65.ダンジョンでおきたこと
ライムもシュバインと共に故郷の巣に向かったという事で私は嫌な予感に包まれていた。彼が興味を持たないようにそれとなく、こちらのグループに来るように誘導をしていたのだがそれがいけなかった。少なくともシオンには話を通して、こちらのパーティーには入れさせるべきだった。
「間に合ってくれよ、暴食……私は二度も君を失いたくはないんだ」
私は必死になって彼らの元へ駆ける。私がここまで必死になるのには理由があった。彼は……以前の暴食だった彼はこのダンジョンで命を失っているのだ。
かつて彼が死んだと聞いた時の衝撃は記憶を完全に取り戻した今昨日のように思い出せる。魔王の依頼で人間達から魔物を守るために、私たちはあの巨人やその部下と戦っていて、あのダンジョンにいるアトラスという『呪いの武具』と暴食を含めた何人かが戦ったのだ。アトラスは全ての攻撃に耐えるという能力を持っており相当に苦しめられたそうだ。
そして、最終的には暴食がアトラスを取り込んでダンジョンの奥にある谷底に飛び降りて、なんとか撃退したらしい。私がいたらそんな事はさせなかったのに……当時は悔しがったものだ。
そして、私は彼に再会をした。彼は私を覚えてはいなかったけれど、私も彼の事以外は覚えていなかったけど、それでも、彼が私にとって大切な存在だっていうのはわかった。
「実はシオンから血をある程度もらったら適当にバックレようかなって思っていたんだよね」
魔王の墓の奥底で私が彼と会った時はただ誰かと話したいだけだった。そして、外にはたくさんの人間がいるのだ。外にさえ出てしまえばシオンに固執する理由もないし、状況をある程度整理したら適当に街で暮らそうと思っていたのだ。
確かに巨人は恐ろしい敵だし、呪いの武具は本能的に嫌悪する存在だったけど、別に自分の命をかけてまで戦う必要性はなかった。そして、今なら理由もわかるけど、なぜか主と思い込んでいたヘカテーの事も守ろうっていう気はおきなかったのだ。
そんな私を変えたのはライムと呼ばれている暴食と、そして、そんな暴食が慕っているシオンだった。魔物と人間が親しく話しているのをみて懐かしく思ったのだろう。私は彼についていく事を決めたのだった。
そして、それは正解だった。私は彼らのおかげで第二の人生を楽しめたのだ。だから……今度こそ暴食も私が守るのだ。
猛スピードでダンジョンへと向かうと遠くから、魔物達の悲鳴や叫び声が聞こえる。嫌な予感を感じた私は影を全方位に放って索敵をする。ダンジョンという事もあり、太陽光がないため、日光から身を守る分の力を割かなくてすむので血の供給が不要なのが助かった。
とはいえ封印されていた場所の様に魔力が蔓延しているわけではないから、あまり使いすぎるわけにはいかないのだけれど……
「見つけた!!」
影が生き物の気配を捕えたので私はすぐさまそこに向かう。そこではオークや、スライムなどの魔物達が言葉も通じないだろうに協力をして何かと戦っていた。
「ぎゃぁぁぁ」
珍しい光景だなと思う時間もなく、悲鳴が聞こえるとともにオークの一匹が透明な触手に捕まれて、そのまま捕食されていった。
『この狭い場所では不利だ!! さっさと逃げろ!!』
『これが本当の悪いスライムだね』
「二人とも!! 無事だったんだねぇ」
『『モルモーン!!』』
私が声をかけると、金属の棒を振り回して、触手の攻撃から仲間を守っているシュバインとその肩に乘っていた暴食が私に返事をした。
もちろん私も影を触手のように振り回して相手の攻撃を弾く。
「一体何があったんだい? ギルドの話では巨大スライムはこちらが攻撃をしないかぎり動かないって話だったじゃないか……まさか、シュバイン……』
『さすがの俺もいきなりこんなのに喧嘩を売らねえよ!! 俺は仲間たちが心配でライムと様子を見にきたんだよ。そうしたらいきなり暴れ始めたんだよ。どうなってるのかなんてこっちが聞きてえくらいだ』
『まるで何か大事なものを取り戻そうとしているかのような感じなんだよね。せっかくだったら同属じゃなくて、可愛い女の子に積極的に攻めてきてほしんだけどなぁ』
『それにしても周りのスライムは全員お前のいう事を聞くんだな。群れからはぐれたって聞いていたが、どちらかというとリーダーみたいじゃないか?』
『ふっふっふー、僕はモテモテスライムだからね。僕の魅力でみんなメロメロなのさ』
そんな軽口を叩いている暴食だったが、表情は真剣そのものだ。仲間に頼んで、負傷したオークたちを運んでもらっているようだ。
そして、私も敵対しているスライムと対峙をする。私の身長の3倍以上の体積を持つそのスライムの体内には吸収されたであろう、オークやゴブリンの身体が浮いていて結構グロくてキモイ。
そして、その中心には存在自体に嫌悪感を感じさせる不思議な光沢を放つ金属製の盾があった。そして、そいつが妖しく光ったと思うと、触手の攻撃が更に激化する。
なぜだろう、相手は盾だと言うのにこちらと……暴食を見てにやりと笑ったというのをかんじる事が出来た。
『くっそ、近寄れねえぞ!! てか、マジでやべえ……』
「くぅぅぅ、今の私じゃ防ぎきれない……」
今までは遊びだったとでも言うのだろうか、すさまじい触手の嵐にシュバインと私は悲鳴を上げる。本気を出せば私達だけならば逃げ出して応援を呼ぶことが出来るだろう。
だけど、それはシュバインが許さないだろう。そう思っていると、彼が悲鳴を上げる。どうやら腕をえぐられたようだ。
ちょっとこれは本気でまずいかもしれないなぁ……シオンからもっと血をもらっておくべきだったねぇ……
アトラス自体の強さというよりも、元になった巨大スライム……暴食の力だろう。伊達に魔王の仲間だったわけではない。私は思わず冷や汗を流す。
「ぐはぁっ」
そして、シュバインをフォローしようとした瞬間に触手がの一部が鞭のようにしなって私を吹き飛ばし、触手をうけた腹部と壁に当たった背中に激痛が走った。まったく、らしくない。下品な悲鳴をあげてしまったよ。
「スラ――――――!!」
何とかしないと……と考えていると、いきなりアトラスが大声で叫ぶと、その動きを止めた。そして、その視線はシュバインの肩から飛び立った暴食になぜか注がれている。
『それは本当なんだよね? じつは嘘でしたーとかないよね?』
「スラ―!!」
暴食の言葉にうなづくようにアトラスが答えた。するとアトラスの触手がまるで暴食を誘うかのように、一本差し出されて、彼はそれに飛び乗った。
一体何がおきているというのだろう。私の中で嫌な予感がよぎる。
「待った、何をしているんだ、暴食。今ならまだ間に合う、シュバインを連れて三人で逃げよう」
『なんかね……僕がこいつに吸収されればみんなを助けてくれるんだって……シオンにはさ、別れの言葉を言っておいてくれないかな? 多分、僕がぼくじゃなくなっちゃうから……』
「待つんだ。何をいっているんだ? 君はただのちょっとエッチなスライムなんだろう? なんでこいつが君を欲しがるんだ』
『わかってるんでしょ? ヘカテー。君に抱きしめられて僕も色々と思い出したよ。いつもは君が僕の上に乗っていたのにね。避けてごめんね……シオンにはとってはただのライムとして見て欲しかったからさ……あいつ魔王とか英雄が好きだから僕が魔王の仲間だと知ったらこれまでの関係が崩れちゃいそうだったんだもん』
「暴食……私の名前を……待ってくれ……やっと会えたんだ……」
私の言葉もむなしく暴食はそのまま、アトラスと共にダンジョンの奥地へと戻っていった。そして、そのおくからあの不愉快な感覚を感じる。
残されたのは悲鳴をあげている魔物と切り払ったスライムの触手だけだった。
コミカライズのカサンドラが可愛い……




