表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

190/203

62.ゴブリン達の末路

「これで大体捕まえたかな」

「別にいいんだけど、ゴブリンの捕虜ってなんか不思議よね……私は念のために見回りに行ってくるわね」



 あの後、みんなの所に戻ってきた俺は他の冒険者に頼んでゴブリン達を捕えていた。群れのリーダーであるゴブリンチャンピオンとゴブリンマジシャンが倒されたことによって、彼らの戦意はほぼ喪失していたので、彼らに命を助けるから降伏しろと言ったところ抵抗を止めたのだ。

 通常のゴブリンだったら仲間の事なんか考えずにすぐに逃げ出したであろう。本来ならばありえない事だ。プロメテウスによって叡智を授けられたからこそ成り立った状況である。



『我々を助けに来ないという事はクレイ様は本当に剣に意識を乗っ取られたのだな……もしくはお前らに殺されたか……』

「まあ、別に俺達の言葉を信じてくれなくてもいいよ。でも、俺達がお前らに勝ったのは事実だよね」

『ああ、我々は負けた……戦えるものも、もう、10くらいしかいない……好きにするがいい……ただ、非戦闘員たちだけは助けてくれ』



 そう言うとゴブリンは絶望したように溜息をついた。生き残ったゴブリン達の中では彼がリーダー格らしく、俺と交渉をしている。



「よう、敵を逃すとは情けないな、シオン」

「イアソン……敵のリーダーを二人とも倒したんだってね」

「ああ、俺様の手にかかれば敵じゃないさ。この街最強のパーティーはお前ら『群団』ではない、『アルゴーノーツ』だ!!」

「頑張ったのはアタランテでしょ……それに、シオンの指示で相手のリーダーを抑えていたから作戦がうまくいったんだよ……」

「うぐぐぐ」

「アス!!みんなの治療は済んだんだね」



 アスの言葉に顔を真っ赤にしているイアソンに苦笑しながらも俺はほっと一安心する。これで何とかゴブリン達には勝った。犠牲は多かったが、街は守られた。でも……プロメテウスを逃したことが引っかかる。何か厄介な事をしていなければいいけれど……そして、あいつはなんのためにゴブリン達に叡智を与えたのだろう。



「それで……お前はこいつらを捕えてどうするつもりなんだ? まさか、命を助けるつもりなのか?」

「うん、ちゃんと話が出来て意思疎通ができるんだ。シュバインやゴルゴーン達の様に分かり合えるんだったらそっちの方が良いでしょ。それに彼等にはもう俺達と戦うだけの力はないよ」

「お前はゴブリン達も助けるのか? それがお前の目指す英雄だとでもいうのか」

「ああ。俺はわかりあえる相手なら誰でも救いたいんだ。それがたとえ魔物でもね」



 イアソンの言葉に彼の目をまっすぐと見て言い返す。これは俺がパーティーを追放されてから得た答えだ。カサンドラのように魔族の血によるギフトに苦しんている人だって、シュバインの様に力を持て余しているやつもいる、メデューサの様に自分の種族と人間が憎しみ合っているのをとめたがっているやつもいる。魔族のハーフや、魔物にも色々なやつがいるのだ。もちろんわかりあえないで戦う事しかできない相手だっている。でも、それは人間も同じだ。だから……俺はそんなやつらとわかりあえる英雄になりたい。

 しばらく見つめあっていたが、やがて彼はフッっと笑って言った。



「まあ別にいいさ、今回の緊急ミッションのリーダーはお前だからな。責任は全てお前だ。これからゴブリンどもの巣にいくんだろう? だったらアスも連れていけ。あの赤髪の女とは違って、アスならゴブリンどもがシオンの害になるようなら、容赦なく殺すのに抵抗がないだろうからな。その時は俺も力を貸してやるよ」

「わかった……イアソンにしては気が利くね」



 イアソンの言葉にアスが頷いた。彼らなりに俺の言葉を尊重してくれているのだろう。



「わかった……そうならないから安心してくれ」

「奇襲はなさそうよ。じゃあ、そろそろ行きましょう。ね、相棒」

「あ……ずるい……私もやる」



 イアソンをちらっと見たカサンドラが俺の腕を引っ張ると、なぜか反対側の腕をアスが引っ張った。なんなのこの状況? 俺らはこれからゴブリンの巣に行くんだけど……




「なんというか色々と女で苦労しそうだな……」



 イアソンが背後ぼそりと呟いたのが気になった。さすが女遊びをしてメディアに刺されたことのある男は説得力が違うね。てか、これってモテてるのかな……







******




『なんでだ……プロメテウス……お前は俺達に……ゴブリンに力をくれるんじゃないのか?』

『ほう、肉体のほとんどを奪ったというのにまだ喋れるのか。意外とやるじゃないか』


 

 意識がうつろになりながらも俺はプロメテウスに問う。叡智を得た俺達は人間の代わりにこの地上の支配者になれるのではなかったのか? だから俺は……



『あのまま戦っていれば俺達ゴブリンが勝っていたはずだ。他の里のあの二人ならば叡智を得た今冒険者ごときには……』

「勝てんよ。人間はお前らゴブリンがつい先日得た叡智を何百年も昔に得て、昇華させている。お前らゴブリンも数百年たてば人間達には追いつけるかもしれないがな』



 プロメテウスが馬鹿にしたように言った。だけど、その言葉には俺は微かな希望を持つ。俺達ゴブリンは人間達に確かに追いつく可能性があるのだ。



『だったら……』

『だが、俺はそこまで待つ気はない。それに十分力は得たからな』

『力だと……?」

『我が主イアペトス様は死と武器を司る巨人だ。我ら呪いの武具を眷属とし、その力で死を蔓延させることによって力を得るのだ。魔王の仲間が施した封印もそろそろ弱まってきた今こそがチャンスだ。そして、この世界は再び巨人の支配下におかれるのだ』



 その言葉と共にどんどん意識が遠のいていく。俺はどこで間違えたのだろうか? 俺はただ……みんなで安全に暮らせる世界が欲しかっただけなのだ。だから俺は力を望んだのに……



コミカライズ2話がニコニコ静画さんとピッコマで更新されてます。

読んでくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そういえば前コミカライズ発見できなかったな。翻訳でさがしたらあっさり見つけましたが。コミカライズの単行本も楽しみですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ