11.シオンVSテセウス
「ちょっと何でこんな事になってるのよ」
『シオンばっかりずるいぞ、戦いを楽しみやがって」
「うう……またアンジェリーナさんに怒られる……てか、俺は戦いたくないんだけどな!!」
『シオン……いいやつだったよ。童貞のまま死ぬなんて……』
「俺は死んでねー!!」
好き勝手言うパーティーメンバーに俺は怒鳴り返す。あの後待っているみんなに事情を話し、模擬戦の準備をしているのである。
『で、実際勝てるのかよ。仮にもBランクソロなんだろ。あと、あいつからは嫌な感じがするんだよな』
そうなんだよね、確かにこの間に緊急ミッションではいいところはなかったみたいだけど、あれはパーティーを組んだばかりの連係ミスだし、負傷したアタランテを守りながら無事に生き延びている時点でそこそこの実力はあるのだ。幸いなのは彼のギフトである『獣殺し』が俺には発動しない事だろう。シュバインは『獣殺し』の範囲に当てはまるからか本能的に危機を感じ取っているようだ。
実際のところ俺も彼の戦う姿は何回か見たことがある。実力はカサンドラやイアソンよりは下だが、俺よりは強い。まともに戦えばおそらくは勝てないだろう。だというのに……
「大丈夫よ、シオンなら絶対勝てるわ、私が教えた技もあるしね。あなたならなんだかんだ機転を利かせて勝つに決まってるわ。シオンの事を口だけとか馬鹿にしているやつがいてムカついてたのよね。ここであなたの実力をみせてあげましょ。安心してあなたは強くなったもの」
俺の相棒は俺の勝利を疑っていないらしく、満面の笑みを浮かべながら俺を見つめてくる。うおおおお、このプレッシャーやばいね。でもさ、カサンドラのほどの実力者が言うんだ。勝ち筋はあるんだろう。あるよね?
「シオン……大丈夫? ごめん……面倒な事になっちゃたね……でも、シオンが馬鹿にされているのは許せなくて……」
どうやらアスもここまでの事になるとは思ったいないようでへこんでいるようだ。無表情だけど感情が無いってわけじゃないんだよね。俺はそんなアスに優しく声をかける。
「大丈夫だよ、アス。それよりもこっちに来てて平気かな? あの二人と気まずくならない?」
「心配してくれてありがとう……私はシオンの方が大事だから……」
「テセウスの馬鹿ー!! アスさんも絶対怒ってるじゃない。これじゃあ、大好きなアスさんに嫌われちゃうよ!! いいの? 私は別にどうでもいいけど! ああ、こんな厄介な事になるなら森でぬくぬくしてればよかったぁ……」
「アタランテ、ごめんちょっと黙って!! アスさん違うんです。彼女の言う好きっているのは先輩冒険者として尊敬しているっていう意味でして……ああ、くそ、何ていえばいいんだろう。こういう時……」
アタランテの言葉にテセウスが顔を真っ赤にしている。お、これはもしかしてテセウスのやつはアスの事が好きなんだろうか? そう思ってアスを見たがテセウスの事はガン無視である。鈍感すぎない? ちょっと反応してあげなよ。
「それに、安心して………私がいるから……法術でサポートするね……」
「いや、ちょっと待ってください!! アスクレピオスさんのは強力すぎてずるいですよ。あ、俺にもかけてくれたりは……」
「……やだ……シオンにしかかけない……」
懇願するようなテセウスの言葉をアスは冷たく拒絶する。大丈夫かな、あいつこの世の終わりみたいな顔しているんだけど……でも、アスには悪いけど、これは俺が舐められないようにするための戦いでもあるんだよな。
「テセウスお互いアスの法術とかは無しにしよう。それならイーブンだろ? その代わり戦闘開始後ならなんでもありだ」
「いいんですか、後悔しても知りませんよ? その……ありがとうございます」
俺の言葉にほっとしたように一息ついた。ふふ、これで計画通りである。アスの法術で勝っても意味はないからね。
「シオン……でも……」
「アス、シオンを信じてあげて。ゴルゴーンの里でも彼は無事勝利を収めたでしょう」
「わかった……カサンドラはシオンを信じてるんだね……ちょっと悔しい……」
「そうね、でもアスが心配してくれているからシオンも無茶できてるのよ、ね、シオン」
「なんかムチャクチャはずかしいんだけど……その二人ともありがとう」
二人が俺の事を想ってくれているのがわかって顔が赤くなる……俺の羞恥の気持ちは軽薄な声によって、さえぎられる。
「さあさあ、『群団』と『アルゴーノーツ』のエース対決だよぉ、どちらに賭けるか決めてね」
「お前はどっちにかける?」
「落ち目のアルゴーノーツか……でも『群団』もカサンドラならともかくシオンだしなぁ……」
「てか、シオンのやつなんで二人の女の子をはべらしてんだ。むかつくな」
「うおおおお、テセウスあの童貞ハーレム野郎をぶっ倒してやれ!!」
「そうだー、アンジェリーナさんともデートしたらしいじゃねえか、死ね!!」
「テセウス頑張れー、お前ならできるって信じてるぞ。」
なんかひどい言われようじゃない? てかなんでヘルメスが仕切ってんの? あいつのせいでこうなっているんだけど……
そうして俺とテセウスは戦うことになったのだった。




