堕ちた英雄7
結局ケイローン先生が何を言いたいのかよくわからないまま特訓はしばらく続き、彼らの体力をつけるためのランニングと剣術の特訓をしていると予想外の事がおきた。
「ははっ、どうしだアレクそんなもんかよ」
「く……フィフス強すぎるよ……」
剣術の特訓をはじめてしばらくしては互角だったが、今ではフィフスがほとんど勝利を収めている。理由は簡単だ。彼のスキルが発現したのだ。『初級剣術』は剣術スキルとしては基本だが、それがあるとないとでは天と地ほどの違いがある。同様の特訓をしていたというのに、フィフスの方が圧倒的に上達しているのだ。ちなみに本来スキルの有無は冒険者ギルドで、ギルドカードを使ったりしないとわからないのだが、ケイローン先生は鑑定のスキルを持っているのでわかるのだ。俺やシオン、アスが冒険者ギルトに行く前に自分のスキルを知っていたのはそういう理由である。
「すいません、ちょっと休んできます」
「おい、アレク……」
何度目かの敗北をしたアレクは俺達に顔を背けて歩いて行った。まあ、あれだけ負けたのだ悔しいのだろう。俺はそれを追いかけようとしたフィフスを止める。
「行ってなんて声をかけるんだ? 才能がなければそれ以上にがんばればいい。それができないならさっさとあきらめた方がいい。自分で立ち上がれないようだったら、またいずれ……」
俺の言葉にフィフスはこちらをにらみつける。ガキに睨まれた程度ではひるまないがその瞳に強い怒りの感情を感じた。そしてフィフスは俺に対して叫ぶように言った。
「つらい時は声をかけてもらいたいに決まってるだろ!? 俺はアレクの幼馴染なんだよ、あいつの事は俺がなんでも知ってるんだ!!」
「そんなん馴れ合いだろうが……その程度の試練を乗り越えらなければ冒険者になってもさっさと死ぬだけだぞ。それに……幼馴染だからってなんでもわかるわけがないだろう……」
「だからって、へこんでいるのに放っておけるわけないだろ!! 誰もがみんな勝手に立ち上がれるほど強くはないんだよ」
「何を言ってやがる……優しくするだけで人は強くなれないし、甘えるだけなんだよ」
俺は駆け出していくフィフスの姿が見ながらひとり呟く。才能が無ければ努力をすればいい。才能があるのならば伸ばせばいい。それだけの事だ。最後に自分が信じられるのは自分の力なのだから……幼馴染だろうが、何だろうが、絶対にわかってくれるものは数少ないのだから。あの時のシオンの気持ちがわからなかったように……
「子供たちの様子はどうですか? 順調でしょうか?」
俺が舌打ちをしていると、ケイローン先生がやってきた。柔和な笑みを浮かべているが騙されてはいけない、この人は喰えないところがあるからだ。どうせ、さっきのやり取りも見ていたのだろう。
「順調そうに見えますか? だいたい。あのガキ達と俺やシオン、アスを重ねて俺の行いを反省しろとでもいいたいんでしょう」
「さあ、どうでしょう? でも、彼らとあの子たちは全然違うじゃないですか。考えすぎですよ」
「く……とりあえず、俺はあいつらを追いかけてきます」
すっとぼけたケイローン先生に、俺は多少のいら立ちをかんじながらもガキ共のところへと向かった。そして、歩きながら俺は思った。シオンのやつが自分の才能に伸び悩んでいるという事はわかっていた。あの時、優しい言葉をかければ何か変わったのだろうか? いや、それじゃあ、ダメだろう。そんなものは馴れ合いにすぎない。あいつとアスの三人で誓ったのだ。ともに英雄になるのだと。ならばあいつはこの試練を自分で乗り越えるべきだと思った。なのに、あいつはサポートに回るとかいいだしたのだ。あいつは俺の横ではなく、後ろを歩こうとしたのだ。だから、メディアの提案に乗った。シオンを追放すると言えば、あいつだって考え直すに違いない。だって俺達はずっと一緒だったから……アスに話せば絶対反対されると思っていたから彼女のいない間に決行することにした。
そして結果はこのざまだ。あいつは本当に追放を受け入れやがった。悔しそうな顔はしたけれど「しょうがないな」って顔で受け入れやがったのだ。俺達は英雄になるんじゃなかったのかよ。勝手だということはわかっている。今、思えばあいつはずっと追い詰められていたのかもしれない。それでもすぐに戻ってくるだろうと思っていたらあいつは新しいパーティーを組んでやがった。しかも、その相手と本当に楽しそうに笑っていて……その顔は最近はみせなかった笑顔だった。それをみた俺は何かがこみあげてくるものを感じて、思わず声をかけてしまった。
「くそが!! 結局俺はどうすればよかったっていうんだよ、人に優しくしても甘えるだけだろうが!!」
優しいだけではダメなのだ。俺はそれを誰よりも知っている。だから俺は叔父の様になろうとしたのだ。優しい父の様にではなく、あの大っ嫌いな叔父の様に……だけど、結局俺に残ったのはメディアだけだった。それでも俺は……俺の目的のために英雄にならなければいけないのだ。俺は追放された故郷の事を思い出しながらガキ共のところに向かうのであった。
第三章も書き始めているのでもう少々おまちください。




