堕ちた英雄 9
俺が目を覚ますと、何やら暖かいものに包まれているのを感じた。。なんだろうと身をよじると柔らかい感触に一瞬体がびくっとする。どうやらメディアが俺の寝床に入っていたようだ。最初は驚いていたが時々あることなのでもう慣れた。ちなみに彼女とは肉体関係はない。いや、手をだしたら絶対やばいってことくらい俺だってわかる。一生面倒を見る覚悟があるのなら話は別だが……俺がため息をついているとメディアが目も覚ましたのか、寝ぼけた顔をしながらも話しかけてきた。
「大丈夫ですか、イアソン様。うなされていましたが……心配のあまり見守っていたのですが、いつの間にか寝てしまったようですね。申し訳ありません」
「なんでもない、ちょっと昔の夢を見て嫌な事を思い出しただけだ」
いや、絶対嘘だろ。既成事実を作る気だっただろ……それにしても、昼間の事があったからか嫌な夢を見てしまった。あまり話したいことではなかったので俺があいまいに誤魔化すと何を勘違いしたのか、メディアは俺にすがるように抱きついてきた。彼女の熱い吐息が胸元が俺にかかる。
「シオンの事でしょうか? 彼がいなくてもあなたには私がいます。私がシオンの分も働きます。私はあなたを裏切らない、絶対です。だから、私をみてください。私だけをみてください」
「ああ、俺はお前を信じているよ、メディア。お前が……俺を英雄と認めてくれたのだから……俺は俺を信じてついてきたものを見捨てはしない」
「はい……私にはイアソン様しかいないんです」
俺の胸元で縋りついているメディアを俺の髪を優しくなでてやる。彼女もまた、シオンを追放して俺達が落ちぶれたことに対して、後悔をしているのだろう。正確に言えばシオンを追放したことではなく、俺達が落ちぶれたことにだけだが……
メディアはシオンやアスと仲が良いとは言えなかった。というか彼女は仲良くなろうとはしなかった。シオンが優しく声をかけても、アスが不器用に歩み寄ろうとしてもだ。彼女が『アルゴーノーツ』にいたのは俺を慕っていたからだ。そもそも、彼女がシオンを無能だから追放しようと言い始めたのも俺が彼女にそう愚痴っていたなのかもしれない。
この女は俺の事しか見ていない、俺を本物の英雄と思って接してくる。俺を自分の英雄だと思って接してくる。ならばその期待に応えるのは英雄としての義務だろう。
彼女は元々優れたギフトを持っていたが、自分の魔術を制御できなくて、どこのパーティーにもいれてもらえなかったのだ。そして悪評が広がり一人で魔術の練習をしていた所を俺がギフト目当てで声をかけて、煽りながら色々アドバイスをしていたらしばらくして、制御できるようになり、それ以来こんな風に懐かれている。そして彼女は俺のパーティーに入りたいと志願してきたので了承をしたのだ。
「安心しろ、俺はお前のそばにいてやるよ。お前を捨てたりはしないさ」
「ふふ、今日はお優しいのですね……」
「ふん、うるさい。さっさと寝ろ」
「はい、おやすみなさい。私の英雄」
一瞬驚いていたメディアだったが、彼女は嬉しそうに笑って目をつむった。きまぐれで優しい言葉をかけてやっただけなのに本当に幸せそうな笑みを浮かべる彼女をみて俺は思う。あの時の俺は本当に正しかったのだろうか? 発破をかけるだけではなく、シオンにあの時優しい言葉をかければ何かが変わったのだろうか。あいつを信じ切れなかったのは俺ではないのだろうか。もやもやとした気持ちを抱えながら俺は目をつぶるのであった。でも、優しさに価値はあるのだろうか? 優しいくすれば舐められるのだ。
ああ、でもそうだ。俺は父の事を無能だとは思ってはいるけれど、嫌いではなかったのだ。むしろ好きで誇りに思っていたのだ。いつも優しい笑顔を浮かべていた事を俺は今でも思い出せる。俺がいたずらをして母に怒られた時に、父に優しい言葉をかけられて俺は嬉しかったのを覚えている。父は英雄ではなかったけれど俺は好きだったのだ。
メディアとイアソンの関係でした。




