71.
『ぐうぅぅぅぅ。体が動かない……まさか主導権を……』
アトラスの困惑した声が響く。それと同時にスライムの巨体がその動きを止めた。おそらくアトラスは暴食の一部であるライムを消化しようとしていたのだろうが、彼自体の力が弱まったためライムに声が届いたのだろう。
そして、スライムの身体の一部がその存在を主張するように動いた。ちょっとビビったのは内緒だ。
『シオン、ずいぶんと心配をかけたね……後秘密にしていてごめん……僕が魔王の仲間だったっていうとさ、シオンはヘタレだから絶対僕に敬語とか使ったり憧れちゃうでしょ』
「ふざけんな、お前に憧れなんてしないっての。だいたい俺にとってお前は暴食じゃなくてライムだ。魔王の仲間じゃなくて俺の親友なんだよ」
『シオン……』
ライムの声が微妙に震えているように聞こえたのは気のせいだろうか? 正直モルモーンから話は聞いていたし、衝撃よりも無事だったという安堵が強い。
「シオン、暴食!! 感動の再会はあとにしてくれないかなぁ。私に水晶に触れさせてくれ!!」
『ああ……ヘカテー、また君は眠りにつくんだね』
「そうだね、だけど今回は仕方なくじゃない。私の意志だよ」
『そっか……冷たくしてごめんね……君の胸は居心地が良かったよ』
「かつては君が私を載せてくれていたからね。そのお礼さ、もっと激しい事をしてもよかったんだぜ」
『じゃあ、今体を……うう……』
「ライム!?」
「暴食!?」
ライムが悲鳴を上げたかと思うと、体内でアトラスの本体である盾が中心部から水晶にむかって移動をしてくるのが見えた。主導権を握られたのでどうやら強引に攻めることにしたのか……
もう迷っている時間はない。視線を感じるとモルモーンが俺を見つめながらウインクをした。まったく最後まで飄々としているよね……
「わかってる!! 風よ!!」
俺の魔術がスライムの身体を切り刻む。先ほどとは違いほとんど抵抗なく液体状の身体を貫通して、水晶体に直撃した。おそらくライムのおかげだろう。
てか、おもいっきり水晶に直撃したけど大丈夫だよね?
「シオン、後ろ!!」
「え?」
その言葉と共にずいぶんと左腕は斬られ、背中の腕はへし折られずいぶんとボロボロになったプロメテウスがこちらにむかって走ってきていた。
、
『やらせはせん!!』
カサンドラ強いな……と思っている余裕もなく右腕を振り上げ自分を投擲しようとしているようだ。まずい……あいつは霧となったモルモーンを切り裂くことが出来る。俺は咄嗟に剣で弾くために剣を構える。
間に合うか!? 俺がプロメテウスと水晶の射線に駆け出す時に一瞬だが、動きが止まって、こちらを見て神妙な顔をして頷いたきがする。
そして、その一瞬の時間で俺は間に合った。金属がぶつかり合う音がして、かろうじてはじき返し明後日の方向へ吹っ飛んでいった。そして、プロメテウスを失ったクレイはまさにゾンビのように倒れた。
「モルモーン、どうだ……?」
振り向いた先では実体化したモルモーンが水晶に触れると同時に、ひびを生じさせ砕け散っていく。そして、彼女が霧のとなり、中にいた少女に吸収されていく。
その光景はどこか神秘的だったけれど、モルモーンとの別れだと思うと何とも言えなく寂しい感情になる。
「君たちが……」
そして、中にいたモルモーンと同じ顔をした少女……ヘカテーが口を開いた直後だった。真っ黒の槍が彼女を貫いた。
「「え?」」
そう言ったのはおれとカサンドラどっちだったろうか?




