39.いざダンジョンへ
「ゴブリンの巣はここみたいね……」
「うん、だけど絶対なんかトラップがありそうなんだよなぁ……」
あの後俺達はゴブリンが逃げて行った方向に向かい、何者かが入っていった痕跡のある洞窟ににたどり着いた。足跡の数などからして、ここに入ったのは間違いないんだが……
俺は先ほどのゴブリンの言動から警戒心を働かせる。あのゴブリンが無策でここに逃げるとは思わないんだよね。あり得るとしたら巣の中にトラップがあるか、実はこの森の周囲に隠れており俺達がゴブリンの巣に入ったら挟み撃ちとかだろう。
「考えたんだけど挟み撃ちや罠の場合に備えて二手に分かれるのはどうかな? 予言で危険を察知できるカサンドラと獲物の大きいシュバインが外で奇襲に備えて、俺とモルモーン、ライムが中に入るのでどうかな? ゴブリンの話を聞くには俺が必要だし、狭い所の探索にはライムが最適だ。それにモルモーンも洞窟なら、血を使わなくてもスキルをつかえるだろ?」
「ふふ、そんなに私と一緒にいたいのかい? モテる女はつらいなぁ。まかせたまえ、闇の世界は我々吸血鬼の領域だよ。多少知恵のついたゴブリンなんか恐れるに足りないと言わせてもらおうか」
「あー、はいはい、頼りにしてますよ」
モルモーンの軽口を俺は適当に流し、みんなの反応をみるとシュバインもライムも問題はなさそうだ。あれ、でも、カサンドラがちょっと眉をひそめているのに気づく。
「カサンドラどうしたんだ? なんかダメだったかな?」
「いえ、そういうわけじゃないんだけど……シオンとモルモーン、ライムだけで大丈夫かなって思って」
「ふぅん、カサンドラはいざという時に君を守れないことを気にしているのさ、察してあげなよ、シオン」
「だって、どんな罠があるかわからないんでしょう? モルモーンがいるとはいえちょっと不安になるじゃない」
「カサンドラ……」
モルモーンの言葉にカサンドラが唇を尖らせながら言った。確かに俺の力じゃ、咄嗟の強襲に対応できないかもしれない。だけど、俺が二手にわかれると考えたのにはもう一つ理由があるのだ。
「心配してくれてありがとう、でもさ、カサンドラのギフトは発動していないんだろ? だったら大丈夫ってことじゃないかな?」
「確かにそうね……ちょっと待ってね」
俺の言葉に彼女は再度こちらをじっと見つめる。そして、一安心したかのようにうなづくと安堵の吐息を漏らした。
そう、彼女は俺の危険を予言しなかった。つまりそこまでピンチには陥らないはず……
「うん、何も見えないわね。でも……油断はしないでね。私のこっちのギフトは自動的だから、確実に安全とは言えないのよ」
「ああ、もちろんだよ。でも、カサンドラのおかげで俺は、安心してダンジョンにもぐれるんだよ、ありがとう」
どうも、ゴルゴーンの里でキマイラと戦ってからカサンドラが過保護になっている気がするんだよね。俺もそれなりに場数は踏んでいるのだから、多少は信頼して欲しいのだが……まあ、あの時あれだけ腕を負傷したのだから仕方ないか……
それに心配されるというのは悪い気はしない。
「じゃあ、行くよ」
「ふふふ、ダンジョン探索か……ようやく冒険らしくなってきたじゃないか。頼りにしてるよ。シオン」
『ゴブリンはあんまり好きじゃないんだけどなぁ……』
そうして俺達はダンジョンに潜るのだった。




