66.
「これがあった話だよ。そうして、ようやく動けるようになった私達は彼らを連れて冒険者ギルドに戻ったのさ。アトラスはまだ全盛期の力の暴食にはほど遠かった。君がライムと呼んでいる暴食を吸収して本来の力を取り戻すつもりなんだろうね」
アスによって治療されたモルモーンがベットに腰掛けて話すのを俺達はただ聞いていた。他のオークを庇っていたシュバインは傷こそ癒えたが、まだまだ血が足りないためか、しばらくは意識を取り戻せないようだ。
「ライムが……本当に暴食だったいうのか……」
「確かにやたらと頭が良くてエッチだとは思ったけど……」
「ふふ、君はかの魔王の仲間と冒険をしていたって事さ、感動ものだろ? とはいえ、彼はそれを知られるのを嫌がっていたんだ。そこも考慮しても置いてもらえると嬉しいなぁ。それに君達もだいぶ大変だったようだねぇ。それで……プロメテウスが『主に力を渡すだけだ』って言ったんだね。これはまずいな……」
俺達の話を聞いたモルモーンは何やらぶつぶつと呟く。そんな彼女を見ながら俺は別の事を考えていた。ライムは確かに頭が良いし、ちょっとエッチでどこか人間味があるやつだった。きっとそれは魔王と一緒に冒険をした影響なのかもしれない。そして、伝説のパーティーのうちの一匹ですごいスライムなのだ。
だけど……俺にとってはいつもおちゃらけているけど、どこか寂しがり屋で、俺がへこんでいるときは喝をいれたり、元気づけてくれる大事な親友なのだ。
「なあ、モルモーン、ライムはまだ無事なんだよね? まだ助ける事は出来るんだよね」
「ああ、今ならまだ間に合うだろう。完全に吸収される前にアトラスから切り取れば、分離できるだろうさ。だけど、いいのかい? 彼はそれでも魔物だよ。それに、相手の強さはわかっただろう? プロメテウスだけでも苦戦しているのに、アトラスまでいる。逃げても誰も文句は言わないんじゃないかな?」
「文句は言うやつはいるよ。それは俺だ。ここで逃げ出したら少なくとも俺は自分を許せなくなる。それに、俺達は仲間だ。仲間を見捨てて自分たちだけ助かろうとなんてしないよ」
試すようなモルモーンの言葉に俺は即答する。そんな俺を彼女はまぶしそうに、そして、嬉しそうにみつめて笑った。
「ふぅん、うらやましいねぇ、さらわれたのが私だったらこうはしないだろ?」
「何を言っているのよ。モルモーンだって救うに決まっているでしょ。だって、私たちは仲間なんだから。ねえ、シオン」
「ああ、そうだよ。だって、仲間に人も魔物も……過ごした時間だって関係ないだろ。俺はモルモーンを信頼しているし、大事な存在なんだよ」
「大事な存在か……」
俺達の言葉に彼女は目を見開いてまるでこちらの言葉を咀嚼するかのように、繰り返した。
「ふふ、君は本当にゼウスみたいなこというんだねぇ」
「なんか俺が魔王に似ているって言われるの照れるね……」
「うふふ、シオンの憧れの英雄の一人ですものね、よかったじゃないの。まあ、私にとっての英雄は魔王じゃなくてシオンだけど……」
「え? ああ、その……ありがとう」
カサンドラの言葉に俺は顔を赤くする。そして、彼女も恥ずかしかったのか慌てて話題を変えた。
「プロメテウスに関しては私が斬って、モルモーンが上げで拘束すれば何とかなると思うけど、問題はアトラスよね。ようはでかいスライムなんでしょう? シオンや私の魔術じゃ破壊力が足りないわよね」
「こうなったらイアソンに土下座でもして、メディアの力を借りるかなぁ……あー、でも一生ぐちぐち言ってきそう「やはり、お前は俺達がいないとだめなんだな」とかさ……」
「ふふ、それなら心配はいらないさ」
俺達が今後の方針を話し合っているとモルモーンが不敵な笑みを浮かべて言った。
「シオンが私に血を吸わせてくれれば全て解決するよ。なに、あいつらがむかった目的地はわかっている。プロメテウスの通った道から行くとしようか。私の覚悟も決まったしね」
そうして、俺達はゴブリンの巣に向けてむかうのだった。




