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メイドのイザベラさん ~ご主人様、ソシャゲの周回もできますよ~  作者: KOKUYØ
第二章 コンパニオンのソフィア
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第九話 ソフィアの考え


 ぶつぶつと呟きながらソフィアは歩いている。はたから見れば危ない女だ。


「おい、気をつけないと危ないぞ」


「うるさいでーす……」


 ぶつぶつ、ぶつぶつ。


 二人は今、近所のコンビニまでアイスを買いに来ていた。小テストの結果はどちらも上々だった。そのためイザベラはご褒美を出すといったのだ。最近暑くなってきたのでアイスが食べたい、と栗栖が言うと珍しくソフィアも賛成した。「お前にしては良いこと言いまーす」


 というわけでアイスを買いにイザベラがコンビニに出ようとした。だがそこをソフィアが止めた。


「わたしたちが行きまーす。お姉さまは少し休んでいるといいでーす」


 わたしたち、というのには当然のごとく栗栖のことも入っていた。


「そうですか?」


「はいでーす。お前、一緒にいきまーす」


「なんで俺が――」


「早く来るでーす!」


 ものすごい力で引っ張られ、半ば無理やりのような形で家を連れ出された。家を出た途端、ソフィアはから元気をやめたのか、目に見えて落ち込みだした。


「おい、ソフィア、お前どうしちゃったんだよ」


 まだ昨日会ったばかりだが、このソフィアという少女は元気だけが取り柄に思える。そのソフィアがまるで青菜に塩とばかりにしぼんでいるのだ。心配にもなる。


「お姉さまが……笑うなんて」


「お前そんなこと気にしてるのか? そりゃあ楽しけりゃあ笑うだろ」


「お姉さまはわたしと一緒にいる一年間ほど、一度も笑いませんでした! それどころか誰も彼女を笑わせたことなどなかったのでーす! それなのに、それなのにお前の前でお姉さまは笑いました! ゆるせませーん!」


「なんだよ、そう怒るなよ」


「どうして? なんで? わかりません。なぜお前なのですか?」


「知らねえよ」


 あんまり言われ続けるとさすがの栗栖も腹が立ってきた。そりゃあイザベラと自分じゃあ釣り合わないと思うが、けれどここまでグサグサ言うことないじゃないか。こっちだって傷つくぞ。


「お姉さまは今、とても忙しい時期なのに。なのに日本になんて。まさかお前に会いに来たのですか?」


「そういやそんなこと言ってたかもな、イザベラも」


 ソフィアは立ち止まった。コンビニはもうすぐだ。看板も見えている。早く行きたいのだが、栗栖もしぶしぶ立ち止まる。


「お前、お姉さまとどういう関係なんです?」


「それが俺も分からないんだよ」


「分からないなんてことありえませーん! なにかしらお姉さまとお前は関係しているはずでーす。言え、言うんです!」


 首をしめられる。軽くかと思ったらけっこう本気だ。ぐえぇ、という情けのない声が出る。


 顔が青くなっていく、脳に酸素が回らなくなって意識をなくしかける。さすがにまずいと思ったのか、ソフィアも正気に戻り首から手を離す。


「ご、ごめんでーす」


「お、お前乱暴過ぎるぞ」


「お姉さまには内緒にしてほしいでーす。お姉さま怒ったら怖いでーす」


「なんとなく想像できるけどね」


 それにしてもイザベラは笑わなかった、か。それが自分の前だけでは笑う。栗栖は妙な優越感を覚えていた。自分がイザベラにとって特別であると、そう思ったのだ。


「まあ、あまり調子に乗らないことでーす。わが祖国フランスの国旗トリコロールを思い出しなさーい」


「あの赤と青と白のやつ?」


「青と白と赤でーす!」


「順番もあるのね、それで?」


 まったくフランス人は自国に誇りを持ちすぎだ。


「あれは自由、平等、友愛を表すと言われてまーす。きっとお姉さまもその精神に則ってお前に慈悲を与えているだけでーす」


「さあ、どうだろうな」


 そう言われればそんな気もする。実際のところは分からない。


 だがソフィアはそういうことにしたらしい。自分ひとりで納得してスキップするように歩いていく。


「ならばわたしにも笑ってくれる可能性がありまーす!」


「そりゃあ良かったな。なあ……どうしてイザベラは忙しい時期なんだ?」


「まったく、お前はなにも知らないのでーす」


「悪かったな、知らなくて」


 だってイザベラがなにも教えてくれないのだ。いや、聞かなかったこちら側にも責任はあるだろうが、どうもイザベラの氷のような美貌を見ているとあれこれ聞くのが無粋でアルように思えてくる。女というのはミステリアスな程美しいというのは、なるほど本当のことなのだろう。


「お姉さまがS級メイドを目指している、というのは知っていますよね?」


「それは、ああ。イザベラは完璧なメイドになりたいんだろ?」


「そうでーす。そしてそのための試験をお姉さまはいま、受けている真っ最中なのでーす。3年に1度の大切な試験でーす」


「いま、まさに?」


「そうでーす。だからお姉さまはいま、本当に大切な時期なのでーす」


「でもそんな素振りぜんぜん見せないぞ? 試験中だなんておくびにも出さない」


「そりゃあそうでーす。お姉さまはいま、一次試験を終えたところでーす。一次は筆記なのですが、とうぜんこれは満点合格でーす。もっとも、満点でなければ二次にはすすめませーん」


「それも字の綺麗さが関係あるのか?」


「すさまじく難関のテストでーす。そして二次は、ここけの話ですよ」ソフィアが内緒話をするように栗栖に耳打ちする。「どのようなテストかは、誰も知らないのでーす」


「知らない?」


「ウィ。二次試験からは予告もなしに生活の中で行われまーす。もっとも、お姉さまは一度試験を受けたことがあるのでそこは大丈夫だと思いますが」


「一度受けたって? 今回の試験が二度目なのか?」


「喋りすぎました、忘れるでーす」


「お、おい。忘れられるかよ。教えてくれよ!」


「そんなことお姉さま本人に聞くでーす。もっとも聞いても教えてくれるか知りませんが、わたしも聞き出すまで一年近くかかりましたでーす」


 少し意外だった。あんなに完璧に見えるイザベラでも試験に落ちることがあるのだな。もっとも、それだけ難関の試験なのかもしれないが。


 コンビニの前には不良がいた。まるで誘蛾灯にあつまる小虫のように三人の男が寄り集まって座り込んでいる。その手にはタバコが握られている。どう見ても未成年だ。


 イザベラがバニラアイス、親父がチョコミント、それを買って帰らなければならない。そんなことを思いながら不良にはこういうのは関わらないように入店しようとする。が、なにを思ったのかソフィアがその不良たちに寄っていった。


「お前たち、こんなところで暇してないでさっさと家にかえるでーす」


「お、おいソフィア」


 いきなりなんのつもりか知らないが、ソフィアが不良に絡みだした。どうなっちゃの、と栗栖は目をしばたかせる。しかしソフィアは自信満々の顔だ。


 堂々としている。


 なにか考えがあるのか? と栗栖は思うのだった。


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