第十一話 布団メイキング
イザベラが布団を敷いている。ベッドメイキングならぬ布団メイキングというわけだ。
畳の部屋にメイドさんがいるというのはどこかおかしな感じのする光景だ。だがイザベラがやればなんであれ様になっているのだから不思議だ。
「なあ、イザベラ」
「なんですか?」
イザベラは布団から手を離して、栗栖の方を向いた。
その顔には一切の表情というものが存在しない。だが口元は気持ち上がっているように思える。もしかしたらこれはイザベラの微笑なのかもしれない。
「今さ、試験中なんだって?」
「あら、ソフィアですね。あの子おしゃべりですから。ご主人様には言わないでおこうと思っていたんですが」
「なんでだよ、水臭い」
「だって言ってご主人様が変にかまえても困りますから。どこまで聞いていますか、ソフィアから?」
「一次試験が終わって、いま二次試験なんだろ?」
「そうですよ、しかしどうせ二次試験はいつ始まるかも分からないのですから。肩肘張っても仕方がありませんよ」
「じゃあもう始まってるかもしれないのか?」
「そうですねえ……私が3年前に二次試験を受けた時は人工衛星から逐一行動を監視されていたそうです。なので今も、もしかしたらどこかで……誰かが私たちを見ているかもしれませんね」
「え、なんかそれ嫌だな」
「嫌ですよね」と、イザベラはちっとも嫌じゃなさそうに言った。
「でもさあ、そう考えたら本当に、俺のところなんかに居てもいいのか?」
「あら、どうしてですか?」
「だってイザベラ、いまが大切な時期じゃないか。それならこんな場所じゃなくて住み慣れたフランスにでも居たほうが良かったんじゃ……」
「ご主人様、ご主人様だから良いのですよ。そう自分を卑下しないでくださいませ」
「わからないな、どうして俺なのか」
「最初に言ったではありませんか、私はこの日本に『なにか』を探しに来たのだと。きっとそれはご主人様と一緒にいれば手に入るものです。私はそう信じていますよ」
イザベラは話をしながら布団を敷き終えた。
さて、と立ち上がる。部屋を出る前にペコリと頭を下げた。
「ではご主人様、おやすみなさいませ」
「そういえばソフィアは?」
先程からあのうるさいロリメイドの姿を見ない。
「あら、女性の前で他の女の話なんて――」
「い、いやそういうわけじゃなくて」
焦った。そんなことでイザベラに勘違いされたくない。
「冗談ですよ、あの子は今もお勉強中です。あの子はあの子でB級メイドへの進級試験がすぐそこまで迫っておりますからね。私も、もう少しあの子に付き合ってあげます」
「そうか、けっこう真面目なんだな」
「そうでなければメイドは務まりませんよ。ご主人様は気にせずお休みください」
「うん……悪いね、もう眠い」
布団に潜り込むと同時に部屋の電気が消された。イザベラが部屋を出ていく。それだけで部屋の気温が2度ほど下ったような気がした。
けれど彼女の残り香のようなものがある。栗栖はイザベラの甘い匂いに包まれながら眠る。なんて幸せなのだろうと、そう思っていた。




