25.モルモーンとライム
「はっはっはー、失礼……ちょっと取り乱してしまったようだねぇ」
「いや、ちょっとっていうレベルじゃないだろ……」
あの後、ライムに抱きしめていたモルモーン? は俺達を見て慌てて咳ばらいをして誤魔化すように笑った。ちなみにライムはいまだに彼女に抱き枕のように抱かれている。ライムと胸がぶつかりあってちょっと目の毒です。
「いってぇ」
「何を見てんのよ……変態。そんなことよりも確かめることがあるでしょ」
俺の視線に気づいたのか、カサンドラが足を踏んできやがった。俺悪くなくないか? という聞き替えたいがさらに怒られそうなのであきらめる。なんかアスみたいだなぁって思ったのはここだけの話である。
それはそれとしてここで二つ疑問が現れた。ヘルメスは彼女の存在を知っていたようだ。一体どういう関係なのだろう? そしてもう一つは……
「あなたモルモーンって名乗っていたわよね? ヘカテーって何かしら」
「ああ、私の名前はモルモーン=ヘカテーというようだ。かの有名な魔族ヘカテーの名を持つ吸血鬼なのさ。ああ、暴食は懐かしい……」
「へえー、じゃあそこのヘルメスとはどういう関係なのかしら? こいつはあなたの事を知っていたみたいだけど……」
「ああ、それなら俺から説明をしようじゃないか、文献を漁っていたら強力な魔族が、巨人の封印をしているって書いてあったんだよ。そして、ここにはアンデットばかりがいたから、その正体にピンと来たのさ。水晶の魔族の正体はヘカテー。死を扱うという魔族にて、アンデットの女王だよ。英雄譚にも出ているからシオン君も知っているんじゃないかなぁ? 吸血鬼たる彼女はその部下じゃないかな。それにしても、流石はシオン君だねぇ、アンデット系のトップである吸血鬼を仲間にしてしまうなんて……」
「じゃあ、巨人を封印している魔族っていうのは水晶の中にいるあのヘカテーなのか? 魔王の仲間にして、12の吸血鬼を従えていた伝説の吸血姫ヘカテーなのか?」
「まあ、英雄譚って言うのは基本的に誇張されるからね……彼女にそれだけの力があったかはわからないが、そのヘカテーじゃないかなぁ……」
俺の言葉にヘルメスは水晶を眺めると意味深ににやりと笑う。彼は何か俺が知らないことをしっているんではないだろうか? だけど聞いてもはぐらかされそうな気がする。とりあえずはモルモーンの事は置いておいて……俺は彼女に抱かれて困惑している様子のライムを見つめる。
「暴食ってあれだよな……」
カサンドラとデートで見た魔王の劇に登場したスライムである。彼は街よりも大きい強力で強大なスライムだったと言われている。全てを喰らいつくす、暴食を尽くしたスライムを魔王が仲間にする話は子供の頃にアスに読んでもらったことがある。
人違いならぬ、スライムちがいってやつではないだろうか? ライムとは結構一緒にいるがそんなやばいスライムだとは思えない。それにさ、ライムの一番の親友は俺なんだけどな。
「とりあえずいつまでもここにいても仕方ない。色々と状況も整理したいし、一旦ここから出よう」
「ああ……暴食ーー!! シオン君、私から盗るのはひどいじゃないかー」
『ああ、助かったよ、シオン……美人だけどなんかあの子って変な感じがするんだよね』
俺が胸のもやもやを解消するためにライムを奪い取ると、モルモーンが情けない声を上げた。ちょっとすっとする。
「そういえばシュバインは?」
「あのオークなら見張りをやってもらっているよ。カースドウェポン達を倒した後に入り口からアンデットが入らないように見張ってもらっているんだ。挟み撃ちになったら厄介だからねぇ。カサンドラちゃんは話し合う前にさっさと君を追いかけて行ってしまったけれど……
「私はその……シオンが心配だったのよ、悪い!?」
自分で言っていてちょっと恥ずかしくなったのか、カサンドラがなぜか半ギレで言った。その様子が可愛らしくドキッとしてしまい見つめているとなぜか睨まれた。理不尽じゃない?
そうして俺達はこの水晶の間を出ることにしたのだった
第一巻が昨日から発売です。興味があったら手に取っていただけたら幸いです。
続刊などはやはり発売最初の1週間が肝となるらしいのでぜひとも宣伝させて頂きたく思います。
作品名で検索するとアマゾンなどのページが出てきますのでよろしくお願いいたします。
また、一巻にはカサンドラがシオンと会う前の話が5万字ほど書き下ろされているので興味があったら手に取ってくださると嬉しいです。




