37.違和感
「あいつを捕えればいいのね、任せなさい!! 炎脚」
『道は俺が開けるぜ、いけ、カサンドラ!!』
俺が何かを言う前にカサンドラが武器を持ったゴブリンに向かってスキルを使って迫り、それをシュバインがサポートをするかのように武器を振るう。
流石はシュバインとカサンドラである。俺が指示をする前にさっさとゴブリン達を吹き飛ばしリーダーらしき相手をおいかける。
「シオン、嫌な予感がする。二噛み目をもらうよ」
「ああ、わかった。でも届くのか?」
「愚問だねぇ……、私を舐めてもらっては困るよ」
俺は彼女の方に左肩を差し出すと、かすかな痛みと共に快楽が押し寄せてくる。その間にも追いついたカサンドラの刀とゴブリンの剣がぶつかり合う。
カサンドラの一撃を受け止めるだと? あのゴブリンは一体なんだ? もちろん、ゴブリンにもホブゴブリンなど様々亜種がある。だが、やつは外見は普通のゴブリンとあまり変わらないのだ。大抵の亜種はガタイが大きくなったりと明らかに見た目でわかるというのに……彼の場合は外見には差異が無いのだ。
「へえ、これを受け止めるのね!! でもこれはどうかしら? 炎剣」
『なんと!?』
カサンドラの一撃を回避して攻めに転じようとしたゴブリンが驚愕の声を上げる。彼女のスキルによって爆発が起きてその反動で刃が跳ね上がり、首を掻っ切り、血しぶきが噴き出る。
しかし、その直後に彼の持つ剣が怪しく光り、即座に傷が塞がると、そのまま踵を返し逃げ出してしまった。
「ちょっと、待ちなさ……邪魔よ!!」
一瞬驚いたカサンドラが追いかけようとしたが、その追撃を阻むようにゴブリン達が放った矢が飛んできて彼女の足を止める。攻撃自体ははじくことができたが動きが止まってしまいリーダーらしきゴブリンは逃げ出した。
だが、まだ終わりではない。油断したであろうタイミングでモルモーンの影が、ゴブリンを捕え……
『それはもう、知っている!!』
「なっ……」
その一言と共にゴブリンが剣を振るうと斬られた影はそのまま霧散した。これはさすがのモルモーンも予想外だったのか驚愕の声を漏らす。
なんだ、あのゴブリンは……とりあえず捕えたゴブリンに話を聞こうとすると、息絶えていた。どうやら自分で舌をかみきったらしい。
まるで、情報をが漏れるのを恐れるかのようにこいつは自害をしたのだ。ゴブリンというのは自分の事しか考えない種族なはずで……こんな風に自己犠牲とは程遠いはずなのに……
なんだよ、これ……まるで人間みたいじゃないか。
俺は逃げたゴブリン達を目で追って何か異変が起きていると確信をするのだった。




