36.ゴブリンの王
俺達が駆け出した先に広がっていたのは地獄のような光景だった。屈強そうな男たちが何者かに虐殺されていた後が広がっていたのだ。そんな中叫び声の主であろうおっさんがこちらへと駆け出してくる。
よく見ると見覚えのある顔だ。冒険者で見たことがある。
「これは……カサンドラ、シュバイン!!」
「わかっているわ」
『任せとけ!!』
「モルモーンはそのまま周囲を警戒していてくれ!!」
俺が声を上げると同時に、カサンドラとシュバインが悲鳴をあげているおっさんを助けに駆けだす。そして、俺は隅っこで隠れているウサギに話を聞く。
「一体何があったんだ?」
『わからないよ、ゴブリン達がいきなり強くなったんだ。というかあいつらは本当にゴブリンなのかな? まるで……人間みたいに……』
「シオン君、来たよ! すごいねぇ、今の時代のゴブリンは防具まで装備するのか? 私の時とは違うなぁ」
「モルモーン何を……」
俺が彼女に聞き返した直後だった。俺達の前に現れたのは、ゴブリンの集団だった。しかもただのゴブリン達ではない。完全に武装をしていたのだ。
武器を持ったゴブリンは何度も見たことがある。彼らが錆びた武器を手に襲い掛かる姿を見たことは冒険者なら誰でもあるだろうだけど……
『なんだあいつら、人間の真似事かぁ? 防具までしてやがるぞ。窮屈じゃねえのかよ』
「それだけじゃないわ……あいつらの見ている武器を見なさい……あれは明らかに整備されているわ」
「助けてくれぇ……こいつら、ただのゴブリンじゃねえ!!」
おっさんを追いかけてきたゴブリン達を見ながらシュバインとカサンドラが驚愕の声を漏らす。
「今は考えても仕方ない、とりあえずゴブリン達を倒すぞ。モルモーン、話が聞きたい。ゴブリンを一体生け捕りにしてくれ」
「了解した……ただ今は昼だからねぇ。説明をした通り、余計力を使ってしまうんだ。だから……」
「後で血をあげるよ!! ライム、おっさんを癒しておいてやれ」
ここに来る道中に聞いた話だが、モルモーンは吸血鬼であるがゆえに昼間は活動をするだけで、常に魔力を使用してしまうらしい。
最初に出会った場所や夜ならば大丈夫らしいが、昼間はスキルを一つ使うのも結構負担になるらしく俺の血を少し要求してきたのだ。まあ、あれだけのチートな力を持っているのだ。仕方ないだろう。
『どうせなら可愛い子がいいのになぁ……」
「ひえ……スライム……ギルドで見たことがあるが本当に癒してくれるんだな……」
俺はおっさんを背後に見ながら、カサンドラとシュバインの合間を縫ってきたゴブリンに斬りかかる。この程度の数ならば俺でも対応できると信頼されているという事だろう。
しかし、斬りかかってすぐに違和感に気づく。
『くっ、強い!!』
「こいつら剣術を知っているのか?」
そう、目の前のゴブリンを一般的なゴブリンのように武器を適当に振り回すのではなく、明らかに最適化された動きで斬りかかってきたのだ。
しかも、人間用の剣術ではなく、ゴブリンの体格に合わせた剣術を……とはいえ、まだ俺の敵ではない。俺は受け流して、そのまま体勢を崩したゴブリンに蹴りを入れる。
ふっとんだゴブリンはモルモーンの影によって拘束される。さて、カサンドラ達の援護を……と思った瞬間だった。
『同胞よ!! まだそいつらと戦うべきではない。引くぞ!!』
凛とした声が響き一匹のゴブリンが、美しい刀身の剣を掲げて命令をした。それと同時にゴブリン達はさっさと撤退していく。
明らかに別格なオーラを醸し出すゴブリンを見ているとモルモーンに肩を叩かれた。
「シオン……あれはおそらく、呪いの武具の一種だよ……ああ、反吐が出る」
そう言ってモルモーンは不快そうに顔を歪めるのだった。




