彼の胸に飛び込んだ。
そのせいで私、死んじゃったじゃないの。
「何なのよ、それ……」
彼も彼女を、しっかりと抱き寄せた。
「早く、君に逢いたかった」
言いながら彼は、後ろ手に、鍾乳石のナイフを抜いた。
天国には刃物がなかったので、今日までかかってやっと研ぎ終えたのだ。
彼は泣いていた。
どうして、君は僕を殺した……?
彼の胸に顔を埋めている彼女に気づかれないように、彼は特製のナイフを振り上げた。
愛していたのに。
どうして、裏切ったのだ。
痛かった……とても、痛かったよ。
彼は信じているのだ。彼女が犯人だと。
「痛かったよ。……こんな風に」
「え?」
そして、――――――
だがここは天国なのだ。
彼女は天国に、通されているのだ。
しかし彼にはもう、そんなことさえ…………。




