30.吸血衝動
記憶喪失……正直そう言われると、こちらとしてもお手上げである。魔王の墓にいたという事と、水晶に眠るモルモーンと瓜二つの美女の存在といい、彼女が只者ではないという事はわかる。
まあ、そもそもが吸血鬼自体がアンデット系の魔物の中では最高峰であり、只者ではないんだが……
俺は改めて、ライムを抱きしめているモルモーンを見つめる。言動こそ胡散臭いけど、彼女は嘘はついていない気がするんだよね。あの時はテンパっていたが、俺と話したいって言った時も本心だったと思うし……それ以降も俺達に害をなす事はしなかった。
「多分だけど、モルモーンは俺達が魔王と呼んでいる魔族……ゼウスっていうのと関係があると思うんだ。暴食もその仲間だしね……それに、ライムを見て暴食の事を思い出したんだったら、魔王ゆかりの地を見れば何か思い出すかもしれない」
『まあ、僕は暴食じゃなくてライムなんだけどね』
そうなんだよね……なぜライムを暴食と勘違いしたのか……単にスライム繋がりなんだろうか? 俺が色々考えながら悩んでいるとモルモーンと目があった。
「フフフ、シオン君は優しいねぇ、見ず知らずの胡散臭い吸血鬼の事を本当に真剣に考えてくれている。普通の人間だったら私をだまし討ちなりなんなりしてるだろうにね」
「まあ、なんだかんだ呪いの武具の奇襲から助けてもらったしね、それに困っているやつがいて、助けれるだけの力があったら助けるでしょ」
「ふぅん……君がなんで魔物と仲良くできているか分かった気がするよ」
そう言うと彼女は俺を興味深そうに見つめる。なんだろう……その視線からは珍しく彼女から一切のからかいが感じられずに、なんというかむず痒い……
『シオンが美人に見つめられて興奮してる……』
「別に興奮はしてねえよ!!」
「ああ、なるほどそう言う事か」
くだらない事を言うライムに俺が突込みを入れるとなぜかモルモーンは納得がいったとでもいうように手を叩く。なんかイヤな予感がするんだが……
「そういえばまだ胸をもませてなかったね……くぅ……世話をする代わりにとは中々鬼畜だねぇ……」
「誰もそんな事は言ってないよね? てか、むしろ揉まれたいのかよ!!」
こいつなんでやたらと胸をもませようとしてくるの? 既成事実でも作る気か? てか、今までのパターン的に触ろうとしたらカサンドラかアスが戻ってきて、ゴミみたいな目で見られそうである。
それに……こういうのはやはり彼女が出来てからすべきだと思うんだよね。
「はっはっはー、冗談だよ。君はそんな事をしなくても私を助けてくれそうだからね。私だって好きでもないやつに揉まれるのは不快だよ。あの時は私も必死だったのさ。まあ、遠慮なく君たちの世話になろう。その代わりと言っては何だが、君たちは冒険者なんだろ。私の力は有用だと思うぜ」
「ああ、もちろんだ。魔王の情報を探しながら冒険者をやっていくって事でいいかな。それで……モルモーンと俺らの関係はどうしようか……さすがにダンジョンで見つけたとは言えないしな……」
「ふぅん、そうだねぇ。生き別れになった姉が見つかったとかはどうかな?」
「いや、俺には義理の姉みたいな人がいるからちょっと……」
モルモーンの提案を俺は申し訳ないが断る。なんだろう、俺にとっての姉はアスしかいないのだ。そこは譲れなかった。
「君はその人の事を大事に想っているんだね、だったら妹はどうかな、シオンお兄ちゃん」
「うわぁ……なんか娼館でのプレイみたいだなぁ……」
「流石の私もその言い方には傷つくんだが……」
俺の言葉にモルモーンが傷ついたとばかりに唇を尖らせる。いや、でもさ、どうみても外見は俺より年上だし、実年齢も何百歳でしょ、絶対……そんな妹はなんかいやだな……
「まあ、昔世話になった人ってことでいいかな……しばらくはカサンドラと一緒の宿に住んでもらった方がいいだろう。何か困った点があったら言ってくれ。できる限り力は貸すからさ」
「ありがとう……じゃあ、さっそくだけどいいかな?」
俺の言葉に彼女は珍しく申し訳なさそうに言った。
「血をわけてもらえないだろうか……? 実はそろそろ限界でね……もちろん君の命にかかわる量じゃないから安心して欲しい。もちろん、君に対して変な影響もない。洞窟では蝙蝠とかの血を吸っていたんだがやはり人間が一番なんだよ」
「まあいいけど……あんまり痛くしないでくれると助かる」
「はは、まるで、ベットで、初夜に震える処女のような言い方だねぇ」
「お前血はいらないって事でいいんだな? 追い出すぞ」
「冗談だよ、ごめんごめん。では遠慮なく」
俺が了承すると彼女は俺を見つめながら口を開ける。その姿は美しい顔と、小さいけれど整った口、するどい犬歯と相まってなんとも官能的で思わず見とれてしまった。
「では失礼……」
彼女の艶めかしい息遣いと共に首筋に少しの痛みと共に何とも言えない感覚が襲う。だけどそれは不快ではなかった。むしろ気持ちいい。ずっとこうしてさえいたいと思わせるほどだった。
「宿は引き払っているし、街中を探したけどいなかったわ。今度会ったら問答無用でとっちめてあげましょう……って私が一生懸命やっている最中にあなたたちは何をしているのかしら?」
「「え」」
不機嫌そうに扉を開けてやってきたカサンドラは俺達を見て固まった。
血を吸っているモルモーンは俺の首に口をあてており、俺はそんな彼女をながめているわけで……はたから見ると、抱きあっているようにみえるよね……再びカサンドラの冷たい視線がおそった。
結局あの後誤解を解くのに無茶苦茶時間がかかったのだった。
第一巻が発売中です。興味があったら手に取っていただけたら幸いです。
続刊などはやはり発売最初の1週間が肝となるらしいのでぜひとも宣伝させて頂きたく思います。
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また、一巻にはカサンドラがシオンと会う前の話が5万字ほど書き下ろされているので興味があったら手に取ってくださると嬉しいです。




