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70.

 俺の言葉にモルモーンはしばらく沈黙していたが、やがて観念したように大きくため息をつき。そして、重い口を開いた。俺はその時間の間にカサンドラを癒しながら話を聞く。



「アトラスの言うとおりだよ。私はあの水晶に封印されているヘカテーの眷属なんかじゃない。彼女の分身だ。君がライムと呼んでいる暴食と同じようなね……ヘカテーは知りたかったんだ。魔王や私たちが命をかけて守った世界がどうなったのかをね。そして、それを判断するために記憶を失った状態で私がうみだされたというわけさ。もちろん私は吸血鬼なんかじゃない。ヘカテーの血液から作られたもう一人のヘカテーだ。もっともその能力は比べ物にならないほど弱いけどね」

「「なっ……」」



 モルモーンの言葉に俺とカサンドラは驚きのあまり何も言えなくなる。アスが吸血鬼かわからないって言っていたこともあり、実際はどうなのだろうと思っていた。だけど……魔王の仲間であり、伝説の吸血鬼ヘカテーそのものだって……

 彼女の能力は条件こそあれ非常に強力なものだった。今思えば納得である。



「よくわからないけど、いったん撤退しましょう!! アンジェリーナさんとか魔王の話とか詳しいでしょう? あとは最悪ヘルメスを探して色々と吐かせまればいいわ。二人に聞けばモルモーンの存在を消さなくても、何とかなるはずよ」

「ああ、そうだね……アトラスからライムを救出して、さっさと撤退をしよう。プロメテウスだけならば俺達三人なら何とかなるはずだ」

「それは無理なんだ……それじゃあダメなんだよ……」



 カサンドラの言葉にうなづいた俺だったがそれをモルモーンは寂しそうな顔をしながら首を横に振った。



「なんだよ、それ? いつもの冗談だろ? 俺達は仲間だろ。モルモーンを見捨ててまで俺は……」

「もう遅いんだよ……いや、最初っから結末は二つしかなかったんだ。なんでこのタイミングでプロメテウスや、アトラスが現れたと思う? 簡単な事さ、あのイアペトスを見るといい。もう封印は解けかけているんだよ」



 そう言って彼女が指をさした先ではイアペトスの体が鼓動をはじめ覆っている水晶にひびが入り始めている。

 その様子は今にも水晶の封印を打ち破ってきそうである。



「魔族でもトップクラスの魔王とその仲間でも封印するしかなかった彼を、今の人間達でどうにかできると思っているのかい? 無理だろう。私の命と君が大切に守ろうとしているあの街の人々の命をどちらを選べばいいかなんて決まっているだろう?」

「でも、俺は……」

「シオン……決断しなさい……私達のリーダーはあなたよ。私は時間を稼ぐわ」



 そう言うとカサンドラはゆっくりとあざけるような笑みを浮かべているプロメテウスに斬りかかる。



『はは、最後のお別れはもういいのか? 主はもう復活する。そのまま三人仲良く話していてもよかったのにな』

「何を気持ち悪い笑みを浮かべているのよ!! 巨人のパシリのくせにいきっているんじゃないわよ!!」



 カサンドラの攻撃を先ほどとは違い四本の剣で迎え撃つプロメテウス。俺はモルモーンと、アトラスを交互に見つめる。アトラスは何かを警戒しているのか触手をうようよと動かしているだけだ。



「シオン……私に君たちを守らせてくれよ。実はね、ヘカテーは……私は、君たち人間を守る気なんてなかったんだ。魔王のお願いで仕方なくって感じでイアペトスを封印したのさ。私にとって仲間は魔族や強い力をもつ魔物だけだったからね。人間なんて足手まといだとしか思っていなかったんだ。それを変えたのは誰だと思う?」

「それって……」

「そうだよ、君たちだよ、シオンやカサンドラ、暴食やシュバイン……そして、君たちのみせてくれた街の光景さ。魔王の言うとおりだったよ。君たち人間はちゃんと私達に敬意を払って、英雄譚にしてくれた。まあ、魔王がモテたり誇張は会ったけどね……なあ、シオン、私を再び英雄にしておくれよ」



 彼女は優しく子供に言い聞かせるように言った。やめてくれよ、そんな風に笑うのはさ……モルモーンはもっとこう、いつも意地の悪い笑みを浮かべて「なーんちゃって」とか言うキャラじゃないかよ……

 俺は手に持つ杖に力を入れる。そして、それを警戒したのか、アトラスの触手が襲ってくる。



「ふふ、決意は決まったようだね。ありがとう、それに言っただろう、私は君を英雄にすると。君たちはこれから巨人を封印するんだ。魔王と同じくらい凄い英雄になれるんだぜ」

「ふざけるな、モルモーンを犠牲にしてまで英雄になんかなりたくないんだよ!!」

「心配はいらないさ、私は別に死ぬわけじゃない。再び眠りにつくだけさ。それに、君が教えてくれたんだ。英雄譚は語り継がれるってね。だから……これは犠牲じゃない。それに私だって完全に消えはしない。元のヘカテーと同化するだけさ。私が再び目覚めた時はまた、みんなが歓迎してくれるようなそんな世界を作ってくれよ」

「ああ、わかったよ……俺は絶対英雄になる。それでモルモーンって言う仲間がいたって言う事を!! そして、未来のお前に、俺の英雄譚を聞いて悔しがらせてやるよ。一緒に冒険したかったなってさぁ!!」



 俺はせまりくる触手を切り払いながら魔術を唱える。こころなしか先ほどよりも動きが鈍い気がする。そして、先ほどとは違い触手で身を守るアトラスを見て俺は確信をした。あの巨人にちからを与えたせいでこいつらは弱っているだろう。だったら今なら言葉もつうじるかもしれない。



「ライム!! いつまで寝ているんだ!! 英雄になるチャンスだぞ!! この街を救ってハーレムを作るんだろ!! 今起きればお前は英雄だ!! 女の子に囲まれ放題だぞ!!」

「なるほど……暴食!! 君ならアトラスごときなんとかなるはずだろ?」



 俺とモルモーンはせまりくる触手を受け流しながら、二人して叫ぶ。アトラスの体が再び波打つ。そして……



『うーん、おはよう、シオン……』



 よく聞きなれた親友の眠そうな声が聞こえた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ライムくん出番だぞ!!!気合いれろー!!!
[一言] ライム君の目覚めは逆転の兆しとなるのか。
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