58.尾行
「シオン、危険を感じたらすぐに合図の魔術を放つのよ、わかっているわね。すぐに助けに行くから」
「身体能力アップの法術をかけとくけど……無茶したらだめだからね……」
「ああ、大丈夫だって……そんなに心配をしないでよ」
俺はちょっと過保護気味なカサンドラとアスに苦笑しながら答える。これは俺の実力を心配しているというよりも、ゴルゴーンの里でのキマイラとの戦いが原因だとわかるから俺も強くは言えない。
「それで……メディア、本当にいいのか? これを使えば敵の攻撃は君に集中するけど……」
「あなたに心配されるようなことではありませんよ、それに私の事はイアソン様が守ってくださいますから」
「ああ、任せろ!! 俺のメディア、この前の緊急ミッションではみせられなかった『アルゴーノーツ』の本当の力をみせてやろう!!」
「イアソン様……」
イアソンの言葉にメディアが恍惚とした表情で答える。まるで恋する乙女のようである。俺に対しては辛辣なのに、この子イアソンにはちょろすぎない? まあ、本人たちが幸せならいいんだが……
「じゃあ、任せたよ。アタランテとテセウスも無事で」
「はい、シオンさんも気を付けてください。最後にこの子を撫でていきますか? もふもふして癒されますよ」
「全員がそろった俺達なら大丈夫ですよ。その……あなたが怪我をしたらアスさんがへこむんで気をつけてください」
森で戦うという事もありカリュドーンを連れているためかどこかテンションが高いアタランテと、アスを見ながら何やら複雑な顔をしてるテセウスにも声をかけて、俺達は準備をする。
準備は終わった。俺が兜を被ると、姿が消えるはずだ。現に自分の手を視界にいれても何も見えない。そして、そのまま姿を隠して森の中で紛れてゴブリン達の方へ向かう。それと同時にイアソンの怒号が戦場に響く。
「お前らぁぁぁ!! 道を開けろ。消し飛ぶぞぉぉぉぉ!!」
「火よ、風よ、我が呼び声に答えよ。そして全てを飲み込む爆炎となれ」
メディアの詠唱と共に火と風が彼女の周りを圧倒的な力で凝縮される。二つの属性を圧倒的な魔力と制御力で支配することができる『大魔導士』のギフトを持つ彼女オリジナルの大規模魔術である。
彼女の杖から放たれた魔術が、圧倒的な熱量をもってして森の木々ごとゴブリン達を焼き払った。もちろん、これだけの魔術を放ったメディアもただでは済まない。今頃彼女は精神力を使い切り、アスに治療をされているだろう。
メディアの大規模魔術によって、ゴブリンの何割かを倒せたがもちろん全滅とはいかないようだ。そして、厄介そうな二匹のゴブリン達は変わらず生きているようだ。
俺はこっそりと舌打ちをしながら、姿を消したまま混乱しているゴブリン達の近くを駆け抜ける。そして、ようやく、目当ての相手を見つけた。
『お前ら、すぐにリーダーの指示を聞いてくるから待っていろ!!』
群れから離れていくゴブリンはそう言い残すとさっさと森の奥へと進んでいく。俺はにやりとわらいながらそのゴブリンについていく。
どれくらい走っただろうか? 気配を消しながらというのは思ったよりも気を遣う。救いは相手のゴブリンも焦っているので、あまり周りを気にしないという事だろうか。
メディアの魔術で、戦場をかき回せば必ずリーダーに作戦を聞きにいくだろうというの完全に予想通りだった。そして、木々に囲まれた高台に例の剣を持ったゴブリンがいた。その周りには西を担当していた冒険者たちの死体が乱雑に置かれている。その中には見知った顔もあって……俺は必死に胸の中に感じる怒りの感情を抑える。
『クレイ様!! 大変です。人間達の魔術によって我々の陣形は崩壊、三割のゴブリンが殺されました。どうしましょう?」
『三割……そんなにか……? ならばやはり、俺も戦場に……え? いや……だが……』
ゴブリンの言葉に立ち上がったクレイだったがいきなり剣に喋りかけて座る。伝令にきたゴブリンは慣れた様子でその姿を眺めている。
その様子を見て俺は思う、まさか主導権を握っているのはゴブリンではなくあの剣のほうなのか? 魔王と戦った巨人の眷属なのだ。それくらいできてもおかしくはない。
『他の巣のリーダーたちは無事なのだな? なら彼らを主軸にして冒険者達を狩れ!! もう一度その魔術を撃たれたら危険だ」
『わかりました!!』
そして、ゴブリンが去っていく。クレイは剣に変わらず何やらぼそぼそと話しかけているようだ。その無防備な姿を見て思う。今なら俺でも勝てるんじゃないだろうか?
この作品『追放された俺が外れギフト『翻訳』で最強パーティー無双!~魔物や魔族と話せる能力を駆使して成り上がる~』の二巻が発売中です。
ゴルゴーンの里でのお話になっております。書き下ろしでシオンとアスの過去編もありますのでよんでくださると嬉しいです。
二巻の表紙は活動報告にアップしているので見ていただけると嬉しいです。
最初の一週間で、続刊が決まるので、もし、購入を考えている方がいらしたら早めに購入していただけると嬉しいです




